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荒れていた社長が博子に興味を示す。自分、どんなキャバ嬢やってるんや?

社長はしばらく黙って博子を眺めてから、ぽつりと聞いた。

「なあ、あんた、どういうキャバ嬢やってるんや」

博子は一瞬だけ言葉を探す。社長は続けた。

「俺な、いろんなキャバ嬢見てきたけど、だいたい同じや。指名ねだる、

ドリンクねだる、シャンパンあおる。まあ、それがこの世界の王道やろ。

でも、あんたはちょっと違う」グラスを揺らしながら、社長は笑う。

「ノリノリの方向では合わへんかったんか? それとも、最初からそうせんと

決めてたんか?」ヒロコは首を横に振った。「正直に言うと、どっちもですね」

社長が興味深そうに身を乗り出す。

「3月の真ん中ぐらいまでは、ほんまに指名も取れなくて。フリーも取れなくて、

週3日ぐらいしか出勤できなかったんです。出勤日数も減らすって言われて、

結構、崖っぷちでした」社長が「ほう」と低く声を出す。

「だから、無理に盛り上げるの、やめました。自分にできへんことをやっても、

しんどいだけやなって」博子は続ける。「代わりに、店外をやるようにしました。

ご飯を一緒に食べて、次の約束を取って、また来てもらう。ひとつ指名をもらって、

少し自信をもらって、また次へ、っていうのを繰り返して」

「延長も無理にせず、ゆっくり話せる人と、ゆっくりした時間を過ごす。

ボトルも、高いの入れようかって言われても、黒霧で大丈夫ですって言います。

その代わり、頻度増やしてください、って」社長は思わず笑った。

「普通、逆やろ」「ですよね。でも、私にはそっちの方が合ってたんです」

ヒロコは少し間を置いてから言う。「自分にできることなんて、限られてますし」

「だから、ご飯屋さん選ぶ時も、前行った店とかぶらんように考えたり。

相手のことを考えて選ぶぐらいしか、できへんですけど」

「この前みたいに、コンカフェ同伴したりするのもそうです。相手からしたら、

『あ、その視点なかったな』って思ってもらえたら、それでええかなって」

社長は腕を組んだまま、真剣に聞いている。

「高齢の方やったら、花見しながら散歩したり。京都まで行くこともありますし。

逆に、グランフロントでご飯食べてから、グラングリーンの芝生眺めて、

コンビニコーヒー飲むだけ、って日もありますよ」

社長が目を丸くした。「……レパートリー、豊かやな。ほんまに20歳か?」

博子は少し照れて笑う。「落ち着いてるだけですよ」

社長はグラスを置く。「その感性は、大事にしときや。落ち着いてる上に、

提案がコロコロ出る。なかなかおらんで」

「正直、俺もそういう遊び方、してみたいわ。聞いてるだけで楽しい」

少し考えてから、社長は言った。「……これから、ちょっと通おうかなって気になるな」

博子はすぐに首を振る。「ボトルの話は、次来た時でいいですよ」

社長が吹き出す。「ここでも引くんかい」「最近、少しだけ余裕ができたんやと思います」

博子は静かに言う。「その余裕が、人を惹きつけるきっかけになるかもしれへんなって、

自分でも思ってるんで。だから、焦らないようにしてます」

「キャバクラに来る人って、何か求めてると思うんです。

でも、女の子とわちゃわちゃしたいだけやったら、風俗なり別の店行かはると思うんです」

「ここに来る人は、話したい、悩みがある、落ち着きたい。そういう人が多い気がしてて。

だから、その時間をちゃんと過ごせたらええなって思ってるだけです」

社長はしばらく黙ってから、深く頷いた。「……なるほどな」

「もうラストやな」社長は立ち上がりながら言う。「今日はこれで帰るわ。でも、また来る」

そして、少し照れたように続けた。「連絡先、交換させてくれや」

博子は頷き、スマホを差し出す。「また、ゆっくり話しましょ」

社長は満足そうに笑って店を出ていった。

博子は、その背中を見送りながら、「焦らんでええ」

と、心の中でもう一度、自分に言い聞かせた。

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