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荒れた社長の酒での後悔とこれからどうしたらいいかと博子に問う

荒れた社長は、しばらくグラスを持ったまま黙っていたが、ふっと息を吐くと、

博子を見て言った。「……まあ、酒で気ぃ大きなるのも、いつまでやねんって話やな」

さっきまでの荒れた口調とは違い、少し力が抜けた声だった。博子が相槌を打つと、

社長は自分から続きを話し始める。

「社長する前はな、酒の席でよう怒られたんや。先輩にも上司にも。

でも社長になってからや。部下と飲んでも、誰も怒ってくれへん。注意してくれへん。

気ぃ遣われてるのがわかるから、余計にタチ悪い」

グラスの氷がカランと音を立てる。

「取引先ともな、酒で揉めたこと何回もある。せやから、ほんまは酒飲まん方が

ええってわかってんねん。でもな……酒ないと、正直、ちょっと辛いねん。

やってられへん日もある」博子は少し考えてから、静かに言った。

「……じゃあ、今日はお茶にしません?」

社長が一瞬きょとんとする。「お茶? 高級茶か? ボトル入れんでええんか?」

「はい。今はそれでいいと思います」博子は笑って続ける。

「関係性ができて、また通いたくなったら、その時に入れてください。

今日はご縁があって、ぎこちなくても指名してもらった日ですし。整える日でもいいと思います」

社長は苦笑いした。「……なかなかその切り替え、できへんで普通」

そして、じっと博子を見る。「なあ、あんたいくつや?」「20です」

「20で、それ言えるんは大したもんやで。……いろんな人、見てきてるんやろな」

少し照れながら、博子は首を振る。「そんな大層なもんじゃないです。ただ、

こういう場所やと、いろんな人と話す機会が多いだけです」

社長はしばらく考え込んでから、ぽつりと言った。

「なあ、どうしたら人って、俺から離れずにおってくれるんやろな」

博子は即答せず、少し間を置いてから答えた。「……相手に関心を持つ、ですかね」

社長が眉を上げる。「関心?」「社長さんって、日頃ヨイショされること多いと

思うんです。だから、無意識に“自分が正しい”って思いやすくなる。

でも、部下の人も世代が違えば、価値観も違うし、最近の流行りとか、

得意な分野も全然違うと思うんです」社長はゆっくり頷く。

「最近何ハマってるん?とか、それだけでも全然違うと思いますよ。

……まあ、私も別に人のことめちゃくちゃ興味持って生きてるわけじゃないですけど」

そう付け加えると、社長は少し笑った。

「その補足がリアルやな。……その視点、抜けてたわ」

グラスを置き、社長は続ける。「俺ができること言うたら、金使って飯誘うとか、

小遣い渡して好きに遊んできいって言うぐらいしか思いつかんかった。

でもそれも距離感間違えたら、逆効果やな」博子は静かに聞いている。

「せやからな、全然違う角度から、こうやって俯瞰で俺のこと見て、

ズレてたら指摘してくれる人……そういう存在、求めてたんかもしれん」

少し照れたように、社長は言った。「そういう意味では、あんた結構ぴったりや」

博子は柔らかく返す。「今日はお茶で、ゆっくり話しましょ。お酒はまた元気な日に」

社長は深く息を吐いてから笑った。「ほな、もう一セットおるわ。今日は整える日や」

「それなら、ゆっくりで大丈夫ですよ」博子はお茶を頼みながら付け足す。

「……飲み過ぎはダメですからね」

そう言うと、二人の間に、さっきまでとは違う落ち着いた空気が流れ始めた。

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