税理士先生と2対2の同伴が金曜日仮押さえ。ワンセットで帰宅頂きフリー卓に回る。
税理士先生の席で、博子はさらっと投げた。
「金曜日の晩、よかったらどうですか?先生と、あの保険会社の方と」
「予定聞いてみるわ。いけそうやったら、そうする。」
「じゃあ、仮押さえしときますね」
税理士先生はワンセットでご帰宅頂き金曜日の同伴に備えていただく。
博子はお見送り後にすぐにアルカへメッセージを飛ばす。
《金曜、税理士先生+保険会社さんで動くかも。予定どう?》
《聞いときますね!》 短いやり取り。でも、これで流れは作れる。
種を蒔く。芽が出たら育てる。それだけや。
ひと区切りついたところで、博子はフリー卓へ戻る。
ゴールデンウィーク前の月曜日。歓迎会終わりの二次会組が流れてくる時間帯や。
黒服が目で合図する。「博子、あっちヘルプ」「はい」
久しぶりに、完全フリーの空気に入る。さっきまで指名卓をバンバン回してたから、
テンポも自分主導やった。でもフリーは違う。空気を読む速度が問われる。
卓に着くと、スーツの若手と少し上司っぽい男。「こんばんはー」
「お、可愛い子きた」こういう軽い入りも、久々やと新鮮や。
乾杯して、様子を見る。今日はシャンパン卓もちらほらある。あっちではコール、
こっちでは盛り上がり。だけどヒロコは思う。――やっぱり私は、ボトルの卓が好きやな。
シャンパンは瞬発力。ボトルは持久力。
氷を足して、ゆっくり回す。会話が積み重なる。
泉州の東京三人組もそうやった。森伊蔵、百年の孤独、響。丁寧に回すから、言葉が残る。
今のフリー卓は、ハイボールとビール。それでもいい。若手の一人が博子に聞く。
「GW、どっか行くん?」「仕事ですよー。皆さんは?」「実家帰るぐらいかなあ」
軽い雑談。でも、その奥にちょっとした疲れがある。歓迎会、上司との飲み、気遣い。
「二次会って、楽しいですけど疲れますよね」「わかるわー」
共感一発で、空気が緩む。博子は深掘りしすぎない。フリーやから、種だけ撒く。
また別卓へヘルプ。今度は四人組。すでにシャンパンが空いている。
「ヒロコちゃん、飲める?」「ちょっとだけなら」グラスを持ちながら、心の中で計算する。
ここは瞬発系。テンポを合わせる。でも、やっぱり落ち着いて話せる卓のほうが、
自分は回しやすい。ボトルがあると、時間の流れが見える。氷が溶ける速度、
グラスの減り具合、会話の深さ。シャンパンは華やか。でも、その場限りになりがちや。
博子は今日、改めて感じていた。自分は爆発型やない。積み上げ型や。
フリーを何卓か回りながら、黒服と目が合う。小さく頷く。
時給4,000円。週5もOK。今日の自分は、ちゃんと価値を出している。
歓迎会帰りの客が帰り、少し店内が落ち着く。ヒロコは水を一口飲む。
指名卓を回り、フリーも回り、金曜の種も蒔いた。地味やけど、悪くない。
帰り際、黒服が言う。「今日、安定してたな」「ありがとうございます」
派手なシャンパンタワーもない。大きなコールもない。でも、確実に次に繋がる糸が
何本も張れた夜。ゴールデンウィーク前の月曜日。バタバタとしながらも、
自分の立ち位置を再確認できた日。やっぱり私は、ボトルを回す側の人間や。
ゆっくり、丁寧に、腹八分目で帰して、また来てもらう。




