荒い社長。名残惜しくも明日のことを気にかけ帰る。土曜3人25万予算の打ち合わせ
二セット。ちょうどいい。三セット目に入れば、
社長はさらに機嫌がよくなるやろうし、もう一本ボトルの話も出かねへん。
でも今日は、そこまでいかん方がええ。「今日はこの辺にしましょうか」
博子は柔らかく言った。「腹八分目なら、次も楽しめますよ」
社長はグラスを揺らしながら、ニヤリとする。「明日の心配か?」「それもあります」
ヒロコは正直に答える。「東京から三人、来ます」「予算二十五万」
社長の眉が上がる。「ほう」
「六本木で飲むより安いけど、ゆっくりできる価値を見出したみたいで」
「丁寧にやれば、頻度は高くないけど、また来てくれそうなんです」
社長は感心したように息を吐く。
「札束で殴れるやつが、腰落ち着けに来るんは熱いな」「そら熱いです」
博子も笑う。「派手に散らすより、じっくり味わうタイプなら、うちに合います」
「六本木のスピード感とは違いますから」社長は頷く。「博子の店の強みはそこやな」
「回転やない」「滞在や」「ありがとうございます」
博子は軽く頭を下げる。「だから今日は、ここで止めときたいんです」
「余力残して、明日きっちり迎えたい」社長はしばらく黙り、それから笑った。
「ええやん」「そういう自己管理できるとこがええ」「また来るわ」
「待ってます」引き際は、悪くない。
ガツガツもせず、引きすぎもせず。ちょうどいい温度。
社長を見送ったあと、博子は一瞬、深く息を吐いた。
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営業後、バックヤードで博子とさき、そしてアルカの三人が円になって座る。
「明日、25万の東京組な」さきが切り出す。
「基本設計はこれや」博子が指で机を叩きながら整理する。
「2セット指名。まずはそれで土台つくる」「ボトルは?」
アルカが聞く。「森伊蔵の残り、まだあるやろ?」「うん、半分ちょい」
「それを主軸にして、百年の孤独を横に置く」さきが頷く。
「焼酎で落ち着いて飲ませるってことやな」「せや」
博子が続ける。「いきなりシャンパン行かへん。六本木ちゃうねんから」
三人で笑う。「状況見てやな」「主役が気持ちよくなって、場がまとまったらワンセット延長」
「もしくは最後にシャンパン一本で予算調整」
アルカがメモする。「最初から煽らへん」「絶対あかん」
ヒロコの声が少し強くなる。「落ち着いて飲む空気つくる」
「ゆっくり話せる場所やって印象残す」さきが補足する。
「ローカルご飯の話いける?」「いける」ヒロコは即答。
「北極星の本店、黒門の裏の寿司屋、天満の立ち飲み」
「あと京都な」アルカが言う。「八坂神社と祇園の裏道、鴨川の夜」
「それそれ」博子が頷く。「大阪は雑多やけど懐深い」「京都は静かで余白がある」
さきがニヤリとする。「六本木との対比やな」「派手さちゃう」
「落ち着ける場所の話」博子は少し真顔になる。
「三人の関係性も見る」「接待側二人が無理してないか」
「主役が浮いてないか」アルバがうなずく。「私、空気読む係やる」
「頼む」さきが言う。「ヒロコは主軸。深掘り担当」
「私は横でテンポ整える」ヒロコが最後にまとめる。「焦らん」
「六本木より安いけど、記憶に残る夜」「それ作れたら勝ちや」三人、
静かに目を合わせる。「いけるな?」「いける」明日は、静かな勝負や。明日は、本番。




