火曜日出勤を決め軽い仕込みをしてゆっくり休む
火曜日に出勤する。そう決めた瞬間から、ヒロコの頭の中は自然と
「仕込み」に切り替わった。別に大げさなことをするわけやない。
でも、この仕事は、出勤日が増えたからといって、ただ黙って立っていれば
指名が湧いてくるような世界でもない。
一つひとつ、軽く、でも確実に、種を撒いていく必要がある。
まず思い浮かんだのは、不動産会社の社長だった。
一度同伴したきりやけど、あの人は水曜日休みやと言っていた。
ということは、火曜日は動ける可能性が高い。
博子は、文面を考えすぎないようにしながら、軽くメールを打つ。
「おかげさまで出勤日数が少し増えまして、火曜日も出勤することになりました。
もし水曜日お休みでしたら、よかったら火曜日、晩ご飯からお店いかがですか?」
押しつけがましくならないように、でも、“私は火曜日いますよ”という事実だけは、
きちんと伝える。いわゆる、軽いジャブ。これでいい。
次に思い浮かんだのは、ワンルームマンションの営業のお兄さん。
あの人は、同伴というより、「話し相手」「愚痴聞き役」寄りの距離感や。
同じような文章でも、トーンを少し変える。
「最近、火曜日も出勤することになりました。
またタイミング合えば、ふらっと店寄ってくださいね」
これもジャブ。深追いしない。
向こうが乗ってきたら、その時に考えればいい。
最後に、水曜日の仕込み。おじいちゃんや。
この人は、水曜日に来てくれることが多い。
習慣になりつつある関係は、崩さないことが大事や。
「また水曜日、もしよかったらご飯からお店いかがですか?」
文章は短く、いつも通り。変に気合を入れない。
この人には、“いつもの感じ”が一番響く。
三通送り終えて、ヒロコはスマホを伏せた。――よし。
手応えは、正直ある。出勤日を増やすことに対して、
「不安」よりも「回せそう」という感覚の方が勝っている。
もちろん、確約なんて何もない。誰からも返事が来ない可能性だってある。
火曜日がスカスカで終わることも、十分あり得る。でも。
今のヒロコは、「何もせずに出勤日を迎える」状態ではない。
ちゃんと、声をかけた。ちゃんと、考えて動いた。
それだけで、月初の自分より一段上に立っている気がした。
月曜の夜。もうやることはない。深追いして、もう一通送る必要もない。
返信が来るかどうかは、相手次第。ここから先は、待つ時間や。
ベッドに入って、天井を見ながら、ふと考える。
――これが続いたら、――4月は「ちゃんと頑張った月」って言えるかもしれへんな。
週4出勤。指名も、場内も、少しずつ積み上がってきている。
数字だけやなく、人との関係も、確実に厚みが出てきている。
でも、油断はしない。調子に乗って、
「なんとかなるやろ」と雑になった瞬間、
全部崩れる世界やということも、もう知っている。だから決めた。
月曜日仕事終わりから、火曜日の昼までは、しっかり休む。
無理に詰め込まない。体も、頭も、整えてから火曜日を迎える。
積み上げるって、派手なことをすることやない。ちゃんと休むのも、その一部や。
そう思いながら、博子はゆっくり目を閉じた。




