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第六十三話「天陽の覚悟」

「やはり......」


 深夜になろうとしたとき、反応があった。


「では追いますか」


 そう暗闇から墨也の声がする。


「ああ......」


 私たちは暗闇のなかを追った。



「......これがその者か」


 宮殿裏の大樹の中にはいると暗闇から声がした。 


「はい、【糸姫】《いとひめ》さま......」


 それは主座、華由だった。 何者かとはなしている。 私と墨也は糸にからめとられている。


「こやつをこちらの手中に納めておれば、奴らは手出しできませぬ」


「あやつのいったとおりとなったか......」


(あやつ)


「くくく、天沼の血のものを国ごとくろうてやろうか」


「糸...... なにものだ」


「ふふっ、起きたか...... 人の子よ」 


 そう話しかけたのは人より巨大な赤い蜘蛛だった。 


(【怪蜘】《かいち》これは虚君か...... 人を操る力をもつという)


「まさか会話のできる虚君とはな。 どうやらこの国はそなたの国のようだな」


「そうよ。 この国に逃げ込んだものたちは、我の操り人形となる...... そして我が餌であり、我が子の苗床でもある」


 暗闇になれて来ると、樹のそこかしこに巨大な蜘蛛の巣がある。


「なるほど、それで私をこの国に呼んだか」


「そなたらは主座とやらを尊ぶ。 それにしても、天沼の血のものがまさか章魚木を排し国を造ろうとはな......」


「章魚木...... あれもそなたの仕業か」


「そう。 我が呼び出しあそこで飼っていたのだ...... 近づくものをこちらに連れてくるためにだ......」


「なるほど......」


「いや、この匂い、貴様、天沼の血のものではないな......」


「代われ鬨!」


 捕らえられていた私と墨也の姿となっていた流雅と克己が、影よりでた私のもとにくる。 二人は墨也に影へと隠れた。


「貴様...... 姿を」


「あまねく照らせ晃玉!」


 私が呼び出した晃玉は蜘蛛を照らした。 


「............」


 糸姫は焼かれ身をよじる。 煙がたち燃え盛ると蜘蛛は悶えながら炎に消えていった。



「大丈夫か、二人とも」


「ええ、死ぬかと思いましたが......」


 克己が苦笑した。


「しかし、晃玉の威力が上がっていますね。 虚君を焼き払うとは」


 墨也は感嘆するようにいった。


「......強くなっているのは感じます。 おそらく天陽さまの心が強くなったからでしょう。 しかし......」


 流雅は言葉を止めた。


「ああ確かにあきらかに力は増している。 しかしこうも簡単に倒せるとは......」


 その時地鳴りがして樹全体が揺れる。


「なんだ!?」


「......人間風情が、また我を愚弄するか......」


 そういう声が空間に響いた。


「これは!?」


「すぐ影に!!」


 墨也の影にはいり、その場から離れる。


 

 宮殿よりでると、宮殿を包んでいた樹は動きその姿をかえる。


「あれは......」


 それは樹でできた蜘蛛だった。


「【樹海蜘蛛】《じゅかいぐも》!! これが本体か!」


「おそらく、あの赤い蜘蛛も操られていたのでしょう」


「あんなものどうしようもありませんよ......」


「ひとまずこの国よりでなければ」


 墨也が逃走路を確認していう。


「墨也、生きてあるものを待避させよ」


「しかし、あれではとても逃げきれませぬよ」


 克己がいうとおり、その巨大な蜘蛛は辺りに糸を吐きちらしていた。 我らを逃がさぬようにだろう。


「怒り狂っているようです。 もはや自ら動き、我が国に迫りくるかもしれませぬ」


 流雅が見上げながらいった。


「しかし、これでは軍が必要でしょう。 ひと度かえり防衛線をはるしかありますまい。 いやそれすら......」


 克己が冷静に分析している。


「ああ、糸が森に放たれ我らが動けぬ。 やはり......」


「天陽どの! まさか!」


 流雅が声をあげる。


「やむをえまい...... このままではこの国のみならず、我が国も滅びかねぬ」


「しかし、ならば、私が!」


「無理だ。 わかっていよう」


 私がそういうと流雅が唇を噛む。


(そう、これは私しかできぬ)


 その時、天房さまに、相談にあったときのことを思い出していた。



「天房どの、これは」


 私の前に封をしてある紙がおかれている。


「ああ、冥夜がもっていた遺髪だ」


「天道さまの......」


「そう、冥夜は遺髪を用い天道さまの魂を呼び出した。 古の契約により継寄と呼んだ坐君を使ってな」


「なるほど、これを媒介にしたのか」


「ああ」


「それで天房どの。 なぜ私にこれを」 


「ふむ、あの契約は我が国に伝わるものだ。 この国に滅びの危機が迫ったときに使う秘法ともいうべきものだった。 しかし、しってのとおり私は坐君との契約に失敗した...... 正直使っても取り込まれ飢君となるであろう。 そなたならば使えるやもしれん」


「そのような危機がおこると......」


「わからぬ。 ただ嫌な予感がするのだ。 天道さまもそういっていたのであろう」


「はい...... ですから国を興そうと」


「ふむ、役立たせぬ私よりそなたがしるほうがよい。 その力使うべきときなどないのが最もよいがな」


 そう不安そうに天房どのはいった。


(ここが使うべきときか......)


 私は覚悟し、術式を復唱する。


 目の前に樹海蜘蛛が迫る。


「......承れ、継寄」


 黒い球体が現れると、私はその球体へと吸い込まれた。



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