第六十五話「仄火10万の兵、誘拐の真相」
「何とか倒せたか......」
(天陽...... 我が力をえたとて、その意志が揺らぐとき、必ずその魂をくろうてやる)
そう天道さまの声が頭に響く。
(させませぬ......)
「しかし、この国どうされるおつもりで......」
「どうやらここのものたちは洗脳されていたもよう」
克己と墨也がいう。
「流雅、どうする」
「速やかに彼らをつれ離れましょう」
「離れる......」
「はい、ここは危険です」
流雅は落ち着かなくいった。
「......わかった」
私たちは呆然とする民たちを説得し、動かせるだけの馬車や牛車にのせ国を離れた。
「仄火が......」
私たちが国に戻ってすぐ、華咲の国に仄火の軍がはいった報が伝えられた。
「仄火がすぐに把握したのはまずかったですね」
「いいえ風貴どの。 仄火はこうするつもりだったのです」
「なっ、流雅、仄火が最初からしっていたというのか!」
暁真が驚くと克己はうなづく。
「ですね。 流雅どのがいうとおり、私もそうおもいます。 でなければ軍の行動がはやすぎる」
「私もそう思う。 糸姫が話をしていたとき、あやつが言ったおりと言っていた」
「あやつってやつが、虚君のいる華咲に天陽を呼び出すように仕組んだってのか」
漣は眉をひそめる。
「......問題は彼らの今後です」
周防がそういった。
「ここを狙っている...... か」
「ええ、美染の国を手に入れることを失敗したのです。 海に面しているこの国は格好の標的...... いまだ兵士にできるものは二千といったところ」
「天沼と荒河、美染、白銀の力を借りて、五、六万、海濤は兵をだしても間に合いませんね」
周防がそういった。
「五、六は大きいが...... 仄火は克己」
「商人仲間に話を聞きましたが、おそらく十万はいますな」
「十万!? いつの間に!」
暁真が驚く。
「私が仄火にいるときに徴兵が行われていました。 一部の商人しかその動きをしりませなんだ。 どうやら傭兵も加わっているようですな」
「ただ、守るだけなら六対十、戦えなくもない」
「暁真どの、そうとも限りません。 我らはこもることができません」
「ああ、この国には他国の兵を駐在させる砦も兵糧もない」
漣がいうと周防がうなづく。
「つまり籠城はできない」
「しかも、向こうはこの戦争を見越していた。 兵糧も確保済み。 短期でなければこちらの兵站がもたない......」
風貴は唇を噛む。
「長期戦は無理...... 前は華咲の国があり、進攻を塞いでいたが、いまやそこが落ちた。 我らが華咲の糸姫を倒すのも計画か」
「かもしれません。 天陽さまが倒れ、糸姫が弱ってもどちらでもよかったのやも......」
「流雅、今の私の力なら倒せるか」
「いえ、いかに天道さまの力をえても個人で軍は倒せますまい。 あるいはひとつだけ......」
流雅は言葉をのみこんだ。
「なんだ。 申せ」
「......申したくありません」
「......いや、わかった。 私も思い出した」
その反応で思い出したことがあった。
「しかし! それだけは!」
「流雅、もはや選択の余地はない。 軍を再編する時間しかないのだ。 そなたらは私が帰るまでここで踏みとどまってくれ」
みな無言でうなづいた。
「聞いておる......」
私と流雅が天沼につくと、天房どのと紅姫どの、白銀の白恒どの、そして荒河の新主座河家どのが顔を揃えていた。 だが四者の表情は暗い。
「わかっております。 ですので四国には手をださずにいていただきたい」
「増援はいらぬと申すか! ならばあの国をすてこの国にくるのだ!」
天房どのがそう語気を強めた。
「民だけ避難させていただきたい」
「しかし...... どちらにせよ、いずれ我らも飲み込まれよう」
白銀の白恒どのはその長い白い髭をなでる。
「ですね。 この戦に参加しようがしまいが一時しのぎにすぎません。 ここまで周到に計画していたとは」
「ああ、完全に後手に回った。 それぞれ国にゴタゴタがあったゆえな」
紅姫どのと河家どのもそういう。
「だが、四国の兵を減らさず防衛に回せば、仄火もそう簡単には手をだせません。 増援に来なければ攻める大義名分を作る必要がありましょう」
「くっ! これほど無力とは、兵力の増強もしておったが、まさかそれほどの兵を集めるなど!」
天房どのは唇を噛む。
「秘密裏に動いたのでしょう。 我らも仄火を探ってはいましたが、それほどの人の移動は把握できませなんだ」
「最近、仄火の財政が傾いているとの噂はあったが、兵の補充で使っていたのか。 しかしどこに、それだけの兵が」
河家どのと紅姫どのがそういうと、白恒どのも腕をくんだ。
「ふむ、謎だな......」
「おそらく、各国に潜伏させていたと思われます。 最近各国で人がいなくなる事例が報告されていますから」
流雅がそういうと、四人は顔を見合わせた。
「なっ! あれが、どういうことだ!」
河家どのが声をあげる。
「おそらくいなくなったものは他の国にいたのです。 それぞれの国に各々ことなる国のものを住まわせていた」
「なぜそのようなことを......」
白恒どのは首をかしげた。
「その国の生まれのものがいままでと異なることをすれば目につきます。 ただよそ者にはできるだけ関わらないのが人の世でしょう」
私がいうと、四人は目を見開いた。
「......訓練や密会をしていても、その国生まれのものほど違和感はないということですね」
紅姫どのがいうと流雅はうなづく。
「はい、私たちは最初、生け贄のために誘拐をしていたのだと思いました。 もしかしたら、それはそういう風に思わせる為だったのやもしれませぬ」
「そちらに目をむけさせて、兵力の増強をしていたというのか......」
河家どのは唸った。
「しかり、どの国にも不満をもち国に馴染まない者はおりましょう。 そのものたちを雇い、他の国に潜り込ませていたのでしょう」
「不穏分子を利用したのか......」
白恒どのは苦い顔をした。
「......民の不満は、私たちの不徳が招いたこと」
「しかし今となっては後の祭り、何か手はあるのか。 まさか! 天陽どの!」
天房どのは驚きのあまり言葉を失う。
「......ええ、それしかありません」
私は四人に話をした。




