第六十二話「森深くの国」
国造りも順調にきてたおり、予想外のことが起こった。
「本当か流雅」
「ええ、華咲の国の使者がこちらに」
私はすぐに応接の間にむかった。
そこでは使者三人がいて、私の前でひざまずいた。
「これは、天陽さま、お初にお目にかかります。 お目通りいただき光栄のいたり」
そう恭しく少女がいった。
「そなたらが華咲の国の......」
「はい、私は華咲の国、主座【華由】《かゆ》の文をもち参りました。 何卒お受け取りを」
そういって人形のような無表情な少女ーー【香流】《かおる》は盆にのせた文をこちらにわたした。
それは自国への招待状だった。
「華咲の国は他国との交流をもたぬ。 なぜ急に使者などを送られたのか」
「この棄てられた地に人が住んで町ができております。 それはすなわち国を興すということ。 我らは隣国となるこの国と誼を通じたいのです」
(確かに隣に人が集まれば警戒もしような......)
みると流雅はうなづく。
「あいわかった。 そちらに赴くゆえ、そう主座どのにお伝えくだされ」
「はっ、ありがたく。 そう主座に伝えましょう」
そう香流は表情もかえることもなく立ち上がると、礼をしてさっていった。
「でどう思う流雅?」
「そうですね。 さすがに予想できませんでした」
「だろうな。 交流を一切しない国からの使者だ」
「だが、隣国に異変があれば見に来るのは普通だ」
漣に風貴がいった。
「そうですが、我らも侵入できないゆえ、どんな国か想像もつきませぬ」
そう墨也もいぶかしんでいる。
「烏剛ですら侵入できない国、本当に大丈夫でしょうか」
周防は不安げで暁真もうなづく。
「そうだな。 さすがに天陽一人向かわせるわけにはいかないな」
「とはいえ、この国を空けるのも危険かと、美染をあきらめた仄火がここを攻めないという保証がない」
克己がそういう。
「そうですね。 あまり武将を護衛に向かわせるのは、警戒とこちらの防衛に不備をきたします」
「わかった」
「しかし、一応天房さま、紅姫さまにお会いしてからのほうがよろしいかと」
そうして天房と紅姫に相談して、私と克己、流雅、墨也で華咲の国にむかうことになった。
「ここが、華咲の国か」
目の前に巨大な木々が現れた。
「我が国よりも大きな木ですね」
墨也がいうと、流雅はうなづいた。
「ええ、国全体がこの樹海にある国」
「どう考えても貿易など利便性に問題がありますが」
そう克己は不思議そうにいった。
「その代わりこの国へ大軍を向けるのは無理だな」
「ええ、この木々では近づくことすら容易ではないでしょう。 あれですか」
そこには大きな木でできた門があらわれた。 無表情な顔で兵士たちがたっている。
そこを通ると町には植物の根が至るところにはっている。
「まあ、活気はないですが、作業をしているものはいるようです」
克己がいうように木々を運ぶものたちがいる。
「お待ちしておりました。 こちらに」
門からでると香流がまち、馬車に招いた。
「ずいぶん木々が多いですね」
「ええ、この国は樹海に守られており、果実や野菜、木材で生活をなしています」
そう香流は表情もかえず答えた。
(ここまで感情を読めぬのは、流雅以来だな...... いやあの仮面の男もか)
私は荒河の長光を思い出していた。
それから町をいくつか進み、大きな町にはいると巨大な木の中にある主殿がみえてくる。
「沈樹宮です」
そして主殿の前に馬車がとまる。
「主座がおまちです。 どうぞ......」
そういわれ主殿にはいる。 そこは異様に静かで人の気配がしない。
「香流どの。 衛兵すらいないようだが......」
「はい、この国に、攻めいるものなどいませんゆえ、門以外に兵士などおらぬのです。 無論、戦ともなれば民も武器を取りますが」
「兼任ということか......」
(それにしても侍従すらいないとは)
墨也、流雅、克己も周囲をみている。
「そうですね。 こちらです」
宮殿をすすみ、大きな部屋の前にたつ。
扉が開くと、部屋の真ん中に一人の老人がすわっている。
「主座の華由にございます」
そう香流がいった。
「華由どの。 お招きにより参上つかまつりました」
「おお、天陽どの、よくきてくださいました。 私がこの国の主座、華由です」
そう穏やかな老人は微笑んでいった。
(柔和そうだが、目の奥は笑っていない。 しかし強い敵意も感じぬ。 それどころか感情すら...... どういうことだ)
それから華由と話をする。 何かこの人物をしる手がかりを探し様々な質問をしたが、模範的な回答しか帰ってこない。
「今日はお会いできて楽しく過ごせました。 今後とも我が国と誼を通じていただきたい」
「こちらこそ、お願い致します」
そう特になにもなく会談は終わる。
「もう暗くなります。 この華咲の国の森には、夜になると飢君がさまよいでますゆえ帰国は明日にされたほうがよいかとぞんじます。 今宵はここにお泊まりくださいませ」
そう香流にいわれ宮殿内の部屋に案内される。
部屋にはいると流雅は耳元ではなす。
「天陽さま私と克己どのはさきに国に戻ります。 やることがありますので......」
「......わかった」
私と墨也は残ることにした。




