金曜日、会計士先生との同伴がきまる。荒い社長のことが頭にありながらも丁寧に積み上げる
金曜日の朝、目覚ましより少し早く目が覚めた。身体はまだ重いけれど、
昨日ほどのどんより感はない。水曜日の疲れを木曜日にだらだら流した分、
最低限のところまでは回復している感じがした。スマホを手に取って画面を点けると、
通知が一つ。会計士先生からだった。「おはようございます。
この前はありがとうございました。またいろんな話を聞かせてもらえたら
嬉しいなと思ってて。もし今日お時間あれば、ご飯いきましょう!」
画面を見ながら、博子は小さく息を吐いた。――ああ、来たな。
でも、不思議と嫌な感じはしなかった。月曜日のコンカフェ同伴は、確かに楽しかった。
会計士先生も終始リラックスしていて、変に構えた様子もなく、終わったあとも
「勉強になりました」「また行ってみたいです」と何度も言っていた。
その延長線での連絡なら、無理はない。「今日は金曜日やし、同伴はありがたいな」
頭の中で軽く計算する。荒い社長のことを考えると、同伴は一件で十分。
それが、気を張らずにいられる相手なら、なおさらいい。
博子は、少し考えてから返信した。「おはようございます。今日なら大丈夫ですよ。
ご飯行きましょう!」送信してから、ベッドに転がったまま天井を見る。
これで、金曜日の“一つ目”は埋まった。少し肩の力が抜ける。
しばらくして、今度は弁護士先生からも連絡が入った。
「今日は時間空いてたら行こうかなと思ったんやけど、急に制約が入ってしまって。
同伴は今日はごめんなさい。また機会があれば。」文面はあっさりしていた。
博子は、すぐに「了解です」「またタイミング合えばお願いします」と返す。
正直、こちらも助かった。今日はこれ以上、予定を詰めたくない。スマホを置いて、
少しだけぼんやりする。金曜日。同伴は一件。遅い時間はフリーで回る。
荒い社長が来たら、その時に考える。「うん、今日はこれでいい」
次は、店選びだ。ここが一番、博子の頭を使うところ。
天ぷらは最近かぶっている。おじいちゃんとも行ったし、不動産の社長とも行った。
悪くはないけど、“またか”感が出る。「刺身が美味しいところ…」
派手すぎず、外れない。しかも、会計士先生が肩肘張らずに飲めるところ。
ふと思い出したのが、北新地の端っこにある、博之が昔よく使っていた立ち飲みだった。
立ち飲みと言っても、ちゃんと魚がうまくて、酒も一通り揃っている。
ガヤガヤしすぎず、一人客も多い。「ちゃんとした店」だけど、「気取ってない」。
「あそこ、ちょうどええかも」博子は食べログを開いて、その店のページを会計士先生に送った。
「こんなところどうですか?軽く飲みながら、刺身が美味しいです。」
すぐに返信が来る。「なるほど……。こういう視点、僕にはなかったです。
助かります。じゃあ、ここで行きましょう。」その一文を読んで、博子は小さく笑った。
――やっぱり、この人は素直だ。だから、やりやすい。昼前になって、ようやく起き上がる。
シャワーを浴びながら、頭の中で今日の流れをなぞる。夕方、北新地で合流。
立ち飲みで一杯。刺身と日本酒。深追いしない。無理に盛り上げない。
「今日は“整える金曜日”やな」YouTubeもFPも、今日は無理に詰め込まない。
最低限、体調を崩さず、夜を終えること。それが一番大事だ。
鏡の前で髪を整えながら、博子は静かに思った。金曜日は、
戦いでもあるけど、選び方次第で“楽な日”にもなる。今日は、後者にした。
その選択が、今の自分には一番合っている気がしていた。




