弁護士先生をお見送りと明日のランチ約束。税理士先生から複数来店の話。別々同伴を提案
弁護士先生は、グラスの氷をゆっくり溶かしながら言った。
「もうちょっと博子さんとおりたいな」その言い方は重たくなくて、
素直で、少しだけ照れくさそうだった。博子は笑う。
「ありがとうございます。でもね、これぐらいにしといたほうがいいんですよ」
「なんでや?」「腹八分目です。また会いに来たいな、って思ってもらえるぐらいが
ちょうどいい。お腹いっぱいにしたら、次はちょっと間あけよかってなりますから」
先生は苦笑いする。「商売上手やな」「いや、人生設計です」
少し間を置いてから、博子は続ける。「ランチとかどうですか?」「ランチ?」
「北浜あたりやったら、私も動きやすいですし。川沿いでゆっくりできるところありますよ。
あるいは北浜から梅田の間、淀屋橋のあたりとか。川辺で軽くランチして、コーヒー飲んで解散、
みたいなんも悪くないです」先生は少し考える顔をしたあと、ふっと笑った。
「前もって言うてくれたら時間作るで」「じゃあ、とりあえず明日どうですか?」
博子はさらっと投げる。「明日?」「軽くですよ。1時間半ぐらい。お互いに重くならんように」
一瞬の沈黙のあと、先生は頷いた。「ええよ。明日、行こか」
博子はにっこり笑う。「じゃあ、詳細はあとで送りますね」
延長を引き止めるでもなく、きれいに締める。
「今日はこれぐらいで。ちゃんと消化してから、また来てください」
「ほんまうまいこと言うなあ」
そう言いながら、先生は満足そうに帰っていった。
――腹八分目。明日に繋がる余白。博子は一つ息を整える。
そこへ黒服が近づいてきた。「博子、税理士先生来てるで」
「あ、ほんまですか」席に向かうと、税理士先生はすでに機嫌よくグラスを傾けていた。
「この前の保険会社の三人との飲み会な、あれめっちゃ好評やったで」
「ほんまですか?それはよかった」「相方の保険会社のやつがな、別の女の子指名してた
んやけど、またみんなで行きたい言うてる」博子は頷きながら聞く。
「それ、全然いいですよ。ただ――」「ただ?」「ポイントとかもありますし、
四人で一緒にご飯行くのもええですけど、それぞれ同伴して、お店で合流して、
答え合わせみたいにするのも面白いですよ」「答え合わせ?」
「誰がどんな店選んだか。どんな会話したか。店で合流して、隣で『そっちはどうやった?』
って話しながら飲む。前、東京の社長さんたちともその話して、めっちゃ盛り上がりました」
先生は目を細める。「それはそれで楽しそうやな」
「団体戦ですけど、ちゃんと個人戦もある。お互いの工夫も見えるし、ネタも増える」
「俺もな、ゆっくり話聞きたいタイプやから、そういう方が合うかもしれん」
「税理士先生、聞くの好きですもんね」「そらな。仕事も聞く仕事やし」二人で笑う。
「じゃあ、次はそれで組みます?」「うん、今度来よか」博子は軽くグラスを合わせる。
「その時は、ちゃんと設計します」「博子はほんま設計型やな」「積み上げ型です」
ワンセットが、自然に回っていく。無理に盛り上げず、押しすぎず、でも次のきっかけは
必ず残す。東京組の手応えもある。弁護士先生は明日ランチ。税理士先生は次回の団体戦プラン。
博子は思う。爆発はいらない。火種を置いていく。それが仕事だ。グラスの氷がまた、
静かに鳴った。今日も一つ、余白を作れた夜だった。




