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水曜日の同伴。おじいちゃんとのひとときと荒い社長の愚痴。なぜキャバクラに来るのか

店に入ると、いつもの空気がそこにあった。騒がしすぎず、静かすぎず。

おじいちゃんが来る水曜日は、時間の流れが少しだけゆっくりになる。

「白州、もうだいぶ減ってきたな」棚を見上げながら、おじいちゃんが言う。

「そうですね。だいぶ飲みましたもんね」「ほな、次は……響、いっとこか」

軽い調子でそう言って、黒服に目配せをする。博子は一瞬だけ驚いて、

すぐに笑った。「ありがとうございます。でも、無理せんでくださいね」

「無理してたら、こんなこと言わんわ」響のボトルが運ばれてきて、

グラスに注がれる。琥珀色の液体が、ゆっくり揺れる。乾杯して、一口含む。

「……やっぱ、違いますね」「やろ。落ち着く酒や」

二人で静かに飲みながら、最近の話になる。博子は、昨日のことを思い出しながら、

ぽつりと言った。「昨日ですね、結構お酒で荒れてる人がいて」

「最初は正直、どうしようかなって思ったんですけど、ゆっくり話聞いてたら、

そのまま指名してくれて」「……それで、ちょっと疑問に思ったんです」

おじいちゃんは、グラスを置いて、博子を見る。

「キャバクラに来る人って、どういう気持ちで来てはるんやろって」

少し考えるように、間を置いてから、おじいちゃんは言った。

「そらまあ、人それぞれや」「誰かに構ってほしい人もおるし、

今の自分に不満がある人もおる」「寂しいって気持ちも、結構大きいな」

博子は、うなずきながら聞く。「でな、そういう人が何を求めてるか言うたらな」

「ドリンクを煽ってくれる人やない」「話を聞いてくれる人や」

「それも、ただ聞くだけやなくて、新しい視点をくれる人」

グラスを持ち上げて、静かに続ける。「でもな、それを探すのが、めちゃくちゃ難しい」

「部下にはそんな顔見せへんし、取引先にも言われへん」

「せやから、イライラしながら飲み歩いてる」

博子は、昨日の社長の顔を思い出す。「……確かに、そんな感じでした」

「困ったちゃんやな」おじいちゃんは、少し笑って言う。

「せやけどな」「その困ったちゃんが、博子ちゃんを選ぶってことはや」

「その人、だいぶ追い込まれてるで」「扱い方さえ間違えへんかったら、

博子ちゃん以外に話せる人、おらんようになる」「結構、来ると思うで」

博子は少し驚いたように目を瞬かせる。「そんな……」「せやからな」

おじいちゃんは、少しだけ声を落とす。「依存されすぎんように」

「ほどほどに、や」「距離感、ほんま大事や」その言葉は、優しいけれど、現実的だった。

博子は、ゆっくり息を吐く。「……勉強になります」

「さすがおじいちゃん、いろいろ見てきてはりますね」「長く生きてるだけや」

そう言って、おじいちゃんは響を一口飲む。「博子ちゃんはな」「変に染まらんでええ」

「今のままで、ちょっとずつ覚えていったらええ」「無理に抱え込まんことや」

博子は、グラスを見つめながら思う。――ああ、こうやって教えてくれる人がいるのは、

ほんまにありがたい。騒がしい夜の中で、このテーブルだけは、静かに整っていた。

響のボトルは、ゆっくり減っていく。時間も、同じように、ゆっくりと流れていた。

ヒロコは、この夜のことを、きっと忘れないだろうと思っていた。

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