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清掃会社社長をお見送りしてから会計士先生がコンカフェ体験を楽しそうに話に来る

火曜日の夜。博子が卓につくと、会計士の先生はもう目がきらきらしていた。

「博子さん!行ってきましたよ、コンカフェ!」「おお、早いですね。どうでした?」

「めちゃくちゃ楽しかったです。あの“観察目線”で見るってやつ、

ほんまに世界変わりました。」博子はグラスを持ちながら微笑む。

「それはよかったです。でもまだ入り口ですよ。」「え?」

「まだ“コンカフェを楽しんだ”って段階です。」

先生は首をかしげる。「じゃあ、その先って何ですか?」

ヒロコは少しだけ身体を乗り出す。

「常連さんと嬢のやり取り、ちゃんと見ました?」

「いや…そこまでは。自分が喋るのに必死で。」「そこですよ。」

先生の目が丸くなる。「常連さんって、店の空気を作るんですよ。新規とは違う距離感で、

嬢と小競り合いしたり、ちょっと拗ねたり、助けたり。」「へぇ…」

「あとね、トラブルも見どころです。」「トラブル?」

「指名かぶりとか、ドリンク問題とか、さりげない牽制とか。ああいうのが“裏舞台”。

あれをS席で見れると思ったら、全然違う。」先生、ぽかんとする。

「そんな視点なかったわ…」「仲良くなっていく過程もありますよ。最初塩対応やった嬢が、

常連になるとちょっと優しくなる瞬間とか。」「うわ、それ見たい。」

「だからまだ楽しめてないんですよ、先生。」

博子はさらっと言う。先生はしばらく考え込んでから、急に笑い出した。

「それ教えてもらっただけでも、今日来た甲斐ありますわ!」

そして黒霧島を一本おろす。「今日はゆっくり聞きたい。」

博子は少し苦笑する。「別に私が正解持ってるわけじゃないですよ?」

「いやいや、視点が違うんです。」グラスを合わせる。

そこからは早かった。先生はコンカフェでの出来事を細かく話し出す。

あの子はどうやった、常連はこうやった、あの瞬間ちょっと空気変わった気がする——

博子は相槌を打ちながら、時々軌道修正する。「それはね、嬢が試してるだけですよ。」

「試す?」「どこまで来るか。どこで引くか。」「怖…。」

「怖くないです。ゲームです。」先生は腹を抱えて笑う。

1セット目があっという間に終わる。延長。

2セット目も会話が止まらない。先生は途中でぽつりと呟く。

「博子さんがいなかったら、ここまで楽しめてないと思います。」

博子は一瞬だけ真顔になる。「それはあかんですよ。」「え?」

「私が正解ありきになったら、いざって時困りますよ。」

先生は少し黙る。「コンカフェも、キャバも、遊びも、最終的に楽しむのは先生自身です。」

「…」「私のフィルター通さなくても楽しめるようにならないと。」先生は苦笑する。

「でもなぁ、博子さんの解説付きは面白い。」「それはオプション料金です。」

「高そうやな。」「高いですよ。」また笑いが起きる。ヒロコは内心で思う。

——あかん、楽しそうすぎる。頼られるのは嬉しい。けれど、依存は作りたくない。

「先生、遊びは自分で育てるもんです。」「育てる?」

「最初は種。何回か通って、水やって、観察して、やっと花咲く。」

「博子さん、ほんま比喩うまいな。」「商売ですから。」

2セットは本当に一瞬で終わった。送り際、先生は満足そうだった。

「今日はめちゃくちゃ収穫ありました。」

「コンカフェ研究、続けてください。」「報告しに来ます。」

「報告はええです。自分で消化してください。」そう言いながらも、ヒロコは笑っていた。

——まあ、楽しそうやしええか。黒霧島の残りを眺めながら思う。

正解を教える女になるな。

それが崩れたら、この仕事は長続きしない。

先生の背中を見送りながら、ヒロコは小さくため息をつく。

「ほんま、呆れるくらい楽しそうやな。」でもその呆れは、どこか優しかった。

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