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第六十一話「商人の哲学」

 私たちは主殿に戻る。 そして皆で集まり会議する。


「それで克己どう思う?」


「はい、かなりよき町と考えます。 森には木々、鉱山に、豊かな田畑、きちんと整備された水路に整理された区画。 商家にとってもよい商売ができそうです」


「なれば商業にこのぐらいの税をかけるか」


 私は想定した税をみせた。


「いえ、それでは他国に商人をとられましょう。 前に話した通り、我らはまだ新しいどうなるとも思えぬ国に投資するのは賭けに同じ、やはり税は安くするのがよろしいかと」


「それなら、貧富が広がらぬか」


 風貴が眉をひそめる、


「左様、商人を重視すれば、金は集められど、民の暮らしは楽になるとは必ずしもなりませぬ。 しかし民を重視すれば民の暮らしはよくなれど金は集められませぬ。 そして民の暮らしも悪くなりましょうな」


「どちらか...... ということか」


「いいえ、どちらを選んでも国は衰えるのです。 金がなくなれば国が衰え、民が苦しめれば国が衰える」


「だったら選択しようもないな」


 漣がそういうと、克己はうなづく。


「ゆえに制約と情報開示です」


「制約と情報開示......」


「まず、この国で商売をするには、国のみならず民にも情報を開示させ、様々な制約をもうけます。 その資金量、雇用数、出入金、納税金などです」


「国ではなく民にも見せるのか?」


「はい、国のみにすると、賄賂などで商業組合も不正をおこなうことがありますから」


「民にもしられれば不正はしづらいな」


 暁真がうなづく。


「ええ、更にその店が何人雇って税をどの程度納めるのか。 または国にどんな貢献をするのか。 それを民にもしってもらい、どの程度自分達へ恩恵があるかを理解してもらう。 さすれば規制を大きくせずとも、その店を選択できましょう」


「自分達へ益がある店から物を買うのですね。 ですが、そのようにうまく行くでしょうか」


 流雅はそう問いかけた。


「ええ、それが実際の行動にでるかはわかりませぬ。 だが人は自らを良きようにみせたがる。 金や力のあるものは、時として自ら善行を行おうとしますよね」


「まあ余裕があり、慈悲や信仰心、虚栄心はあるだろうからな」


「外聞、人の心を利用するのですね」


 周防がそういう。


「そう...... 自らよこしまなものだと喧伝けんでんするものはいません。 どれ程悪逆なものでも必ず自らのただしさを語るでしょう。 それが人というものです」


「なるほど。 それで税を軽くするのだな」


 漣が手をうった。


「ええ、情報をださせるのは至難のわざ、なるだけ安く手に入れ高く売るのが商人。 それをださせるには大きな餌が必要なのです。 そのうちこの国でも貨幣の鋳造ができるようになればよいのですが、いまはこの方法がよろしかろうと存じます」


「......よかろう。 その件を克己に任せる。 それで進めてくれ」


「御意」



「これで内政の両翼は揃いましたね。 治水に漣どの、農業、漁業に周防どの。 商業に克己どの」


 会議が終わり、皆それぞれの仕事にむかった。 私は流雅と主殿からみえる月をみていた。


「うむ、国造りの土台はできそうだ。 しかし......」


「やはり、世界に不穏な空気を感じるのですね......」 


「私がいった様々な国で何かが起こっているような気配がする...... 正直このまま安寧とはいかなそうだ」


「そうですね。 墨也どのからも各国の異変について連絡がきておりますから」


「うむ。 各国の誘拐事件...... やはりどこかで異蝕を呼ぼうとしておるのか。 かなりの生け贄の数になっておるはず、天沼と美染、白銀、荒河、そして海濤と各国に文をだしてもらっておるが、事件は起こっていてもその姿を捉えられぬ」


「ええ、とても恐ろしいですね......」


「流雅にも恐ろしいと思うことがあるのか」


「私をなんだと思われているのですか」


 こちらに微笑んでいった。


「い、いや、そなたは未来すら見通しておるようでな。 すまぬ、失言だった」


「未来などわかりませぬ...... 私は事柄を分析しているだけ、ひとりではなにもできません」


 珍しく流雅の弱音をきいた。


「そうよな。 そなたがいかに聡明だとはいえ、私と変わらぬ年。 しかし案ずるな。 私とみなとで万難を排しこの国を興そう」


「......天陽さま。 わかりました。 それを信じて、この流雅お待ち申しております」


 そう流雅が微笑んだ。

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