第六十八話「人の心の陰」
「......天陽さま!」
扉を開けると流雅が駆け寄る。
「......よくぞご無事で」
「ああ、だが騒がしいな」
外が慌ただしく動いている。
「はい...... 実は」
「なっ! 天沼が兵を挙げた」
「ええ、美染、荒河、白銀と次々集結しつつあります。 主座たち、風貴どのたちも出陣しました」
「なぜだ......」
「お止めしたのですが、このまま我が国が滅べば、いずれ国が滅ぶと申されて、挙兵されました」
「くっ! 早く止めねば」
私たちは馬に乗り、戦場へとむかった。
「まだぶつかってはおらぬな」
「はい、呼応して仄火も出陣しているようですが、華咲と我が国の境にいると思われます」
(あの数同士が戦えば、地獄のような光景になる)
「......来たれ、冥棲」
「なっ!?」
突然、乗っている馬が暴れ倒れる。
「ぐっ! 大丈夫か、流雅......」
「はい...... しかしあれを」
流雅の見るさきに杖をつく男がいた。
「お主は実久!」
そこにいたのは仄火の国の至文将、実久だった。
「あなたにはここで死んでいただく......」
「まて! このまま戦が始まれば両方に多くの死者がでる! その方とてそれは不本意だろう」
「いいえ、戦なのだから、それは至極当然のこと......」
「そうではない。 そなたの国は勝てぬ。 私は天啄と契約した。 そなたらの勝ちはない。 私は戦うつもりもない。 いまならば兵を引けよう」
「......だからこそ、あなたを殺さねばならない」
「それはどういう......」
「冥棲」
地面をのたうつように影がはしる。
(影に潜む陰鰻か! 天啄を使うには力がいる、他の坐君はむやみに使えぬ!)
「現せ偲顕、砕け、灼耶」
暁真になった流雅は、鱗をまとった小手をふるう。
「ギャアアッ!!」
流雅は地面を殴ると爆発し影から黒い幅広い魚が吹き飛んだ。
「ここは私が!」
「厄介な...... しかたないですね。 依れ、化面......」
「それは!?」
実久の顔を獣の面がおおい、その体が獣のように黒い毛でおおわれる。
「まさか!! それは長光の! お前が長光! 弾けろ! 流雫!」
一瞬で地面をけり、流雅による。 流雫は弾け、実久の足を絡めとる。
「ちっ......」
「現せ偲顕、廻れ風我、伝われ雷我!」
風貴となった流雅は風我と雷我をよび、風をまとった雷を獣人となった実久に与える。
「ぐぅ!!」
仮面が砕け、獣化がとけ実久は膝をおった。
「その顔!?」
その顔は盲目などではなく、見開かれた目は金色で白目の部分が漆黒だった。
「......その黒い目、かつて冥夜に寄った天道さまと同じ。 まさか実久、お主は死んでいるのか......」
「くっ、くくくくっ、ばれてしまいましたね。 ええ、私は死者、坐君をえて、この体を動かしています......」
「あなたは荒河も仄火の国のために動いているのではないですね。 一体なにをしようとしているのです......」
流雅はそう問いただす。
「......さすが流雅どの。 博士とよばれるだけはある......」
そう皮肉をいい口をゆがめる。
「だが...... 生えよ【唸骸】《てんがい》」
実久の体から黒い骨が生え体を鎧のように包んでいく。
「あれは【肢骨】《しこつ》か! 流雅、気を付けろ! あれは鋼鉄以上の固さをもつ」
「はい! 舞いなさい仄星!」
流雅が煌め仄星を放つ。 仄星は実久の廻りを飛ぶ。
「そんなもの!」
実久がそれらを振り払うと爆発するも、黒煙のなか、実久が飛び出してくる。
「くっ!」
何とか刀で突進を防ぐ。
(固い、刀にヒビが...... これを貫くには晃玉を使うしかない。 ただここで使い切れば、天啄を......)
「はははははっ、ここで力尽きて戦を止めらなくなるのもよし、ここで死んでくれるのもよし、どちらでも好きなほうをお選びください! そして異蝕にて、全てのものが死にゆくのです!」
(やはり異蝕か...... 実久をなんとか!)
「......凍てつかせろ、佳白」
実久の体が白く凍りついていく。
「なっ!? これは」
「前のお返しよ実久......」
白い霧のなか、吐息をはいて蒼姫があらわれた。
「蒼姫!」
「またせたわね。 いえ待っていたわ天陽」
そう蒼姫は微笑む。
「くっ! これは!」
「そう、あんたの策謀にまんまと乗って契約した銀玉塵よ。 どう? 人を操って陥れたことが我が身に返ってくるなんて、因果応報よね」
「き、きさま......」
実久の体をおおう黒骨が砕けると同時に、実久の手足も砕け散り地面に崩れ落ちた。
「......くっ、くっくっ、だがもう遅い......」
そう実久は空を見て笑う。
「あれはなんだ......」
遠くに複数の黒い竜巻のようなものが見えた。




