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荒い社長がアルマンド卸して博子を引き戻す。距離をとる博子。だが裏目にでる。

博子は、いつも通りの笑顔を作って荒い社長の卓に戻った。

「びっくりしましたよ、さすがに」そう言って軽く肩をすくめると、

荒い社長は少し照れたように笑った。「いやな、被ったり、待たされたりすると、

 どうもイラッとしてもうてな」グラスを持つ手を見つめながら、社長は続ける。

「気づいたら、“ボトル入れたろか”ってなるんや」

博子は内心で、ああと思った。――この人は、感情を金で整えるタイプだ。

横にいたヘルプの女の子が、どこか気まずそうに視線を落とし、静かに席を離れていく。

博子は、その背中に向かって、ほんの一瞬、目で「ごめんね」と謝った。

(こういうところ、苦手やな……)(後で、ちゃんと声かけよ)

荒い社長は、博子が戻ってきたことで、すっかり機嫌を直した様子だった。

「やっぱりな」「博子がおると、全然ちゃうわ」そして、少し得意げに語り出す。

「部下と飲んでもな、みんな萎縮して、当たり障りのない話しかしよらん」

「安いキャバ行っても、ドリンクねだられて、愛想笑いされて終わりや」

「その点、あんたは違う」博子は、評価されていることに、素直に嬉しさを感じつつも、

一歩引いた視点で言葉を選んだ。「それは……部下の人たちも、悪いわけじゃないと思いますよ」

社長が意外そうにこちらを見る。「ただ、社長さんの前やと、みんな“怒られないように”

なりますから」「それと、安いキャバの女の子も、単純にチヤホヤされてるだけで、

経験がないだけかもしれません」荒い社長は、ふむ、と低く唸る。

「育てる気がないと、楽しめない部分もあると思います」

博子は、少し間を置いてから、自分の話をした。

「私も、正直言うと、最初から引き出しが多かったわけじゃないです」

「売れなかったから、工夫して、もがいて、考えて……

 それで、たまたま今、なんとかなってるだけです」社長は、じっと博子の顔を見る。

「でも、それってイレギュラーなんです」博子は、はっきりと言った。

「引き出しがあって、そこそこ可愛い子は、最初から売れます」

「そういう子は、すぐ“売り切れ”になるし、人気も出ます」「結局どっちかなんですよ」

社長は興味深そうに身を乗り出す。「可愛い子を時間かけて育てるか、出来上がってる

人気の女の子を、札束で殴り合って奪い合うか」「その二択になりがちです」

荒い社長は、思わず笑った。「言い方、えぐいな」博子も、少しだけ笑う。

「でも、現実的には、そんな感じです」そして、トーンを落とす。

「私は、“育ててもらった側”なので」「育てる楽しさも、悪くないと思いますよ」

その言葉は、博子にとっては、ほんの少し距離を取るための、やんわりした線引きだった。

(これで、少し冷めてくれたらいいな)――そう思った。けれど、荒い社長は違った。

目を見開き、まるで何かを悟ったように、深く息を吐く。「……目から鱗やわ」

「そんな考え方、今まで誰も言うてくれへんかった」グラスを置き、博子を見る。

「やっぱりな、あんた、ただのキャバ嬢ちゃうわ」博子は、内心で小さく苦笑した。

(引き離したつもりが、余計に刺さってもうた……)

それでも、表情は崩さない。「ありがとうございます」

「でも、今日はゆっくり飲みましょう」「せっかくなんで」

荒い社長は、満足そうにうなずいた。アルマンドの泡が、静かにグラスの中で弾けていた。

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