葬送のかすみ草
✦プロローグ
私が育てるお花、つくる花束には私なりの願いが込められている。
それは誰か寂しさをそっと、埋めてあげること。
誰かが私のお花をそばに置いて、独りでも笑顔でいられるように。そんな願いを込めている。
けれどーー
本当は私が一番寂しがり屋なの。
✦葬送のかすみ草
私の名前は穹。お花屋さんを営んでいる。
毎日誰かのために、お花を選んで花束をつくって、最後に喜んでもらう。この仕事にやりがいを感じている。
誰かの笑顔が嬉しい。誰かの「ありがとう」が嬉しい。私の花で彼らの心の寂しさを埋められているならそれはとても喜ばしいことで、素敵なこと。
意味があるから私は今日もお店を営業する。
朝一、ポストから手紙を取り出す。この手紙は、私にお花のオーダーメイドをしたい人が送ってくれたものだ。
今日は三通。私は順番に手紙を開く。
『穹さんはじめまして。供花をオーダーしたいです。先日、私の旦那が亡くなり、供花をつくってくれる人を探していました。友人が穹さんに花束をつくってもらったようで、そのお花一輪一輪がとても美しくて見とれてしまいました。だから、そんな人の心を奪える、美しいお花を選ぶ穹さんに旦那の葬儀で使う供花を頼めたら嬉しいです。使うお花は穹さんに決めていただきたいです。よろしくお願いします。マリーより』
三通の中の一通をくれたマリーさんが、どうやらお葬式で使う供花を私に手掛けてほしいとのことだ。
「お葬式のお花……。はじめてのオーダーだけど、心を込めて丁寧につくろう」
早速、私はお花を選ぶことにした。
「どんなお花がいいかな」
私はお店に展示されているお花を眺めながら考える。でも、まだピンとくるものがない。
たくさんの種類の載った本で探すことにした。
「故人が寂しくならないで幸せに旅立てるような気分になれるお花はあるかな」
ページをパラパラめくって見ていると、とある白い花が目に入った。
「カスミソウ!これだ!私はこれがいいとおもうな」
カスミソウーー。それは小さな花たちが、たくさん集まってできたお花。純白の花弁をもつそれは、この世の穢れなどに染まらない。
「でも……。私のお店じゃ、取り扱ってないな」
私はそれでも、絶対にカスミソウがいいから摘みに行くことにした。
すぐに外へ行く準備をした。
「カスミソウが咲いてる場所あるかな」
私が見ているのは、『フラワーマップ』というもの。
これを見れば、どこに何が咲いてるのかが分かるため重宝している。
カスミソウはどうやら、少し北へ歩いたところにあるらしい。
私は数十分歩き、カスミソウの咲き誇る場所へ到着した。
「わあ……。すごい、すごく綺麗」
白い花が青空の元、風にゆらゆら揺れている。
このカスミソウは自然界に自生しているもので、だれのものでもない。野生のカスミソウだ。
「ちょっと多めに摘んでおこう」
私はこのお花を庭で育てたいと思った。
いろんなお花に触れてきた私がこんなにも心を奪われたのだから。
「カスミソウは寂しくなさそう。こうやって、集団で咲き誇っているから、孤独になることなんてありえないんだろうな」
私にもカスミソウみたいに、そばにいてくれる人が居たらよかったのにな、そう思ってしまった。
いつもの癖だ。私は寂しがりだから、花を見ると羨ましく思う。
でも、寂しがりだからこそ同じ境遇にいるひとの気持ちが痛いほど分かるし、今日だってこうして故人のための花選びに真剣になれている。
「よし、帰ろう」
ある程度摘み終え、帰路についた。
「ほかにもいろんなお花入れてつくろう」
初めての供花づくり、丁寧に心を込めて、故人が寂しくならないように。
笑顔でマリーさんの元から旅立てるように。
いろんな感情を込めてつくった。
「できた」
カスミソウをメインとして、様々なお花を供花に採用した。
その供花を綺麗に梱包し、私は郵便屋へ向かった。
「お疲れ様!今日もお花の発送?」
郵便屋へ向かうと、知り合いのスタッフが話しかけてきた。彼女の名前はリリア。
「リリアさんもお疲れ様。今日のお花は供花だよ」
「供花?穹ちゃんが葬儀用のお花を手掛けるのは珍しいね」
「私も初めてつくったよ。でも依頼人のおかげで私はお気に入りのお花を見つけることができた」
「どんなお花入れたの?」
興味津々に訊くリリアさん。
「カスミソウだよ。花言葉は『永遠の愛』『感謝』『幸福』などがあるよ。カスミソウは数があるから、亡くなった方もきっと寂しくないよ」
「へえー!そんな素敵な意味があるんだね。穹ちゃんのチョイスってほんとに素敵。穹ちゃんだからこそ、花に深い意味を込められるよね。私も結婚式のお花は穹ちゃんに頼もうかな!」
「ならもっともっとお花のこと勉強して最高の花束届けれるようにするよ」
「うれしいなあ!」
私の髪の毛をわしゃわしゃするリリアさん。
「じゃあ、お花よろしくね」
「まかせて!!!」
グッドを出すリリアさん。彼女に供花を託し、郵便屋を後にした。
供花を発送してから一週間が経ち、今日もポストを覗いた。
「今日は一通だけかな」
手紙を開けて、中身を確認する。
『穹さん、こんにちは。先日供花をオーダーしたマリーです。旦那の葬儀が終わり、無事に旦那を送り出すことができました。カスミソウを選んでくれて、本当にありがとうございました。カスミソウを選んだ理由と花言葉が書かれた穹さんの手紙を見て、涙が止まりませんでした。穹さんの選んだ旦那もきっと喜んでいるはずです。また機会がありましたら絶対に穹さんにオーダーします。改めて、本当にありがとうございました。マリーより」
「……無事に終えられたようでよかった」
私は初めての供花を手掛ける仕事を終えた。
✦プロローグ
私の手掛けたお花が、今日も誰かの寂しさを埋め、誰かを笑顔にする。
供花で学んだことがたくさんあって、このオーダーを引き受けてよかったと心から思う。
私も死ぬときはカスミソウに囲まれて旅立ちたいな。
その時だけ、寂しくならないようにカスミソウに埋もれて眠ることができるなら、きっとそれは私の『幸福』なのだから。