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税理士先生との時間は終わり、黒服に褒められ次のフリーへ。ワンルームマンション営業マン

30分は、あっという間だった。延長の半セットが終わり、税理士先生は席を立った。

「今日はありがとう」「また、連絡するね」

その一言で、十分だった。博子は深く頭を下げ、先生を見送る。

――よし。心の中で、静かに息をつく。

派手な勝ちじゃない。でも、同伴が決まり、ワンセットが入り、

延長の半セットも取れた。今の自分には、それで十分すぎる成果だった。

フロアに戻ると、すぐに声をかけられる。

「博子、すごいやん!」フロアオフ――黒服の一人が、少し大きめの声で言った。

「ドリンク頼まへんかったんは、正直どうかと思ったけどな」

「でも同伴決まって、ワンタイ取って、延長半セットやろ?」

ポイントがつく。評価がつく。それだけで、世界は一気に変わる。

「いやいや、すごいぞ」「やればできる子やと思ってたわ」

――また始まった。ヒロコは、心の中で苦笑する。

数時間前までは、出勤を減らす話をしていた人間や。

それが今では、この手のひら返し。「これやったらな」

黒服は続ける。「俺もフリーに自信持って出せるわ」

「ありがとうございます」博子は、軽く頭を下げる。

内心では、――適当に言うてるだけやろ。

と思いながらも、表には出さない。

黒服は、そういう生き物だ。信じるな。利用しろ。

そう割り切って、博子は次のフリーへ向かった。

次に付いたのは、20代後半くらいの男性だった。少し派手なスーツ。

話し方が早く、目に妙な熱がある。話を聞いて、すぐに分かる。

ワンルームマンションの営業だ。

北新地で、20代が飲みに来る。それ自体が、少し特殊だ。

だいたいは二択。本当にちょっと危ない人間か、

保険会社・証券会社・不動産会社の“一発当ててる系”。

今回は、後者だった。「ワンルームってさ」

彼は、身振り手振りを交えて話す。「とにかく電話よ。ガンガンかける」

「で、1件売れたら、数百万やで?」「すごいですね」

博子は、素直にそう返す。一方で、博之の頭は冷静だった。

生前、ワンルームマンションの営業電話は、嫌というほど受けてきた。

一件の金額が大きい。確かに、夢はある。でも――

客の人生を、本当に考えているかと言われると、疑問が残る。

顔には出さない。出さないが、線は引く。「若いのに、すごいですよね」

そう言うと、彼は少し得意げになる。「博子ちゃんくらいの年やったらさ」

「こういう俺みたいな男の方が、恋愛対象として見れるんちゃう?」

来たな、と思う。「そうですね」博子は、曖昧に笑う。

「でも、うちに来てくださるお客様、素敵な方多いですし」

はっきり否定しない。でも、肯定もしない。

「年齢とかよりも」「一緒にいて安心できるかどうか、ですかね」

ぼかす。逃げ道を作る。「えー、彼女になってくれたらさ」「俺、全然癒すけど?」

ヒロコは、少しだけ間を置いた。「ありがとうございます」

「でも、また機会があれば、ですね」一歩引く。ここで踏み込まない。

この手の男は、だいたい同じだ。自分が釣った魚には、餌をやらない。

最初だけ勢いがあって、後は雑になる。博之は、心の中で線を引いた。

――ここまで。愛想は振る。会話はする。でも、期待はしない。

この日は、それで十分だった。フロアの喧騒を背に、博子は少しだけ

背筋を伸ばす。今日は、ちゃんと前に進んだ。

派手じゃない。でも、崩れていない。北新地で生きるには、それが一番大事や。

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