会計士先生との同伴立ち飲み屋。先生は私より私の引き出しが好きなんですよ(笑)
会計士先生との夜同伴は、居酒屋ではなく立ち飲み屋にした。
北新地の端っこ、魚がうまくて、酒の種類が多くて、
それでいて肩肘張らなくて済む場所。食べログのリンクを送って、現地集合。
「ここ、いいですね。こういうところ、自分じゃ絶対選ばないです」
そう言われるのは、もう慣れてきた。「博子さんに会えるの、楽しみにしてました」
待ち合わせで顔を合わせるなり、そう言われて、少しだけ胸の奥がくすぐったくなる。
この前のコンカフェ同伴が、相当楽しかったらしい。「あれ、ほんまに衝撃でした。
あんな世界あるんですね」笑いながら話す会計士先生を見て、博子も悪い気はしなかった。
「でも、そういう言葉はね」カウンターに立ちながら、さらっと釘を刺す。
「本気で好きになった人に言ったほうが、もっと効きますよ」先生は一瞬きょとんとして、
でもすぐに苦笑した。「そうですよね。でも、引き出しのある人って、ほんと少ないなって思って」
店に入って、一通り注文する。刺身、焼き魚、軽い肴。
酒は日本酒も芋焼酎も揃っている。「芋焼酎って重いイメージありますけど、
最近はフルーティーなのも多いんですよ」そう言うと、先生は少し驚いた顔をする。
「正直、出されたもの飲むだけで、選んだことなかったです」
その言葉を聞いて、博子は少し考える。この人は悪い意味で無知なんじゃなくて、
“選ぶ”という経験をしてこなかっただけなんだな、と。「今は検索サイトも
充実してるし、自分で探して楽しむっていうのも、結構面白いですよ」
「一人で行くのもいいし、誰かと行くのもいいですし」そう話すと、
先生はうんうんと頷く。「この前のコンカフェのツーショット、同僚に見せたら
めちゃ盛り上がって」「安いし楽しそうって言われて、今度みんなで行くことになりました」
それを聞いて、博子は素直に笑った。「それ、いいと思います。思い出になるし、
距離も縮まりますしね」少し酔いが回った頃、先生がぽつりと言う。
「博子さんって、営業してるんじゃないですよね」「僕に来させてるんじゃなくて、
“そういう人に出会える場所”を見せてくれてる」その言葉に、博子は少しだけ息を止める。
核心を突かれた気がした。「半分は仕事ですよ」そう前置きしてから、続ける。
「でも、引き出しのある女性に出会うために、いろんな場に行くのは大事やと思います」
「合コンでも、趣味の集まりでも」「私ばっかり来てたら、ガチ恋になっちゃいますから」
冗談めかして言ったつもりだった。でも、先生は真顔で言った。「もう、かなり好きです」
一瞬、言葉に詰まる。胸の奥が、きゅっと締まる。困惑、焦り、責任感。
いろんな感情が同時に押し寄せる。(ああ、これは想定より早いな)そんなつもりじゃなかった。
育てるつもりで、視野を広げるつもりで、ただ“選択肢”を渡していただけなのに。
「……だからこそですよ」少し間を置いて、静かに言う。
「ちゃんと、外も見てください」「私は“きっかけ”の一つでしかないです」
先生は少し寂しそうに笑って、「はい」とだけ答えた。博子はグラスを傾け、
日本酒を一口含む。冷たくて、やわらかくて、少し甘い。(育てなあかんな)
でも同時に思う。(育てすぎたら、壊れる)距離感は相変わらず難しい。
それでも、今日のこの時間は、ちゃんと“いい夜”だったと思いながら、
博子はもう一杯、静かに酒を口に運んだ。




