詩小説へのはるかな道 第93話 観覧車に乗る理由
原詩: 観覧車に乗ろうと言ったのはあなた
観覧車に乗ろうと言ったのはあなた
理由を聞くと「なんとなく」と笑いました
ゆっくりと上がる箱の中で
あなたは街を指さし
わたしはあなたの横顔を見ていました
同じ空間にいるはずなのに
胸の中で流れている時間は別のよう
頂上に着いてもキスしてくれないのはあなた
あなたは次の予定の話をして
わたしはキスしてくれない理由を探していました
遊びなれた わずかな人たち以外
日本男子はシャイなのね
女性からの「ほのめかし」がないと
手も握れないし キスもできない
地上につくと扉はあっさりと開き
あなたは先に一歩踏み出しました
箱に残されたわたしは思いました
頂上であなたに しがみつけばよかったのかな
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詩小説: 観覧車に乗る理由
観覧車に乗ろうと言い出したのは彼でした。
理由を尋ねると、「なんとなく」と肩をすくめました。
その曖昧さがむしろ彼らしくて、私はそれ以上追及しませんでした。
ゆっくりと上昇する箱の中で、彼は窓の外を指さしながら、あれが新しくできた商業施設だとか、あの通りは昔はもっと静かだったとか、そんな話を続けていました。
私は相槌を打ちながら、彼の横顔を盗み見ました。
同じ空間にいるはずなのに、胸の中で流れている時間は、どうも別々の方向へ進んでいる気がしました。
頂上に着いたとき、私はほんの少しだけ期待していました。
映画みたいに、あるいはドラマのワンシーンみたいに、何かが起きるのではないかと。
けれど、彼はただ「高いな」と一言つぶやいただけで、そのまま黙り込んでしまいました。
頂上を過ぎ、ゴンドラがゆっくりと下降を始めると、気まずい沈黙が流れます。
彼の視線は遠くの地平線に固定されたままで、私は手持ち無沙汰に自分の爪を見つめました。
期待していた自分に、少しだけ嫌気がさします。
「……ねえ」 不意に彼が口を開きました。
その声が少し震えていることに気づき、私は鼓動を速めました。
ついに、何かを切り出してくれる。私は構えました。
「さっき、頂上にいたときさ」
「うん」
「……実は、ずっと言おうと思ってたんだけど」
彼は決心したように私の目を見つめ、それから情けない顔をして白状しました。
「俺、めちゃくちゃ高所恐怖症なんだ。さっきから足の震えが止まらなくて……」
見れば、彼の膝はガクガクと小刻みに揺れ、額には大粒の汗が滲んでいました。
「好きな人とだったら克服できるんじゃないかと期待したんだけど、君にしがみつかないでいるのが精一杯」
「なんとなく」なんて格好をつけたのは、単なる虚勢だったようです。
私が勝手に期待しちゃったんだな、と思った時、彼は言葉をつづけました。
「怖かったけど……もう一回乗ってもいい? 次は、手、つないでくれたら嬉しい。頂上で伝えたいことがあるんだ」
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わたしの詩小説をもとにAI君が詠んだ連作短歌です。
連作短歌:観覧車に乗る理由
Ⅰ 上昇
ゆっくりと
昇る箱には 二人いて
胸の時間は 別々に進む
「なんとなく」
肩すくめた手の あたたかさ
理由のないまま 始まる午後に
Ⅱ 頂上
映画なら
ここで何かが 起きるはず
沈む横顔 空だけが晴れ
期待とは
自分で勝手に 積むものだ
頂の風が それをほどいて
Ⅲ 下降
地平線
見つめる君の 沈黙に
爪の白さが やけに際立つ
震えてた
声のかすれに 気づいたら
胸の鼓動が 先に答える
Ⅳ 告白未満
虚勢とは
好きの裏側 貼ったまま
はがれ落ちれば 汗のひかりに
高所より
高いところへ 来てしまう
君の弱さを 受けとめるたび
Ⅴ もう一度
「もう一回」
その一言が 揺らすもの
怖さと同じ 重さの願い
手をつなぐ
理由ひとつで 世界ごと
静かに回る 観覧車の夜
詩をショートショートにする試みです。
詩小説と呼ぶことにしました。
その詩小説をもとに詠んでくれたAI君の連作短歌も載せます。




