決戦の土曜日。東京のお客様21時来店。いい滑り出し。京都大阪の案内役買って出る
土曜日、21時。更衣室でドレスの裾を整えながら、
博子は鏡越しにさきとあるかを見る。「ここ正念場やな」
ぽつりと言うと、さきが小さくうなずく。「ここでちゃんと回せたら、
次につながるやろ。3人のうち2人掴めたら、枝増えるしな」あるかも笑いながら言う。
「本指で返ってきたらデカいで。東京やし。頻度は少なくても単価がええ」
生々しい。でも、それが現実や。黒服もちらっと顔を出して、
「きばりすぎんと、でもちゃんと回してくれたらこっちも嬉しいで」
と釘を刺す。派手すぎず、堅すぎず。バランス。
数分後、東京の3人が入店。「いらっしゃいませ」3人で揃って出迎える。
席に通すと、ひとりが周りを見渡して言う。
「やっぱ東京に比べたら広いな。六本木やと個室別料金やし、オープンは居心地悪いとこ
多いねん」博子は笑う。「新地やから大阪の中では狭い方かもしれませんけど、
落ち着いた空気はあるかなと思って働いてます」森伊蔵を持ってきてもらい、
続いて百年の孤独の新しいボトル。「じゃあ、まずは森伊蔵から」
グラスを回し、乾杯。「今日どこ行ってはったんですか?」
「今日はな、京都回って花見して、大阪でふぐ食べてから来てん。おっさん3人旅行や」
「ふぐいいですね。大阪、なぜか名物みたいになってますよね」笑いが起きる。
「京都どうでした?」「うーん、もう一回来るかはまだわからんな。でも、
ここ来た理由の一つはそれや。案内役ほしいやん」「任せてください」
博子が自然に前に出る。「哲学の道とか、定番もええですけど、意外と無料で回れる桜コースも
ありますし、御朱印テーマで絞るのも面白いですよ。裏通りの店とか」
「観光マップに載ってへんな」「いいとこは載せないですよ。観光マップは広告枠ですから」
どっと笑いが起きる。大阪の話に移る。
「天満はごちゃごちゃしてるけど面白い。福島は少しおしゃれ。
淀屋橋・北浜で川見ながらランチもええですし」さきが横から、
「堀江で川沿いアフタヌーンティーも安くていいですよ」と乗せる。
博子が続ける。「北極星の本店ご存知ですか?大阪は1人カウンターのチェーンはあるけど、
本店はちょっとしたスポットで。そこから神社回る半日コースもあります」
「引き出し多すぎやろ」「調べすぎる癖あるんです。香水作りとか、陶芸とか、
時間を一緒に作るの好きなんで」東京組がうなずく。
「六本木はな、可愛い子はめちゃくちゃ可愛い。元アイドルとかもおる。でもトークは弱い」
あるかがニヤッとする。「可愛さ一点突破型ですね」
「せや。でもな、話広がらんと結局酒で埋めるしかなくなる」
ヒロコは静かに笑う。「どっちが良い悪いじゃないですけど、私たちは一緒に考える方が
楽しいタイプかもしれません」森伊蔵の香りがふわりと立つ。
東京のひとりが言う。「確かに、今日もう観光マップいらんもんな」
「デートコース卸売や」場が温まる。博子は内心ほっとする。
派手に煽らず、自然に盛り上がる。六本木との比較も、敵を作らずに笑いに変える。
3人の視線が、博子、さき、あるかと順番に流れる。悪くない。
今のところ、完璧に近い滑り出し。夜はまだ長い。
でも、この空気ならいける。博子はグラスを持ち直し、次の話題をそっと差し出した。




