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第六十六話「天啄顕現」

「......本当にいいのだな」


「はい」


 天房どのにつれられ、主殿の地下へと向かった。


 そこは鉄の巨大な扉が固く封印が施されていた。


「しかし、天陽どの。 このものは千年の間、誰も契約できたものはおらぬ。 あの天道さまさえも手をださなかった」


「はい、しかし、契約するしかありません」


「ご再考願えませぬか......」


 流雅は震える唇でいった。


「ならぬ。 そなたもわかっていよう。 これしか手はない」


「しかし! あの国をすて、他の地で国を興せば......」


「そういうわけにもいかぬ。 今の仄火の動きから、おそらく仄火が異蝕に関わっておる。 この軍勢からにげおおせたとして、再び暗雲がこの世界をおおうのは必定、それを救うにはこの方法しかない」


「しかし......」 


「代わってやりたいが、無駄であろうな......」


「天房どの。 私が帰らぬ場合、我が国の民や将をお守りくだされ」 


「あいわかった。 この命にかえても。 そのことは案ずるな」


 扉が開けられる。 


「天陽さま......」


「流雅、あとは任せる」


「......御意」


 そう頭を下げ、そのまま流雅は顔をあげなかった。



 部屋に進み出て扉がしまる。


 部屋には紋様がかかれていて、ひどく静かだ。 ただひどく空気が薄く感じる。


(いままでの御魂社とはちがう。 明らかに何者かの気配がする。 圧倒的なものの......)


 私は中央にすわると、目を閉じ自らの心にとう。


(我の声に、心に答えよ。 天啄)


 暗い世界にはいり、目を開けると、空は黒雲がおおい稲光が起こっていた。


(空が近い......)


「貴様......」


 そばに天道さまがいた。


「天啄を呼ぶなど正気か......」


「はい、かのものの力が必要なのです」


「ちっ、もはや、お主の死は確実...... 我の現世への復活もつゆと消えた」


「まだわかりませぬ」


「......あれは初代、天宗が呼び出したもの、そのときは一族のほとんどが犠牲になったという...... そして我が天沼はこの大陸のほとんどを制した」


「しっております。 しかし異蝕に対抗するにはこの方法しかない。 天道さまもお力添えをお願い致す」


「......くっ、つくづく無駄なことが好きなやつだ」


「無駄とは思うておりませぬ。 意味があるからなすのです」


「くるぞ......」


 黒い雲が裂けるように真ん中から割れると、光がその間から降りてきた。 それは四羽、四腕をもつ竜であった。


「あれが天啄......」 


(今までのと桁がちがう...... 周りの坐君すらいない...... 恐怖、いや畏怖...... この感じ、まさか!?)


ほうけるな天陽! 動け! いぬけ! 迅槍!」


 天道さまが風御を放つ。  


「カハァア」


 しかし天啄の一息で消された。


「化物め! 這いつくばれ地縛!」


 影より刀を抜くと、地面につきさした。


 地面に天啄が降りる。


「ガアアアアア!!」


 そのいななきひとつで私たちは吹き飛んだ。


「がはっ!」


(やはり、最初この世界にきたとき、いたのは天啄か。 錬舞や雲晶

では、体にすら当たらない! もはや晃玉のみに力を集める!)


「天道さま! 晃玉に力をためます!」


「わかっておる! 堕ちろ! 刃雨!」


 天道さまは天啄を押さえるため、坐君を放つ。


(頼む。 私の意志の全てをこめて...... この晃玉に)


『いまだ...... ならずか』


 そう声が頭に聞こえた。


(この声は......)


「なにをしている!! 早く放たぬか!」


「......いえ、天道さま、坐君を納めてください」


「なに......」


 私は前に進み出て、天啄と対峙する。


「やはり、私に話しかけたのはそなただったのか」


『そうだ...... 我はそなたの中にいた。 いや、歴代の主座の中にだ......』


「そなたに力を借りたい。 このままでは大きな戦になる」


『それをしてなんになる...... そなたは天宗のように、この先も我の力で戦に勝ちゆき、この大地をすべるつもりか』


「そんなことはしない。 我が中にいたのならわかるだろう。 私は戦をなくしたい」


『そんなことは起こらぬ。 人が生まれるだけ争いあう運命...... いずれ全てが滅びゆくまで......』


「......それはわからぬ。 しかし、そなたとてわからぬから、永き間私たちの中にいるのではないのか」


『......かつて天宗は後悔していた。 力による平定は新たな力の勃興となると悟った。 しかし後悔しても、もはやその道を進むほかなかった。 そなたはいまだ人の可能性を信じているのか』


「いずれ滅ぶとしても、それでも私は人を信じる。 いや信じたいのだ。 力を貸してくれ!」


『しかし、我が力を使うにはそなたの器は小さい...... おそらく異蝕がでてくれば、そなたの魂ではもたぬ......』


「それでも私は信じねばならない。 私を信じてくれるもののために、私を信じる」


『......そうか、ならば一時そなたに力を与えよう。 坐君、いや人の絶望から生まれしものと相対するために......』


 そういうと天啄は光となり天へとのぼる。 するとおおっていた黒雲がちり、空から光が差し込んだ。


(人の絶望から生まれしもの......)


 天啄のその言葉がひどく胸にのこった。



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