水曜日。おじいちゃんとの天ぷら同伴。毎週あってくれるようになり感謝と安心感がある
火曜日の晩は、それで終わった。店を出て、シャワーを浴びて、
スマホを置いて、何も考えずに布団に潜り込む。
目を閉じた瞬間、身体の奥から一気に力が抜けていくのが分かった。
次に目を開けた時には、もう昼前だった。
カーテン越しの光が、いつもよりやわらかく見える。
「……寝たな」時計を見ると、しっかり昼を回っている。
火曜日に新しい出勤日をこなして、そのまま同伴、店、ラストまで。
身体は正直だ。スマホを手に取って、通知を確認する。
おじいちゃんから一件。「今晩、晩ご飯からいける? 店、また選んどいてな」
思わず、ふっと笑ってしまう。この文面、もう何度も見ている。
「毎週この時間、楽しみにしてるんや」そう言って来てくれる。
それが、どれだけありがたいことか。ベッドに寝転びながら、ぼんやりと店を考える。
先週は和食。その前はお昼のカレーライス。「……天ぷら、かな」
揚げたての音、油の匂い。重すぎず、軽すぎず。おじいちゃんの胃にも、今の自分の身体にも、
ちょうどいい。夕方に向けて、少しずつ身体を起こす。顔を洗って、簡単に準備をして、外に出る。
待ち合わせ場所で会ったおじいちゃんは、いつもと変わらないようで、
でも少しだけ疲れているようにも見えた。「お疲れですね」
そう声をかけると、おじいちゃんは苦笑いをした。
「まあな。仕事も結構入ってるし、お客さんとのやり取りもなかなかや」
二人で並んで歩きながら、店へ向かう。「博子ちゃんも、出勤日数増えたんやろ」
「はい。増えました。その分、不安も増えましたけど」
正直に言うと、おじいちゃんはゆっくり頷く。
「そらそうや。増えたら増えた分、気も張る」
「疲れも、知らんうちに溜まるもんや」
天ぷら屋の暖簾をくぐると、油のいい匂いがふわっと広がる。
カウンターに座って、揚がる音を聞きながら、二人でお茶を飲む。
「若いからってな、無理して壊してる連中、よう見てきた」
おじいちゃんは、天ぷらが揚がるのを見つめながら言う。
「若いと、『まだいける』って思ってまう。でも、壊れたら元に戻すのは大変や」
「だからな、結局はメンタルをどうコントロールするかや」
博子は、小さく頷く。「最近、それ、ちょっと分かる気がします」
「余裕がある時と、ない時で、同じことしてても全然違います」
おじいちゃんは笑う。「それが分かり始めたら、大丈夫や」
揚げたての天ぷらを、二人でゆっくり食べる。特別な話はしない。
仕事の愚痴も、深掘りはしない。ただ、「今日はこれが美味しいな」とか、
「次は何頼む?」とか、そんな会話。博子は心の中で思う。
――この人は、安定して来てくれる。
――何かを求めすぎず、甘やかしてくれる。
――それを当たり前にしたらあかん。
感謝しながら、ご飯を終える。「じゃあ、店行こか」
そう言って立ち上がるおじいちゃんの背中を見ながら、
博子は、今日も無事に一日を積み重ねられていることを、静かに噛みしめていた。
無理をしない。壊さない。焦らない。
そのために、こういう時間がある。
そう思いながら、二人で店へ向かう夜だった。




