表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/99

税理士先生との賭け同伴に成功。もう一声

まずは、賭け同伴。同伴に成功した博子は、内心では高鳴る気持ちを抑えながら、

いつも通りの顔で店へ向かった。

浮かれたら負ける。これはまだ“入り口”に立っただけだ。

店の裏口に入ると、黒服の視線が一瞬、止まった。

その横に立つ税理士の先生を見て、わずかに目を見開く。

「……え、博子?」「同伴ですか?」驚きが、そのまま声に出ていた。

「お客様、ありがとうございます」慌てて姿勢を正し、先生を中へ案内する。

ついさっきまで、博子の名前を“整理対象”として見ていた人間の態度とは思えない。

博子は何も言わず、軽く会釈をしてロッカーへ向かった。

着替えを済ませ、フロアに戻る前、黒服に呼び止められる。

「博子さ」少し声を落として、言う。「正直な話、出勤、減らそうと思ってた」

――やっぱりな。心の中でそう思う。

「でも、同伴連れて来れるなら話は別や」

「これ続けてくれたら、またちゃんとシフト入れられると思う」

「今日はな、取れるれるだけ取ってきて。頼むで」

ヒロコは、静かに首を振った。「たまたま、先生がいい人やっただけです」

「まだ分からないですけど……コツコツやります」

黒服は少し拍子抜けしたような顔をしたが、すぐに笑う。

「まあ、それでええわ。頑張って」

心の中では、――散々ダメ出ししといて、なんやねん。

と思いながらも、表には出さない。

黒服なんて、そんなもんや。手のひらは、いくらでも返る。

真に受けるだけ、損や。「じゃあ、失礼します」

そう言って、先生の席へ向かう。

席に着くと、先生はすでにグラスを手にしていた。

「いやあ、ちゃんとした店やね」

「北新地って、もっとピリピリしてるイメージやったけど」

「今日は、ちょっと落ち着いた感じです」

ヒロコはそう答えながら、席に腰を下ろす。

話題は自然と、さっきの立ち飲み屋の続きになる。

「でも、さっきの店は意外やったわ」先生は少し笑う。

「正直、北新地の女の子と外で飲むって言うたら、

個室か、焼肉か、寿司やと思ってた」「そう思われがちですね」

「でも先生のお仕事柄やと、個室の方が多いですよね?」

「ああ」先生はうなずく。

「金の話やしな。ガチャガチャしたところは、正直しんどい」

「今日のお店はカジュアルやけど、人も少なくて居やすい」

「目から鱗やったわ」――取れてる。博子は内心で、静かに手応えを感じていた。

「北新地って、高いイメージやったけど」

「三千円くらいで立ち飲みできて、飯もちゃんとしてる」

「こういう店、何軒か押さえときたいな」「いっぱいありますよ」

ヒロコは、少しだけ声を弾ませる。

「この価格帯やったら、まだまだ」

「あと、ランチで使うと意外と良い店も多いです」

「夜やと高そうに見えるけど、昼やとそんなに変わらない

 値段で食べられる店もあって」

「へえ」先生は興味深そうに身を乗り出す。「誰と行くん?」

一瞬、間が空く。「……えー、そんなに行ったことないですよ」

博子は笑って誤魔化す。その瞬間、博之の記憶がよぎる。

――俺が女の子と飯行く時によく使ってた手やな。

昼の少し良い店。夜より安く、落ち着いて話せる。

ワンセットは、穏やかに進んだ。派手な盛り上がりはない。

だが、居心地は悪くない。仕事の話は、深くは出なかった。

それでも、時間はあっという間に過ぎた。

グラスを置きながら、博子は一度、呼吸を整える。

――ここからが、次の勝負や。「先生」声のトーンを少し落とす。

「今日はすごく楽しかったです」

「私、先生のお仕事の話、まだちゃんと聞けてないなって思ってて」

「もしよかったら……この後、延長とかどうかなって」

先生は、一瞬、言葉を止めた。グラスを見つめ、少し考える。

「ああ……」「うーん……」悩む、その沈黙。

博子は、何も言わず待った。

今は、詰めない。決めるのは、相手や。

――ここを越えたら、一段、上や。

博子は、静かにその瞬間を待っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ