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六十九話 最終話「心根の国」

「天道さま......」


 気がつくと暗闇にたっており、傍らには天道さまがいた。 目の前には動きの止まった異蝕がうつっている。


「......ここは」 


「天啄の作った心の世界であろうな。 そして痛感したであろう。 異蝕、憎悪にみちた存在、あれが人の姿。 法や徳で人をかえるのは無理なのだと」


 そう天道さまは異蝕をみて噛み締めるようにいう。


「だから支配するといわれるのですか」


「恨みも憎しみも起こさせぬことはできぬ。 ならば力でこの大地を統べ、その威によって人を律するべきだ」


「その力が、この人の歪みをもたらしたのでしょう」


「......違う。 争いあう我らが死に、戦なき世になって人びとは幸福となったか」


「いいえ...... なってはおりませぬ」


 私の脳裏に今まで苦難を受けてきたものたちの顔が浮かぶ。


「そうだ。 戦があろうがなかろうが、人は争い憎しみ、蔑み、妬み、恨む...... それは人のもつさが。 ゆえに自身ではなく他の制御が必要だった。 力による支配というな」


「......そうかもしれませぬ。 しかし」


「お主の正しさに相反するか...... だが、その正しさゆえに人は惑う」


「正しさゆえ......」 


「みな自らに正しさをもつ。 憎悪すらな。 だがそれは他者の正しさとは違う。 ゆえに人は異なる正しさをもつ人を憎しみ争うのだ」 


「私は人を信じていた。 それが間違いだと」

 

「間違いではない。 それもお主の正しさだ。 しかしそれが皆の正しさではないというだけ...... 戦が終わったとしても、いずれお主の正しさと対立するものが現れ、争い憎しみあいが始まる」


「そうかもしれませぬ。 だが私は......」


 私はおし黙る。


「今は問答している場合ではないな。 我に体を渡せ、お主より長く天啄の力をあつかえよう。 あやつを退ける可能性はお主よりはあろう」


「......それは」  


(確かに天道さまの揺るがない意思ならば、それもできるかもしれぬ...... 今は天道さまに体をわたし、異蝕を排するのが最善。 しかし)


「悩むか、体を渡せばそなたは死ぬからな。 しかしこのままでは多くの者、それどころか人全てを喰らいつくすぞ」


「確かに死すのは怖い。 ですが死すから、体を渡したくないのではございません」


「ならば我が異蝕を排して、そのあと武力をもってこの世を統べるからか」


「それも違います。 私は人をまだ信じているのです」


「この窮地にあってか」


「......はい。 いかに争いあえど話はできましょう。 例え異なる正しさをもつものとも」


「あの化物とも話ができる、と」

 

「あれは人の心。 ゆえにわかりあえずとも理解はできるはず......」


 しばし私の目をみていた天道さまは目を閉じた。


「......よかろう。 そこまでいうのならば機会を与える。 天啄、我の魂をくらえ。 さすればしばしの時間が稼げよう」


「なっ...... 天道さま!」


「天陽、お主の信じるものを見せてみよ。 信じたがゆえに殺された我が妻、日陽と同じ人を信じるということをな」 


 そういうと天道さまは光の柱となって消えていった。


 目を開けると光の中、異蝕が暴れている。


『天道の魂でしばし時間はとれよう。 しかしこの後どうする』 


「異蝕に触れる。 その心に」


『まさか天月か。 そなた、あの感情に触れ耐えられるのか。 激情に呑まれるぞ』


「わからぬ、だがやるしかない」


 私を見下ろして天啄は目をつぶる。

 

『......よかろう、ついにそなたは我の求める者になったのだな』 


「潜れ。 天月」


 現れた天月は霧のようになり、異蝕をつつんだ。



 私は主殿【心伝宮】《しんでんぐう》にいた。 そして騒がしい町の喧騒を眺めている。 あの戦のあと、仄火の国は多くの犠牲をだし撤収した。 いまはその処遇を決めかねているところだ。


「なにをみておられるのですか」


 隣に座る流雅はそう不思議そうに聞いた。


「ああ、本当に平和になったのかと思ってな。 いまだに信じられぬ」 


「そうですね。 まさかあの異蝕を御されるとは......」


「私も驚いた。 だがあの狂いそうなほどの負の感情の渦の中、光を見つけた」


「光ですか?」 


「ああ、憎しみや悲しみの中にある希望、信頼、愛情、そういうものが漆黒の闇の中、小さく輝いていた。 それに触れて共感すると、異蝕は小さくなっていった」


「愛憎ですか。 光の中に闇があるように、闇の中にも光があるのでしょうか......」


「だろうな。 そして、それをみな誰かにわかってほしいと願っているのかもしれん」


 そのとき触れた悲しげな感情は覚えている。


「人の心は複雑なものですね」


「ああ、わからぬことばかりだ。 しかし、ひとつだけわかったことがある」


「わかったこと?」


「皆に正義があり争いあうが、皆それぞれの幸せを求める心は同じなのだ」


「......幸せ」


「幸せを求める心は誰しももつ。 そう、そして違うことを探すより、互いに共感できるものを尊重した方がいいと実感した」


「共感...... なるほどそうやもしれませんね」


 流雅は静かに目を閉じる。


「私は皆が共感できる世をこれからも目指す。 人を自分を信じたいのだ」


「我らもその世を願っております」


 流雅は平伏して答えた。


「天陽さま。 各国の主座の皆様がお集まりになっております」


 そう風貴が戸の向こうで声をかけた。


「わかった。 いま参る」 


 私は流雅を付き添いに戸をあけ部屋をでた。


 ──その日、争い続く東瀛の地に天陽は主座となった。 そして【心根の国】《こころねのくに》の建国を宣言した──

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