第五十八話「克己の真意」
「まあ、これは無理だな。 やつのいうことはいちいちもっともだ。 新興の国に全てを預けるのは危険だしな」
「まあいいじゃねえか。 子供を働かせるやつなどすかん!」
漣と暁真はそういって宿に戻ろうとした。
私は店からでてくる克己をみて足を止めた。
「先に宿に帰っていてくれ」
「おい!」
私は克己のあとをつけた。
(どうも気になる。 流雅の話もあるが、あの男)
しばらく追いかける。 すると人のいない場所で克己は振り返った。
「いつまで、ついてらっしゃるつもりですか」
「やはり、しっていたのか」
「商人は観察眼が命ですのでね。 それでなにようですかな。 お話はお断りしたはず」
「それはいい。 無理強いしても従うものとも思えぬ。 ただそなたという男と少し話してみたかっただけだ」
「私と...... 変わった御仁だ。 では店にかえってからにしましょう」
克己が店にかえると、客はいず、店員が掃除をしていた。
「叶、菓子を買ってきた。 皆で食べなさい」
「はい! みんな!」
そういうと菓子をもち、渡された皆の顔がほころんだ。
「では奥へ」
私は奥へとむかった。
「それで話しとは......」
「ふむ、なぜあんな風にいったのかと気になってな」
「あんな風......」
「そなたは子供たちを安い労働力といった。 しかし、みなとても子供が着られぬ高価な服をきて、とても軽々しく扱ってるとは思えぬ」
「............」
「菓子を与えたのもそうだが、彼らは文字の読み書きや算盤もできる。 普通の子供たちより学があるようだ。 なのになぜそのような言い方をしたかが、気になってな」
「......なるほどよくみてらっしゃる。 さすがに主座となられるお方だ。 ただ理由は簡単ですよ。 いくら話したとて言い訳に聞こえず、信じないとも思った。 いままでもそうでしたからな」
そう克己はお茶をすすった。
「そうだろうか。 私にはもっと深い考えがあるようにみえる」
「ふぅ、変なことを気にするお方だ」
「すまぬな。 宮中で育ったゆえ、人の機微に敏くなる」
「ふふっ、そうですな...... 彼らは孤児や貧しい子供たちです。 雇うものもおらず、食うや食わずの生活。 私と同じ、いわば過去の自分でしてね......」
「そのものたちを育てておったか」
(流雅が気にするわけだな)
「金を与えても、私が死ねばそれまで、しかし知恵と学問、仕事を覚えれば他で潰しもききましょう。 無論ただ与えているわけではありません。 私にも利益もでる。 彼らとは共存関係なのですよ」
そう克己は美味しそうに菓子をほう張る子供たちを優しくみている。
「なるほど、こちらのものが失礼なものいいをしたな。 すまぬ」
そう頭を下げたちあがる。
「それだけですか?」
「ああ、そなたにはそなたの生き方があろう。 我らにかまっている暇もあるまい」
「そういっていただけると助かります」
そう克己も頭を下げた。
かえろうとすると、店員の一人があわてて駆け込んできた。
「大変です! 役所の方が店主をだすようにと......」
「わかった。 お前たちは奥にいなさい」
克己はそういうと部屋をでた。 私もあとにつづく。
「これはこれは時高さま。 いったいなにようですかな」
そこには役人を何人か引き連れた上役と思われるものがいた。
「ふむ、困ったことになってな......」
髭を撫でながら時高といわれる男はどかっと座った。
「困ったこととは?」
「ふむ、他の店よりそなたの店が法を犯しておると通報があったのだ」
「私の店が、いったいなんの法を犯しておるとおっしゃるのです」
「そなたの店は年端もいかぬ子供を働かせておる。 これは倫理に反するというのだ」
「しかし、この国にそんな法はございませぬ」
「確かにな...... しかし法には不備のでるもの。 このまま騒ぎたてられては我らも動かざるをえぬ。 その店にはあまり騒ぎ立てず口を慎むようにいうつもりだが...... なあ」
そう時高は後ろの部下たちに笑いかけた。
(賄賂の要求か......)
「......それは、時高さまに迷惑をかけられましたな。 これで」
そういうと、懐から音のする袋をだした。
「おお、そうか、そうか。 わかった。 これからもよい商いをしてくれ」
そういうと、時高は笑いながら去っていった。
「ふぅ」
「よいのか。 あれでは何度でもたかりにくるぞ」
「でしょうな。 しかし商売は綺麗事だけでは成り立ちませぬ。 少額ですむなら被害は少ない。 あのものは昔より他の店にもふっかけ、断ったものを追い込む小悪党。 しかし小者ゆえそれほどのことをできるでもない。 いまのところは、これでよいのです。 いまのところは......」
そういうと、克己は子供たちを安心させるように話して聞かせていた。




