弁護士先生から別れ際にお手当もらう。一旦休憩後、清掃会社社長と和食同伴
川沿いで別れ際。弁護士先生が少しもじもじしながら鞄を開けた。
「博子さん」「はい?」白い封筒を、そっと差し出す。「これ、取っといて」
「いやいや、ランチでしたし、大丈夫ですよ」博子は一歩引く。
「いや、これはな、足代や。ほんまに」先生は少し真顔になる。
「婚活、マジで疲れるねん。精神削られる。査定される側になるって、
あんなしんどいと思わへんかった」苦笑い。
「でもな、博子さんが時間作ってくれて、こうやって話聞いてくれて、整うねん。頭が」
「整うって、サウナですか」
「ほんまそれや。整えてもらって、また頑張ろうって思える。だからこれは、払わせてくれ」
「……」 押し切られる形で、封筒を受け取る。中を覗くと、二万円。
「……助かります」正直な言葉が出る。借金の文字が、頭の片隅でちらつく。
「また来ますわ」「腹八分目でお願いしますね」「今日は八分目どころか、五分目やわ」
笑い合って、別れる。ヒロコは家に帰り、少しだけ横になる。
昼の光がカーテン越しに揺れる。
――二万。ありがたい。誠実なお金は、重みが違う。
少しだけゴロゴロして、夜の準備。夕方、清掃会社の社長と待ち合わせ。
暖簾をくぐると、出汁の匂いが広がる。
「楽しみにしとったんやで」社長は上機嫌や。
「花見、良すぎたなあ。あれ噛みしめながら生きてるわ」「そんなに?」
「ほんまや。あの空気、忘れられへん」芋の煮っころがしが運ばれてくる。
茄子の煮びたしも、出汁が光ってる。
「出勤日数増えとるみたいやし、負担かけたらあかんな思って、頻度減らしてんねんけどな」
「お気遣いありがとうございます」「どうなん? 今、忙しいんやろ?」
「同伴はうまく回り始めてます。ただ、企画系とか、先々の話は全然余裕ありますよ」
「遅い時間は?」「遅い時間は大丈夫です」
「いや、逆に遅い時間はかみさんおるやろ?」
「……噛み合ってないですね」 二人で笑う。
社長は真面目な顔になる。「かぶりになったら、ヒロコはどうするんや?」
「正直、まだ戸惑います。どう立ち回るか、完璧には決めきれてない」
「チーム組むとか?」「それも考えてます。サブで入ってくれる子と回すとか。
でも実際やってみないと、わからないですね」 社長は頷く。
「売れてなかった時期が長かった言うてたな」「長かったです」
博子は箸を止める。「その間、みんな一人一人丁寧に向き合ってたんです。
だから今、急に増えてきて、ちょっと難しくなってます」
「そらそうや。急に回転数上がったら、エンジン焼きつくで」「ほんまそれです」
「最近のキャバクラはな、勝ってる子とそうでない子の差が激しい。集まる子は、
ほんまに集中する」「怖いですよね」「せやけどな、体だけは気ぃつけや」
社長はゆっくり言う。「売れてる時こそ、壊れる」「肝に銘じます」
芋がほろりと崩れる。「ヒロコはな、今ええ流れや。せやけど、焦るな。無理せんでええ」
「ありがとうございます」「俺はな、花見のヒロコが好きや。あの自然体」
「今日は自然体じゃないですか?」「今日はちょっと経営者やな」
ヒロコは笑う。
「昼は弁護士先生の婚活の悩みを整えて、夜は社長に私が整えてもらってます」
「うまいこと言うなあ」酒が進む。
二時間、ゆっくり話す。
仕事の話、現場の話、若い社員の愚痴。
「ヒロコ、今難しくなってきてる言うてたけどな」「はい」
「それはええことや。選択肢増えたってことやろ」「まあ、そうですね」
「迷うのは、余裕ある証拠や」 社長の言葉は、地に足がついてる。
「かぶりが出たら、正直に言え。無理やったら無理って」
「言えますかね」「言える女や、お前は」
ヒロコは少し黙る。――売れなかった時間が、今を作ってる。
「社長、ありがとうございます」「何がや」
「こうやって、ちゃんと話してくれること」
「そら来るわ。ヒロコと飲むんは、コスパええからな」「またそういう」
店を出て、夜風に当たる。
北新地へ向かう道。「今日も店、頑張れよ」
「はい」「体、ほんま気ぃつけや」「社長も」
二人で歩きながら、店の灯りが見えてくる。
売れてきた実感と、不安。ありがたいお金と、責任。
――積み上げや。焦らず、削らず。
ヒロコは、小さく深呼吸して、店の扉を開ける。




