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売れるキャバ嬢。売れ続けるキャバ嬢

荒い社長はグラスを傾けながら、ちらっとさきちゃんの背中を見る。

「さっきのカバー、すごいな。」博子は小さく頷く。

「そら人気の子ですから。」

「いや、マジで。俺、正直ヘルプってあんま好きちゃうねん。イライラすること多いし。

でも今日は楽しかったわ。」

博子は笑う。

「社長が私よりなだけですよ。」

「は?」

「さきちゃん、そつないし、空気読むし、普段から安定してます。社長の好みが私寄りってだけで、

すごい子やと思ってますよ。」

荒い社長は鼻で笑う。

「お前、ほんま他の子もちゃんと立てるな。」

「立てるというか、事実ですから。」

少し間を置いて、博子は続ける。

「ただ、売れると大変なんですよ。」

「何が?」

「かぶり、嫉妬、調整。最近まで売れてなかった私には、正直わからん世界やったんですけど。」

荒い社長は興味深そうに身を乗り出す。

「ほう。」

「同じ時間帯に指名が重なる。どっちを優先するか。どっちを待たせるか。

どっちにどう説明するか。そこに嫉妬が乗っかる。」

「めんどくさ。」

「めちゃくちゃめんどくさいです。」

博子は苦笑する。

「でも、その辺を継続して維持してる子は、やっぱり強いです。」

「どう強いんや?」

「感情のコントロールと、期待値の調整が上手い。」

荒い社長はグラスを止める。

「期待値?」

「はい。来たら必ず自分が一番やと思わせる。でも全員に同じことは言わない。

距離感を微妙に変える。」

「テクニックやな。」

「テクニックというか、設計ですね。」

ヒロコは指でテーブルをなぞる。

「シャンパン勝負やと思ってる子は、確かに瞬間風速は強いです。」

「やろ?俺もそうやと思ってた。」

「でも、そんな子は崩れるのも早いですよ。」

「なんでや?」

「お客さんの熱量に依存してるから。」

博子は静かに言う。

「煽って、開けさせて、盛り上がって。楽しい。でもその熱量が冷めた瞬間、空洞になる。」

「……。」

「自分の軸がないと、次が続かないんです。」

荒い社長は腕を組む。

「お前、よう見てるな。」

「見てますよ。売れなかった期間が長いから。」

博子は少し自嘲気味に笑う。

「暇な時期、ずっと観察してましたから。」

「なるほどな。」

「売れてる子は、売れてる理由がある。でも残ってる子は、もっと理由がある。」

「違いは?」

「派手じゃない。」

博子はグラスを持つ。

「ちゃんと“整えてる”。お客さんの気持ち、自分の体力、時間配分。全部。」

荒い社長はゆっくり頷く。

「博子は解説もしてくれるから助かるわ。俺、そんな目線で見たことなかった。

シャンパン勝負やと思ってた。」

「シャンパンも大事ですけどね。」

「お前は開けさせへんな。」

「必要な時だけです。」

二人で笑う。

「人気出てきて、どうなん?」

荒い社長が聞く。

博子は少しだけ本音を混ぜる。

「楽ちゃいます。」

「やっぱりか。」

「嬉しいですけど、常に誰かを少し待たせてる感覚がある。」

「罪悪感?」

「ちょっとだけ。」

「でもそれが商売やろ。」

「そうですね。」

博子は真っ直ぐ見る。

「だからこそ、社長みたいに、ちゃんと座って話聞いてくれる人はありがたいんです。」

荒い社長は照れたように笑う。

「お前、ずるいわ。」

「営業です。」

「でも嫌じゃない。」

しばらく沈黙。店内のざわめきが遠くに流れる。

「さきちゃんもええけどな。」

荒い社長がぽつり。

「せやけど、俺はやっぱ博子や。」

博子は困ったように笑う。

「好みの問題です。」

「お前ほどやないけど、そつがないって言うたやろ?」

「それが強さです。」

「お前は?」

「私はまだ調整中。」

「何を?」

「売れ方を。」

荒い社長は吹き出す。

「そんな言い方あるか。」

「ありますよ。」

博子は静かに言う。

「一瞬の人気じゃなくて、長く続く人気が欲しいんです。」

「欲張りやな。」

「崩れたくないだけです。」

荒い社長はグラスを持ち上げる。

「ほな、その長く続く人気に乾杯や。」

博子もグラスを合わせる。

(人気って、攻めじゃなくて守りやな。)

派手な勝負より、

崩れない設計。

そう思いながら、博子はまた次の会話を紡いでいった。

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