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木曜日。オフ。昨日の疲れが響きすぎて動けない。軽く金曜日の仕込みをして充電時間

木曜日は、正直に言えば「何もしない日」になった。

水曜日があまりにも濃すぎて、身体も頭も、どこか一拍遅れている感じがして、

朝から起き上がる気力がなかった。目は覚めているのに、起きる理由が見つからない。

スマホを触っては置き、置いてはまた触る。そんな時間が、夕方近くまでずるずると続いた。

本当は、YouTubeもやろうと思っていた。FP3級のテキストも、机の上には出してあった。

でも、ページを開いたところで、文字が頭に入ってこない。集中力がないというより、

「今はそれじゃない」という感じが強かった。無理にやろうとすると、

逆に自分が雑になる気がして、今日はやめた。

ふとYouTubeを開くと、登録者は350人を超えていた。数字だけ見れば、悪くない。

むしろ順調だ。でも、その数字を見て喜ぶ余裕も、今のヒロコにはあまりなかった。

「積み上げるのは、またでええ」今はそれよりも、目の前にある厄介な問題

――荒い社長との距離感のほうが、ずっと頭を占めていた。

近づきすぎると、壊れる。離れようとすると、詰めてくる。

自分なりに線を引いたつもりでも、向こうの感情一つで簡単に揺らぐ。

そのたびに、心がざわつく。これが「売れてきた嬢」の悩みなのか、

それとも単に自分の経験不足なのか、まだ判断がつかなかった。

そんなタイミングで、おじいちゃんから連絡が来た。

「距離感は修行やと思ってやりなはれ」

短いけど、いつも通り要点だけ突く言い方だった。続けて、

「ただな、わしの前で報告するのはええけど、弱音ばっかり吐かれると、

それはそれでおもろない。ほどほど我慢してやってくれたら、わしはわしで、

お前が育っていくのを見るのが楽しいんや」

読んだ瞬間、思わず苦笑いが漏れた。

相変わらず、エッジの効いた言い方をする人やな、と思う。でも、不思議と腹は立たない。

むしろ、少し背筋が伸びる。「甘やかしすぎへん優しさ」

それが、この人なりの距離感なんやろな、と改めて思った。

夕方になって、ようやく頭が少し回り始める。

金曜日の出勤のことを考え始めた。同伴、どうするか。

正直なところ、今の自分には「誰でもいいから埋めたい」

という気持ちはなかった。無理に詰めると、金曜日の夜がしんどくなるのが目に見えている。

だから、とりあえず連絡する相手は絞った。

弁護士先生と、会計士の先生。最近どうしてますか、体調どうですか、

ぐらいの軽いジャブ。重くならない文面。返ってきたらラッキー、

返ってこなかったら、それはそれで仕方ない。「金曜日は、半分捨てる気でいこう」

同伴が入らなくても、遅い時間にフリーで回ればいい。何より、

荒い社長が来る可能性がある以上、最初から詰めすぎるのは危険だ。

あの人が来たとき、余白がないと、対応しきれない。

さらに頭を悩ませるのは、土曜日のことだった。

東京から来る人たちの接待。これは正直、今回の山場だ。

アルカちゃんとサキちゃん、どう動くか。誰がどこまで踏み込むか。

どこで線を引くか。自分一人の問題じゃないからこそ、慎重になる。

ここで雑な判断をすると、後で必ず響く。

気がつけば、もう夜だった。

木曜日は、ほとんど何もしていない。でも、不思議と「無駄だった」という感じはしなかった。

頭と気持ちを整理する時間は、今の博子には必要だったんだと思う。

距離感。修行。ほどほどの我慢。おじいちゃんの言葉を思い返しながら、

ヒロコは静かにスマホを置いた。金曜日は、また金曜日の戦いがある。

今はとりあえず、ちゃんと寝よう。そう思って、ゆっくり目を閉じた。

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