コンカフェを出てタクシーに乗る弁護士先生。やっぱり引き出しを持っている博子さんは楽しい
メイド風コンカフェを出て、タクシーに乗り込むと、
弁護士先生はまだ少し興奮が抜けきらない様子だった。
「いやあ……なんか、会計士の先生と同じ流れになってますね。」
博子は窓の外を見ながら、くすっと笑う。
「ですよね。あの人も最初は半信半疑でしたけど、最後はめちゃくちゃ楽しんでました。」
先生はチェキを財布からもう一度取り出して、まじまじと見る。
「正直、こういう世界、全然知らなかったんですよ。仕事柄、
合理的な場所しか行かないし……。でも今日みたいなのは、なんか心が軽くなる。」
博子は頷く。
「引き出し増えましたね。」
「博子さん、やっぱり引き出し多すぎますよ。こんなに遊び方知ってる人といると、
楽しいに決まってる。」
またか、と思う。会計士の先生も同じことを言っていた。
博子は少しだけ真面目な声になる。
「でも、それに甘えたらあかんのですよ。」
「え?」
「私はキャバ嬢ですから。引き出し持ってないと生きていけへん立場なんです。
お客さんが楽しめるように準備して、回して、空気作って。それが仕事。」
先生は静かに聞いている。
「だからね、私が楽しいのは当たり前なんです。それを基準に一般の人を見たら、
たぶん婚活うまくいかへん。」
「……耳が痛い。」
「ちゃんと一緒に“作る”相手じゃないと。遊びも、生活も。どっちかが全部用意する関係は、
結婚には向いてないですよ。」
タクシーの中に、少しだけ静かな空気が流れる。
「でも、もしどうしても描けへんかったら。」
博子は軽く笑う。
「そのときは私と遊んでください。私は喜びますから。」
先生がクスッと笑う。
「それは逃げ道ですか?」
「保険です。」
「弁護士に保険を勧めるんですか。」
「保険は大事でしょ?」
ふたりで小さく笑う。
店の前に着き、タクシーを降りる。先生は深呼吸をして言う。
「今日は本当にありがとう。また……お願いします。」
「こちらこそ。次はまた違う引き出し出しますね。」
店に入ると、黒服がすぐに寄ってくる。
「おかえり。今日もありがとうな。」
「いえいえ。」
「ほんま、途切れず同伴持ってきてくれるからマジ助かるわ。店としてもありがたい。」
博子は小さく会釈する。
「私も売れないときに助けてもらってますから。」
更衣室に入り、ドレスに着替える。鏡の前に立つと、ほんの少しだけ疲れが顔に出ている。
でも目はまだ光っている。
さっきまでコンカフェでガチャガチャしていた空気とは違う、静かで重たい店内の空気に戻る。
――切り替えや。
引き出しを閉じて、また別の引き出しを開ける。
黒服がドアをノックする。
「はーい。」
ヒロコは最後にリップを引き直す。
今日も一つ、関係を積み上げた。楽しい時間も、釘を刺す時間も、全部仕事の一部。
「さあ、もう一回戦。」
ドアを開けて、博子はフロアへと歩き出した。




