次回来店のための餌をまく。導線つくり
店を出て、帰り道。博子――中身は博之は、スマホを取り出した。
今日の成果は、数字だけじゃない。
“次につながる余地”を、三人分、ちゃんと作れたことや。
まずは、清掃会社の社長。あの人には、余計な装飾はいらない。
――今日はありがとうございました。
――お話できて、すごく嬉しかったです。
少し間を置いて、続ける。
――もしよかったら、次は同伴でご一緒できたらなと思ってます。
――揚げ物お好きって言われてましたよね。
ここで、具体を出す。
――トンカツしか出さない店があって、
――カウンターだけなんですけど、
――一人2500円くらいで、衣にすごくこだわってるんです。
“安い”。“でも、雑じゃない”。清掃の仕事をしている人間に、
分かりやすく刺さるポイントだ。高級でもない。
映えもしない。でも、揚げ物好きなら、間違いなく響く。
――よかったら、そこで軽く食べてから、
――一緒にお店、来ていただけたら嬉しいです。送信。
これでいい。派手さはない。でも、この人は「分かってくれてる」と感じる。
次は、本日同伴した税理士の先生。
――今日はありがとうございました。
――約束してたランチ、今度行けたら嬉しいです。
ここは、少しだけ“きれい”にする。
――グランフロントに、
――魚が美味しいお店と、
――小籠包がすごくちゃんとした店があるんです。
――先生どっちが好みですか?
選択肢を出す。決定権は、相手に渡す。
さらに、余白。
――食後、
――グラングリーン少し散歩しながら、
――コンビニコーヒーでもいいですし、
――ホテルのラウンジでお茶でも。
“予定を詰めすぎない”。昼の時間帯は、これが正解や。
先生は、夜より昼の方が、話しやすい。お金の話も、気楽にできる。
それを、ちゃんと分かっていることを示す。
最後は、不動産会社の社長。
この人には、“売りたい側の話”をさせすぎない。
――この前のお話聞いてて、
――ワンルームマンションの営業、
――時々電話かかってきたの思い出しました。
――それでふと思ったんですけど、
――最近、築古戸建の方が
――土地が残る分、良さそうにも感じて。
“断定しない”。“教えてもらう形”。
――実際どうなんですか?
――プロの目線で聞いてみたいなって。
これは、軽いジャブや。
否定じゃない。挑発でもない。
“考えてる人間”だと伝えるだけ。
三人とも、狙いは違う。でも、共通しているのは一つ。
次に会う理由が、はっきりしていること。
高い店じゃない。派手な演出でもない。
相手の仕事。相手の生活。相手の好み。
そこから逆算した店選び。博之は、ふと思う。
生前、自分が客だった時、一番嬉しかったのも、これだった。
「分かって選んでくれてる」その感覚があるだけで、財布は、自然と開く。
無理に開かせる必要はない。
まずは、同伴。次に、本指名。その先に、ボトル。
順番を間違えなければ、関係は切れない。
スマホをポケットにしまい、
博子は、ゆっくり歩き出した。
派手な音はしない。でも、確実に、歯車は噛み合ってきている。
北新地で生き残るには、一発の勝ちじゃない。
“また会いたい”を、何度、積み重ねられるか。
博子――中身は42歳の博之は、
その手応えを、はっきりと感じていた。




