疲れを指摘されたので早帰り。木曜日。完全オフにする。荒い社長と入れ違い
水曜日は、あえて早上がりをした。普段なら25時までいるところを、
23時で切り上げる。黒服に「今日はここで上がります」と伝えた時、
少しだけ名残惜しさはあったけれど、それよりも身体の方が正直だった。
——ちょっと、休まなあかん。売れ始めてからの数週間。
同伴が増え、指名が増え、設計も増えた。頭も心もフル回転。
「今日は帰ります。」そう言って店を出たとき、なんとなく胸が軽かった。
帰宅して、シャワーを浴びて、ベッドに入った瞬間、もうスイッチはオフ。
木曜日は整える日、と決めていた。ゆっくり寝て、ゆっくり起きて、体を回復させる。
そう思っていた。——が。
木曜日の朝。スマホが震える。黒服からのLINE。
「実は昨日、荒い社長来てまして…」
博子は一瞬、目を細める。「博子が帰ったって言ったら、普通に怒られました。
あとフォローちょっとお願いします…」はあ。それ、黒服さんがやる仕事ちゃうんかい。
と思いながらも、完全に無視できる相手ではない。
荒い社長は、距離を詰めに来るタイプ。悪気はないけれど、気持ちは熱い。
入れ違い。それが地味に効いたのだろう。
博子はベッドの上で天井を見つめながら、ため息をつく。
——やってもうたか。でも、帰らなあかん日やったんや。
自分に言い聞かせる。とはいえ、フォローは必要。
文面を整える。「昨日は体調が少し悪く、最近の疲れもあって早めに
帰宅させていただきました。入れ違いになってしまい、申し訳ありません。」
まずは素直に。「またゆっくりお話しできれば嬉しいです。次回お越しいただける
時間帯がわかれば、その時間は空けておきます。」責任を押し付けない。
でも主導権は渡しすぎない。送信。数分後、返信がくる。
「それは悪いな。こっちも事前に言うてなかったからしゃあないけど、
ちょっとキレてもうたわ。」
博子は思わず苦笑する。——キレてもうた、て。
黒服に「謝らなあかんやん」って言われるのも面倒やし。
とはいえ、怒る気持ちもわかる。
距離を詰めに来ている人にとって、“会えなかった”は痛い。
「本当にすみません。また改めてゆっくりお時間いただけたら嬉しいです。」
とだけ返しておく。深入りしない。謝りすぎない。でも誠意は見せる。
スマホを置いて、もう一度布団に潜る。——あんたが一番悩みの種やで。
心の中でぼやく。でも同時に、こういう熱量があるからこそ、場は動く。
だから完全に切ることもできない。
木曜日は、回復日。無理に外へ出ない。
午前中はゴロゴロ。午後から軽くYouTubeを何本かとる。
動画は流れで作れる。
8000本の積み重ねは伊達じゃない。
カメラを回し、さらっと一本撮る。
小説と違って、YouTubeは呼吸みたいなものだ。
FPのテキストを開こうとするが、文字が頭に入らない。
「今日は無理。」きっぱり閉じる。——自分を休めるのも仕事。
売れてきたからこそ、ここで崩れたら意味がない。
金曜日はアルカとチーム同伴。ダブル同伴の段取りもある。
そこを丁寧にやれば、また一本線がつながる。
焦らなくていい。今日は整える日。夕方、少し散歩に出る。
外の空気を吸って、深呼吸。博子は思う。
売れ始めて、怒られることも増え、期待も増え、
責任も増えた。でも、それは“前に進んでいる証拠”。
23時で帰ったことは、間違いじゃない。体を守れなかったら、全部崩れる。
夜、ベッドに入りながら。「明日は丁寧にやろ。」
そうつぶやく。木曜日は、戦わない日。
回復の日。整える日。静かに、木曜日は終わる。




