弁護士先生、初めてのコンカフェ同伴。新鮮な刺激にテンション上がる
泉の広場で待ち合わせをして、地下街を抜けて店の前に立つと、弁護士先生は少しだけ足を止めた。
「ここですか……?」看板には“メイド風コンカフェ”の文字。ピンクと白のやわらかい色合いに、
少しだけ気恥ずかしそうな顔をする先生を見て、博子はくすっと笑う。
「大丈夫ですって。キャバクラより健全かもしれませんよ。」
扉を開けると、明るい声で「おかえりなさいませ、ご主人さま!」と迎えられる。
先生は一瞬固まるが、すぐに観念したように小さく笑った。
「これは……新鮮ですね。」席につくと、リーダーが丁寧に説明をしてくれる。
「本日は初めてセット。ワンタイム60分で2,800円。オムライス、メイドさんのドリンク、
チェキ1枚込みになります。ツーショットチェキはプラス500円です。」
「安っ……」と先生。博子が横からすかさず言う。
「ほら、ツーショット撮りましょうよ。せっかくなんですから。」
「え、いや……それは……」
「撮らな後悔しますよ。こういうのは体験込みですから。」
押され気味の先生に、メイドさんがにこにこしながら「ぜひぜひ〜」と畳みかける。
観念した先生は「じゃあ……ツーショットで」と小さく手を挙げた。
「よし、えらい。」
博子は満足げに頷く。
注文はオムライスとメイドさんドリンク、自分のドリンク。博子は追加で外のケータリングを頼む。
「カリトロのたこ焼きもお願いします。6個入り2つ、900円、塩とポン酢で。」
「たこ焼き?」
「ここら辺で一番うまいですよ。カリトロ。外カリ中トロ。ほんまに。」
しばらくして、たこ焼きが外の提携店から運ばれてくる。香ばしい匂いが広がり、
先生の顔がほころぶ。
「これは……うまい。」
「でしょ? キャバクラで出てくる高級フルーツよりテンション上がるんですよ、私は。」
店内はガチャガチャしている。隣の席ではオタ芸の掛け声。
別のテーブルでは誕生日ソング。キャバクラの静かな照明とは真逆の、明るくて騒がしい空間。
先生はきょろきょろと見渡しながら言う。
「キャバクラとは全然違いますね。あっちは静かに話す感じですけど、
ここは……文化祭みたいだ。」
「そうそう。お金で空気を買う場所じゃなくて、空気に混ざりに来る場所って感じ。」
オムライスが運ばれてきて、メイドさんがケチャップで絵を描く。
「何描きますか?」
先生が少し考えてから言う。
「ワンピースのチョッパーで。」
博子が吹き出す。
描き終わると、「おいしくなーれ、萌え萌えきゅん♡」の掛け声。
先生は最初こそ戸惑ったが、最後はちゃんと小さく手を合わせていた。
「これ、仕事では絶対経験しないですね。」
「でしょ? 先生、普段ロジックと証拠で戦ってるでしょ。たまには非合理の世界もいいですよ。」
チェキを撮るとき、先生は少し緊張した面持ちでポーズを取る。出来上がった写真を見て、
照れながら笑った。
「意外と楽しいですね……。」
「やっぱり。こういうのは一回やったら価値わかるんです。」
頼んだドリンクを飲みながら、先生はぽつりと言う。
「博子さんが勧める理由、わかる気がします。遊び方を知ってる人と来ると、全然違う。」
博子は肩をすくめる。
「私はガイドしてるだけですよ。楽しむのは先生です。」
ガチャガチャした空間の中で、先生の顔はいつもより少し柔らかい。
キャバクラで見る“整える顔”ではなく、純粋に楽しんでいる顔。
「安いし、楽しいし、勉強になる。なんか……悔しいですね。」
「悔しい?」
「今まで知らなかったのが。」
ヒロコはたこ焼きをひとつ差し出す。
「まだまだありますよ、遊びの引き出し。今日はその第一歩です。」
時間が近づき、ワンタイムが終わる頃、先生は名残惜しそうに店内を見渡す。
「これは……また来たくなりますね。」
「でしょ? キャバクラとは別腹です。」
ガチャガチャした空気の中で、先生のテンションは確実に上がっていた。
新しい世界に触れた子どものような顔で、チェキを大事そうに財布にしまう。
「今日は本当に来てよかった。」
博子はにやりと笑う。
「だから言ったじゃないですか。安くて楽しい。これがコンカフェの正義です。」




