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荒い社長帰宅後。黒服さんとのやりとり。売り上げたったが問題色々

店の裏口を出ると、夜風が思ったより冷たかった。

アルマンドが入っただの、ラストまで残っただの、黒服たちは少し浮いた空気で

片付けをしているけれど、博子の頭の中は、そんなに単純じゃなかった。

スマホを取り出して、短く文章を打つ。――

「荒い社長、無事お帰りになりました。距離感は一応、同伴はやんわり断って、

今は及第点かなと思ってます。ただ、正直まだ経験不足で、相手の感情に引っ張られる

ところもあります。でも、これも修行やと思って、少し迷いながらジタバタしてみますね」

おじいちゃんには、これくらいでいい。細かく書かなくても、行間はきっと読んでくれる。

送信して、ふうっと息を吐く。そのタイミングで、黒服が声をかけてきた。

「博子ちゃん、アルマンドやで?あれは普通にすごいで」少し笑いながら、続ける。

「しかも社長、ラストまでおったしな。正直、だいぶ評価上がったと思うわ」

褒め言葉なのはわかる。でも、博子は素直にうなずけなかった。「……正直言うと」

声を落とす。「あの社長、私はちょっと苦手です」黒服は少し驚いた顔をする。

「え、そうなん?」「はい」博子は言葉を選びながら続ける。

「もちろん、お金も使ってくれますし、評価してくれるのもありがたいんですけど」

「その人を優先しすぎると、ほかの指名のお客さんとの関係が崩れそうな気がして」

「だから、一定の線は引きたいなって思ってます」黒服は腕を組んで聞いている。

「でも、ちょっと距離を取ろうとすると、向こうがグッと詰めてくるんです」

「その距離感が……正直、むずいですわ」黒服は少し考えてから、正直に言った。

「まあ、俺らは外からしか見てへんから、正確なところまではわからんけど」

「確かに、その気はあるな」「ちょっと警戒したほうがええタイプかもしれん」

そう言ってから、少し申し訳なさそうに付け足す。

「ただな……NG出すには、売り上げが出すぎてる」「これは店の立場として、正直な話や」

博子はうなずく。「それはわかってます」「だから、全部切ってくださいとか、

 そんなこと言うつもりはないです」少し間を置いてから、提案する。

「ただ……ヘルプでつく子、ちょっと考えてもらえませんか」黒服が顔を上げる。

「私が席を外れると、あの社長、露骨に機嫌悪くなるんです」

「それに耐えられる子、もしくは空気を柔らかくできる子を

 ヘルプで回してもらえると助かります」「そうすれば、

 私がずっと張り付かなくても、場は崩れにくいと思うんです」黒服は少し考え込む。

「……なるほどな」「確かに、それは一理ある」

「了解。ヘルプの回し方、考えとくわ」「博子ちゃんも、

 無理に一人で抱え込まんでええからな」博子は、少し肩の力が抜けた。

「ありがとうございます」「正直、売れてる=楽、では全然ないですね」

黒服は苦笑いする。「そらそうや。売れ出したときが、一番むずい」

博子は、スマホを握りしめながら思う。まだまだ、自分は未熟だ。

感情に揺さぶられるし、判断に迷う。でも、今日みたいに

「線を引こうとして、悩んで、調整する」その一つひとつが、たぶん修行なんやろう。

ジタバタしながらでも、考えるのをやめなければ、きっと前には進める。

そう思いながら、博子はもう一度だけ、深く息を吸った。

夜は、まだ終わっていなかった。

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