5月2週目。月曜日。弁護士先生とコンカフェ同伴
月曜日の朝は、目覚ましを止めたあともしばらく布団の中にいた。
日曜日の晩、実は博子はひとつ種を蒔いていた。
弁護士先生に、ふらっと。「コンカフェ、どうですか?」
それと同時に、コンカフェのリーダーにも軽く打診していた。
「また別の先生連れて行っていいですか?」
ガチガチの営業ではない。あくまで“流れの中”での提案。
返ってきた弁護士先生の返信は、意外にも前のめりだった。
「その話、面白かったから一回行ってみたいと思ってたんですよ。」
しかも、スケジュールも調整できそうだという。
「士業のいいところやな。」
博子はひとり笑う。
弁護士という肩書きはあるけれど、基本は個人の裁量で動ける。
組織の縛りが強いタイプではないから、平日夕方のフットワークも軽い。
こういう“時間を動かせる人”は、実は扱いやすい。
朝はとにかく整える。先週の土曜日の被り、日曜のやりとり、
先週金曜のチーム同伴――身体の奥にじんわりと疲れが残っている。
「今週はペース落とす。」自分に言い聞かせる。
水曜日はおじいちゃん固定。
金曜日は清掃会社の社長に連絡かな。
土曜日はまだ白紙。
火曜日は――休む。
ここが大事だ。
「同伴や指名が入ったら行く。でも基本は休み。」
自分で線を引く。
売れ始めたときほど、休みを作らないと崩れる。
午後、布団から出て軽くストレッチをする。シャワーを浴びて、
ゆるく整える。あくまで“コンカフェ同伴”。
弁護士先生とは、泉の広場で待ち合わせ。
梅田の地下のあの空気は、なんとも言えない緊張と日常が混ざる場所だ。
「久しぶりに普通の待ち合わせやな。」キャバクラの店前同伴とは違う。
あの緊張感ではなく、どこかデートに近い空気。博子は少し早めに着く。
泉の広場の噴水前。スマホを見ながら、周囲の人の流れを眺める。
弁護士先生がやってくる。スーツ姿だが、どこか軽い表情。
「すみません、待たせました?」
「いえ、今来たところです。」
よくあるやり取り。でも、店の中とは違う距離感。
「ほんまにコンカフェ行くんですね。」
「博子さんが言うから、どんな世界なんやろうって。」
少し楽しそうだ。博子は歩きながら説明する。
「普通のコンカフェと違って、あそこは常連さんとの距離感が面白いんですよ。
嬢と客のやりとりもそうやし、常連同士の空気とか、トラブルとかも
含めて“リアルドラマ”が見れるんです。」
「S席で観劇する感じですね?」
「そう、それ。」
先生は頷く。
「キャバクラはプレイヤーですけど、コンカフェは半分観客でも楽しめる。」
「なるほど。」
こういう話を面白がってくれる人は、連れて行きやすい。
「婚活より楽しいかもしれませんよ。」冗談半分で言うと、先生は苦笑する。
「それは言い過ぎです。」
「でも、婚活って評価される場でしょ?コンカフェは、ただ遊ぶだけです。」
「それは楽やなあ。」
地下街から地上に出ると、夕方の風が少し涼しい。
博子はふと、自分のペースを確認する。
火曜日は休み。
水曜はおじいちゃん。固定
金曜は清掃会社の社長。わからんけど
土曜は未定。
「ちゃんと整えられてる。」
今週は無理しない。
売上を追うより、体を守る。
「最近、ちょっと人気出てきてるって言ってましたよね。」
先生が何気なく言う。
「ありがたいことに。」
「大変そうですね。」
「被りとか、調整とか。売れ始めてから初めてわかりました。」
「逆に立場が変わるんですね。」
「そう。お願いされる側になる。」
先生は少し考え込む。
「それは面白い構図やな。」
「先生もそうでしょ?案件選ぶ側。」
「まあ、そうですね。」
メイド風コンカフェの前に着く。
ドアの前で、博子は一瞬立ち止まる。
「ここからは観客モードで。」
「わかりました。」
ドアを開ける。今日は営業ではない。
あくまで“遊びの提案”。
そして、自分のペースを崩さない一日。




