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荒い社長の接待。その中おじいちゃんが新たにボトルを入れたいと声をかける。煽りや。

荒い社長の卓につくと、すでに酒の勢いが回っていた。

「いやあ、さっきな。仕事場の飲みで二次会キャバ行ったんやけどな」

がはがはと笑いながら、社長はグラスを振る。

「部下連れて行ったけど、なんか物足りんくてな。安キャバやと

どうも話が薄いねん。結局、部下は帰らしてきたわ」

博子は、胸の奥で小さく息を吐いた。――あまり気が合わない。

正直な感覚だった。けれど顔には出さず、柔らかく笑う。

「来てくださってありがとうございます。

 そう言ってもらえるのは嬉しいです」社長は満足そうにうなずく。

「ここは高いやろ。でもな、今日は博子と話したかったんや」

博子は軽く頭を下げ、前に入れてもらっていた黒霧島を手に取った。

「じゃあ、今日はこれでゆっくり飲みましょうか」どう話を持っていくか――

一瞬、言葉を選ぶ。そのとき、黒服がそっと近づいてきた。

「博子ちゃん、すまん」小声で、妙な伝言を落としていく。

「おじいちゃんがな、響のおかわりで、山崎入れるか迷ってるらしくて。

 博子ちゃんと相談したいから、一言ほしいって」博子は一瞬、固まった。

(……響、まだ残ってるのに?)違和感を覚えつつ、荒い社長に頭を下げる。

「すみません、少しだけ席外しますね」その瞬間、荒い社長の表情が微妙に曇った。

「……は?」完全にすかされたような顔。グラスを置く音が、少し強くなる。

博子は焦りながら、おじいちゃんの卓に戻った。そこには――

ニヤニヤと笑う、おじいちゃん。「……なんで笑ってるんですか?」

博子が小声で聞くと、おじいちゃんは肩を揺らした。「悪戯や」

(やっぱり……)「なんでボトル開けるんですか?響まだありますよ。今度で大丈夫です」

博子が言うと、おじいちゃんは手を振る。「まあまあ。5分だけ、ここにいなさい」

博子は首を傾げる。「……?」おじいちゃんは、声を潜めて言った。「向こうの社長から、

ボトル入るから」博子は、はっとした。黒服に向かって、おじいちゃんが指示を出す。

「荒い社長に言うてき。 “山崎か響で迷ってて、少し時間かかる”ってな」

黒服は一瞬で意図を理解し、静かにうなずいた。(……煽りだ)

博子の中で、ピンと糸がつながる。荒い社長は、もともとイライラしている。

そこに「待たされる」「他の卓が優先されている」感覚。――効く。

「……あまり、あの社長好きちゃうやろ」おじいちゃんが、ぽつりと言った。

博子はドキッとして、思わず聞き返す。「え?なんで分かるんですか?」

おじいちゃんは、楽しそうに笑った。「隠せてないぞ」

ヒロコは言葉を失う。「そういう客はな、“嫌いやけど相手せなあかん”って顔が出る」

ヒロコは、図星を突かれた気がした。「観察して、遊ぶ余裕が必要や」

「ワシもな、からかう相手見つけて、ちょっと楽しいわ」

笑い声が聞こえそうで、博子は内心ヒヤヒヤする。そのときだった。

フロアの空気が、一瞬で変わる。「アルマンド、一本!」

荒い社長の声。――早い。ヒロコは思わず息を呑んだ。(3分……?)

おじいちゃんは、グラスを傾けながら言った。

「意外と短かったな」博子は、アルマンドのボトルに一瞬たじろぐ。

(ほんまに入るとは……)おじいちゃんは、博子を見て真顔になる。

「博子な。あの社長、お前にハマりかけとる」博子の胸が、きゅっと縮む。

「せやけどな」「金積み出すと、加速する」おじいちゃんは低い声で続けた。

「加速しすぎると、壊れる。お前も、相手もな」博子は黙ってうなずく。

「適度に突き放せ」「それができたら、長く続く」

そして、いつもの柔らかい笑みに戻った。「ほら、行ってこい」

「嬉しい顔、忘れるなよ」「それで、イチコロや」

博子は苦笑いしながら、荒い社長の卓へ戻った。

胸の中には、少しの緊張と、確かな支えが残っていた。

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