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第六十話「商人の資産」

 そこに現れたのは夕凪だった。 私が暁真に使いをだして事前に呼んでいたからだ。


「ゆ、夕凪どの...... なぜあなたがこんなところに」


「夕凪、あの各国に店をかまえる大店、夕顔の主か!」


「夕顔の......」


 克己と間網と時高は驚いている。


「孫とはまさか!?」


「ああ、我が孫の暁真が失礼をいたした。 少々口が悪くてな。 間網どの」


「い、いえ、そんなことは......」


 間網は恐縮している。


(店の規模が違う...... 敵対すればつぶれるのは必定)


「さて、本題に入りましょう、 そちらの克己どのが罪を犯したとのこと、その証拠が帳簿にあると......」


「ああ、そうですとも......」


「ふむ、その帳簿見せていただけますかな」


 そういう夕凪に間網はおずおずと手渡した。


「材料とその値段...... 子供を売買していると聞きましたが、ずいぶん安いですな」


「......無論、正しい値段など書き込むわけもない。 額や桁など偽装できましょう」


「確かに...... 偽装できましょうが、この帳簿を残したのはなぜでございましょうな」


「計算するのに必要でしょうから、裏帳簿など珍しくもないでしょう」


「珍しくもない...... ならば、お金はどこにいったのですかな?」


「それはどこかに隠しておるはず...... それか店に高価なものとしてあるのではないですか。 もしくは店の内装などにね」


 そう間網はせせらわらっていった。


「ほう、それをまだ見つけてはおらぬということですな。 なれば店をお調べなさいませ。 この夕凪が仄火の国に話を付けましょう。 でてくれば間網どのが正しい。 しかし見つからねば商人全体にこの事を伝えねばなりませんな」


 そういうと夕凪は冷たい目を間網でみた。


「ひっ......」


 間網は顔をひきつらせた。


「夕凪さま......」


 そのとき克己がわってはいる。


「なんだね」


「これは商人同士の話、私に任せてもらえますか」


 そう克己はいった。


「そ、そうです。 いまは私と克己どのの話、邪魔をなさらないでいただきたい」


「......間網どの。 土地と店を売る件は了承しました」


「おい!」


 暁真は声をだした。


「よいのです。 ですが子供たちはつれて参ります。 よろしいですか」


「ふふっ、ええもちろん。 私は子供など使いませんゆえな。 夕凪どのあなたも聞きましたな。 これは取引、あなたが証人となっていただきたい」


「......克己どのよろしいのか」


「はい夕凪さま、証人の件よろしくお願いいたします」


 そう頭を下げた。


「......わかった。 私が証人となろう。 私の名前をもってこの件はこれで手をうち終わりとする」


 そう夕凪が宣言し、互いに文書で契約をした。



「すみません。 我がことでこのように手を煩わせて」


 克己はそう頭を深々とさげた。 店に戻り、子供たちは荷物をまとめている。


「かまわないが、よかったのか」


「はい、商人ゆえ綺麗事だけでは生きてはいけませんゆえな」


「ふざけるなよ! 奴らの思いどおりだろうが!」


「やめよ暁真、本人が決めたことだ」


 夕凪は怒りに震える暁真をなだめた。


「それでこれからどうなされる?」


「他の国にて店を始めようと思います......」


「それならば我が願い聞いてもらえませぬか」


「......あのような失態をした私に仕えよと申すのですか?」


「正しい商売をして偽証により失うことは失態だとは思っておりませぬ。 我らにはそなたの力が必要。 再考をしてはいただけませぬか」


「私などより夕凪さまがいらっしゃるなら、夕凪さまにお任せすればよろしいのでは」


「私はもはや高齢、いつまでもいられるわけではない。 もはや新しき者に託さねばならん。 私の代わりといってはなんだが、この方に力を貸してはもらえないか」


 そう夕凪にいわれ、克己は押し黙った。


「......そうですね。 まことに勝手ながらあなたの国に属させていただきたい」


「こちらこそお願い致す」


「この克己、天陽さまに忠誠を誓いましょう」


 そういって克己は頭を下げ、準備があるからと帰った。


「俺は納得いってねえ」


「まあ、暁真仕方あるまい。 本人がよいというのだ。 我らは新たな力をえたことを素直に喜ぼう」


「俺もだ。 奴らは今ごろほくそえんでいるはずだ」


 漣も不服そうだ。


「ふふふっ、三人ともまだまだですな」


 そう夕凪は、準備する子供たちをみて微笑んだ。


「どういうことだよ。 じいさん」


「商人というものをわかってはおらぬ、ということだ」


「しかし資産はうしないますぞ」


 漣が不満げにそう夕凪にいった。


「資産か。 ではこの店をみてみるのだ」


「店...... ただの店だが」


 私は店を見回す、特に変哲もない店だった。


「左様、柱や壁、障子など特別なものはなくただの店です。 それに扱うものも品はよいが普段使いのもの。 子供たちを使い中古を丁寧に修理したものでしょう」


「そういっておったな」


「つまり、店そのものはたいして価値のないもの......」 


 漣が考えている。


「子供たちがこの店の資産というわけか、そしてそこそこの値段で店を売った...... それは」


 暁真が気づいたようにうなづく。


「そうだ。 間網は店に金をかけている。 だから克己も同じだと考えたのだろう」


「そういえば店には特にめぼしいものはなかった。 だが繁盛しているようだったが......」


 私がいうと夕凪はうなづく。


「ええ、資産は子供たち、そして着物ですな」


「着物、確かに上等なものにみえるが」


「そう美染の国のもので、あの金の刺繍は実際の金、本金糸でできておりますな」


「それはつまり資産を......」


 私がそういいかけると夕凪は微笑んだ。


「商人は綺麗事だけではいきていない、そういうことか」

 

 私も暁真と漣と顔を見合わせた。

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