被りであたふたしている博子にアルカちゃんとさきちゃんが絶妙なフォローにはいる。
荒い社長の方から遺品整理の社長の席に戻った博子は、
空気の温度が一段下がっているのを感じた。
「ちょっと話、変えましょうか。」
そう言いかけた瞬間、社長がグラスを置く。
「やっぱ帰るわ。」
(あ、きた。)
博子が言葉を探すより早く、アルカちゃんが横から自然に入る。
「社長、この前ね――」柔らかい声。
「博子さんと私で、定期のお客さんとそのお付きの方と、4人で同伴させてもらったんですよ。
それぞれ別れて、あとで合流して。結構盛り上がったんです。」
社長が少しだけ目を向ける。「ほう。」
「博子ちゃんだけじゃなくて、私も混ぜてもらってね。もし社長のお知り合いの方とか
おられたら、そういう形で一回飲むのもありかもしれませんよ。」“種”だけ置いて、押さない。
(アルカちゃん、上手い。)遺品整理の社長は一瞬考える。
「それはそれでええけどな。」
少し間。「俺は博子ちゃんと飲みたいねん。」ストレート。
博子は小さく息を吸う。
「ありがとうございます。」視線を合わせる。
「今日のところは、これでお帰りいただいて。埋め合わせ、ちゃんとさせてください。
ゆっくり時間取れる日に。」「埋め合わせ?」
「はい。今日みたいにバタバタせずに。」
社長は博子をじっと見る。
「ヒロコちゃんが人気なんもわかった。」少し笑う。
「あのフォロー入れてくれる子がおるのもわかった。人望あんねんな。」
博子は照れたように首を振る。
「いや、チームで回してるだけです。」
「顔つぶされへんからな。」
グラスを空ける。「今日は帰るわ。」
あっさりと。ヒロコは立ち上がって見送る。
「ありがとうございます。本当に。」
社長は振り返る。「埋め合わせ、忘れんなよ。」
「忘れません。」エレベーターの扉が閉まる。
博子は一瞬、深く息を吐く。(人気出るって、楽ちゃうな。)
フォローしてくれる仲間がいるから回っているだけで、ひとつ間違えば誰かの気持ちを削る。
すぐに荒い社長の席へ戻る。
さきちゃんの笑い声が聞こえる。
「社長、それは完全に自業自得ですって。」
「お前も言うなあ。」二人、楽しそうに盛り上がっている。
博子は思わず心の中で手を合わせる。
(さきちゃん、まじありがとう。)
博子が席に戻ると、荒い社長がニヤッとする。
「戻ってきたやないか。」
「戻ります言うたでしょ。」
「さきちゃん、なかなかやな。」
「でしょ。」
「お前、ええチーム持っとるな。」
博子は小さく頷く。「一人じゃ回りませんから。」
荒い社長はグラスを持ち上げる。
「ほな、もう1セットいこか。」
博子は微笑む。
(今日は火消しと感謝の日やな。)
人気が出るということは、選ばれる回数が増えること。
同時に、断らなあかん回数も増えること。
でも、支えてくれる子たちがいる。
「さきちゃん、ほんまありがとう。」
「ええって。今度は私がかぶったら助けてな。」
「もちろん。」
荒い社長が笑う。「なんやその団体戦。」
「団体戦です。」
博子はグラスを合わせる。
騒がしい夜の中で、
ギリギリのバランスを取りながら、
それでもちゃんと前に進んでいる自分を感じていた。
(売れるって、しんどい。でも悪くない。)
そしてまた、笑顔を整えるのだった。




