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第五十七話「商人克己」

「海濤の国は治まったようだな」


「はい、天陽さまのご采配により、民たちは平安を取り戻したようです。 被害も少なく安堵しております」


 そう周防は頭を下げた。 混乱する海濤の国へと資金と兵糧をおくっていたことをいっているのだろう。


「波彦は」


「捕らえられ過去の罪状にて、沙汰をまっているとか」


 あわれみを込めて周防はいった。


「だが周防どの、いや周防はなぜ主座を固辞したのだ。 そなたなら民をうまくまとめられるであろう」


「私は主座の器にはございません。 あの苦境にもなにもできず、ただうろたえるばかり。 たとえ被害がでようとも決断をし波彦を討たねばならぬ立場、それができませなんだ。 我が弟、波行のほうが適していましょう」


 一時我が国にいた波行が、海濤の国の主座についていた。


「我らとしてはそなたがいてくれることで助かるゆえ、ありがたい」


「はっ、天楊さま、我が力を十全にお使いください」


 そう周防は平伏した。



「周防どのは特に農業や漁業に知恵と才をもたれるお方。 これで内政の片翼がえられました」


「もう片翼は夕凪か」


「いえ、確かに夕凪どのは才に優れた方ですが、我が国の民ではございません。 それに夕凪どのに頼りすぎるのは継ぐものがいないのは危険です。 我が方に最低もうひとり商才に長けるものが必要です」


 流雅がそういった。 


「商人か...... しかし、商人で才あるものはとっくに財をなしていよう。 その上でまつりごとに参加させるのは危険ではないですか」


「ああ風貴のいうとおりだ。 金をもって政治力ももてば国を狙う野心ももつだろうぜ」 


 漣がそういった。


「しかり、ですが野心なきものをいくらえても、国は栄えませぬ。 清も濁も飲み込んでこそ国はなるのです」 


「まあ、そうだろうな。 商人が単なるあまちゃんじゃ困る。 じじいもこの国を手伝いながらも、しっかり利益はだしているしな」


 暁真はそううなづいた。


「清と濁か...... それでそのようなものに心当たりはあるのか」


「はい、そのものは仄火の国にいます」


「仄火...... か。 よかろういってみよう」



 私と暁真と漣は仄火にきていた。 人通りの多い商店街をあるく。 さまざまな店が軒を連ねている。


「ここにいるらしい」


「ああ確か【克己】《かつき》というらしいな」


 暁真が答える。


「かなりくせのある商人だと...... たしか店の名前は【回首】《かいしゅ》」


 その時、外観の豪華な店がみえた。 看板には大鯨たいげいとかかれてある。 通りからも柱の細工や中におかれた高価そうな壺などがみえた。


「大鯨、店主は間網まもうか」


「しってるのか天陽、ああ、この国では最も大きな店だ」


「夕顔ではないのか」


 暁真に漣がきいた。


「この国に一応は支店はあるが、あまり力はいれてないらしい。 大きいが経済は行き詰まりはじめているからな」


「それもあって美染を狙っていたのか」


「ああ、美染から海にでて交易なども狙ってたんだろうな。 あれは......」


 回首、そうかかれた木製の看板がある。


 我らはのれんをくぐる。


「すまない」


「はい、いらっしゃいませ」


 そう明るく少女が声をかけてきた。 とても上等な金の刺繍のはいった着物を着ている。


(店員...... ずいぶん若いな)


「すまぬが店主はいらっしゃるかな」


「あっ、はい。 少々お待ちください」


 そういって少女は奥へとかけこんだ。 


 店には鍋、包丁、ざる、鋏やうちわ、手拭いなど普段使いのものが並べられており、中古らしく値段も手頃で、品質もほどほどだった。 ほかにも若い店員がそろばんを弾き、帳面に記入している。


「別段普通の店だな。 本当に商才にたけるのか?」


「そうだな。 変わってることといえば、店員が若いってだけだな。 あとはいい着物を着ているぐらいか」


 そう二人はいう。


「確かに...... これといって別段変わった店でも、違法のものを扱ってるわけでもなさそうだ」


 だが店には客も多く、繁盛しているようだ。


「所詮噂だろう」


「話に尾ひれが付いたのかもな」


(ふむ、確かにあり得ない話じゃないが、流雅の話では......)


「なんだかなえ、私に会いたいものがいるという話だが?」


 そう奥より高級だが上品な着物を着た小柄な青年が現れた。


「若いな」


「お客様ですかな。 私に会いたいという方は?」


「ああ、私は天陽と申すもの。 こちらは暁真と漣。 少しお話をしたいのですが」


「......商談ということでよろしいですかな」


「まあそうとっていただいてかまいません」


「では奥にどうぞ」


 

 奥に入ると、清潔にした部屋に通された。 そこから見える奥の部屋では子供たちが静かになにか作業をしている。


「それでなんの商いの話でしょうか?」


「あなたの知恵をお借りしたい」


「私の?」


 いぶかしげにそう克己は私をみた。


「私は国を興そうと思っております」


「なんのご冗談ですかな。 私も忙しいのですが」

  

 そう克己は苦笑した。


「本当だ。 今や民たちは一万ともなる。 まだ国とは宣言してはおらぬがな」


「......ほう。 その主座さまということでよろしいか」


 そういって克己は私をみすえた。


「ええ、そうなりましょう。 そこであなたに我が国に来て、我が文将として商業を奨励してほしいのです」


「私が文将...... なぜ私に」


「優秀な私の側近があなたを推挙したからです」


「ふむ、なるほど...... だがお断りします」


「なっ! まだ話の途中だろ!」


 暁真が声をあげた。


「商人ならば大勢おります。 私でなくとも他に当たればよろしい」


「なぜだ。 新しい国ならば商人にはうってつけだ。 それも文将としてまつりごとに関われる。 これ以上の商売の機会はないだろう」


 漣がそうきくと、克己は口もとに笑みを浮かべる。


「確かに利益はでそうですね。 ですが、まだ興してもいない国、海のものとも山のものともなるかわからない。 国が滅ばないともかぎらない。 商人だからこそ、金をだすださないは重要なのですよ」


「確かにな...... 確証はあるまい。 しかし、そなたとて我が話に興味はあろう」


「......最近いくつかの国が併合されるのをみてきました。 その時の商家は悲惨なもの...... 金を奪われ追放される。 それならまだしも、最悪は斬首。 私は金のために商人をしておりますが、死んではなにもなりません」


 そう頭をふった。


「だろうな。 子供を働かせてまで金をえているのだからな」


 そう暁真は不快そうに子供たちをみていった。


「ええ、子供は安い給金でよく働きますゆえ。 なまじ面倒な職人かたぎの大人よりも柔軟に仕事をし、よく使えるのですよ」


 そう克己はにこやかに皮肉をかわした。


「ちっ......」


「まあ、そういうことですので、この話はなかったことに」


 そういって私たちは丁重に追い出された。



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