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月曜日、弁護士先生と同伴北新地イタリアンデート。先生、婚活で完成品求めてません??

北浜の改札を出て、川沿いを歩いてくる弁護士先生を、博子は店の前で待っていた。

夜の川は、昼と違って少しだけ静かだ。ビルの灯りが水面に落ちて、揺れている。

「お待たせしました。」「いえいえ、こっちこそ。北浜から歩いてきました。」

ネクタイを少し緩めながら、先生が言う。

「デスクワークやとね、ほんま疲れるんですよ。ずっと座って、ずっと考えて。

でも川沿い歩くだけで、ちょっと違いますね、この辺。」博子はうなずく。

「せっかくこの立地なんやから、楽しまな損ですよ。

川沿いって、ただ歩くだけでちょっと得した気分になりますもん。」

先生が笑う。「ほんまやな。…愚痴が吐けるから気が楽なんかもしれんけど。」

「それもあるかもしれませんね。」博子は、少し意地悪く返した。

「私に言えばスッキリするって思って来てるなら、それはそれで営業成功ですけど。」

「いやいや、そうかもしれへん。」二人で笑いながら、古民家イタリアンに入る。

川沿いの席。小さなキャンドル。プチコース。

前菜が出てくるころには、先生の肩は少し下がっていた。「婚活なあ…」

グラスをくるくる回しながら、先生が続ける。

「肩書きと収入にあからさまに食いつくタイプは嫌やけど、

かといって、そうじゃない人もなあ…」「そうじゃない人?」

「一応、いい感じになる人もおるんですよ。でも、受け身やねん。

ずっと査定されてる感じ。一緒に生活作る気、あるんかなって思うときがある。」

博子はパスタを取り分けながら、ゆっくり言う。

「それを踏まえて私と話すと、それが際立つって思ってるんですよね?」

先生が苦笑いする。

「そう。博子さんは提案してくれるやろ。店も選ぶし、デートコースも組むし、

なんなら人生のアドバイスまでくれる。」「それは仕事ですから。」

博子はあっさり言う。「私、キャバ嬢なんで。引き出し多くないと店に来てくれないですし。」

少し間を置いてから続ける。「しかも、私、売れない時期めちゃくちゃ長かったんですよ。

だから工夫が多いだけです。」先生が顔を上げる。「売れない時期?」

「ええ。フリーも取れへん、出勤減らされる、崖っぷち。

だから必死で調べて、提案して、“この人といたら何かある”って思ってもらうしかなかった。」

ワインを一口飲む。

「でも一般の女性って、若い頃からチヤホヤされてる人も多いでしょ。提案せんでも誘われる。

お店も男性側が選ぶ。だから、引き出しを作る必要がない人も多いんです。」

先生が静かに聞いている。「それができる人は、だいたいもう結婚してますよ。」

博子はさらっと言った。

「一緒に生活作ろうって発想が自然に出てくる人。デートを“査定”やなくて

“共同作業”にできる人。そういう人は、早い段階で誰かと組んでます。」

先生はグラスを置いた。「…じゃあ俺は?」「先生は、選びすぎなんです。」

即答。「頭いいから。減点方式になりがち。」「減点方式…」

「掘ったら、しょうもないの出てくるって言ってましたよね。でもね、掘ったら

しょうもないの出るの、当たり前なんです。人間やもん。」先生が苦笑する。

「理想と違うと、すぐ冷めてまう。」「理想って、誰基準です?」

ヒロコが少しだけ目を細める。「六本木の女の子基準?

婚活市場の平均基準?それとも自分のプライド基準?」先生は黙る。

川の向こうのネオンが揺れる。「一緒に生活作るって、“完成品を買う”ことちゃいますよ。」

博子は続ける。「半完成品同士で、作っていくんです。先生は完成品を探してる。

だから疲れる。」先生が長く息を吐いた。「…耳痛いわ。」「痛いけど、

治る可能性ある話です。」博子は笑う。「私と話して、それが際立つのは当たり前です。

私は仕事で“作る側”やから。でも先生が欲しいのは、“仕事みたいな女性”ちゃうでしょ?」

先生はしばらく考えてから、うなずいた。「そうやな。一緒に笑えて、生活回せる人やな。」

「じゃあ、減点方式やめて、加点方式で見てください。」

ヒロコはナイフを置いた。「“この人と何が作れるか”。そこだけ見たら、

たぶん見え方変わります。」先生はワインを飲み干す。「難しいなあ。」

「簡単やったら、弁護士さんいらんでしょ。」博子が笑う。

先生もつられて笑う。「博子さん、やっぱ面白いわ。」「営業です。」

「でも、今日も来てよかった。」川沿いの風が、窓越しに少し揺れた。

先生はまだ悩んでいる。でも、さっきより顔が柔らかい。

博子はそれを見て、心の中でつぶやく。——これで一個、種は撒いた。

芽が出るかは、先生次第や。料理の最後のドルチェが運ばれてきた。

夜は、まだ静かに続いていた。

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