【5-7】港までの道(ノルドside)
港に向かっている間もフェンリル達は話をしていた。それは別れを惜しむ様に、そしてまた会おうという約束も混ぜながら、青空の下楽しげに話す彼らに、僕は自然と笑みを浮かべる。
と、そんな僕に隣でしばらく黙り込んでいたスコルピが話しかけてきた。
「お前らニルハと戦ったって聞いたけど」
「ん……まあ」
突然のその話題に、ぎくりと言わんばかりに固まった後小さく頷く。それに対しスコルピは「ふーん」と呟くと無表情のまま、後頭部に腕を組む。
それ以上言ってこないスコルピに、僕はちらりと横目で見ると、スコルピもまた見てくる。
「何?」
「いや……その、ニルハの事あまり詳しくは聞いてこないなって思って」
「……俺は別に、そこまであいつに対して仲間意識はないから」
ただの仕事の依頼人でしかない。そうきっぱりとスコルピは言う。そんなものなのかと、随分あっさりした関係性に脱力すれば、スコルピは苦々しく呟いた。
「本音を言うと、寧ろ苦手な部類だったよ。随分とまあ裕福な生活をしている割にはいつまでも悲劇の主人公気取りだったし」
「悲劇の主人公ねぇ……」
確かにそうだったと、ニルハの様子を思い出しつつ呟く。
一番にならないと生きていけないだなんて言っていたけれど、あの最新のビルの最上階に住んでいて、その言い様はない。
それにあの身体だってかなりの金額や技術が掛かっているはずだ。身体を機械化してまで存在しようだなんて、それは最早この世界に居続けたい者が考えることである。
(本当に嫌だったら早く退場したいくらいだよ)
孤独であるならば、尚更。
けど、あの男はあの身になるまでして生きようとした。一番になりたい。その為に。
「よく分からないな」
「?」
口に出た呟きに、スコルピの視線が向けられる。
僕はその視線に「ニルハの事だよ」と言うと、スコルピは正面を向く。
「理解できない人物なんて沢山いるでしょ。見ている世界が違うんだよ」
「まあね。でも気になるんだよ。どうして、そこまで一番にこだわるのかって。そういう家柄?」
「さあ」
そうスコルピは興味なさげに返す。そこでニルハの話は終わりになるが、それからしばらくしてスコルピが再び話しかけた。
「ノルドは、あっち着いたらずっとワンコくん達と行動するの?」
「うん、そのつもりだけど」
「そっか」
なら良いけどと、スコルピは言って黙る。またそのパターンかと思いつつ、「どうして?」と今度は訊ねれば、スコルピは少しいじけた様子で呟く。
「別に……何でもない」
「何でもないねぇ……あの質問でそれは無理な返しでしょ。何? もしかして一緒に行きたい場所でもあるの?」
「……」
「スコルピー?」
「……ああ! もう! 言うから!」
声を上げるスコルピ。照れ隠しなのは分かっているが、その気なら最初から素直に言えば良いのにと思う。
言葉にはしなかったが、ニヤニヤして肘で突けば、スコルピは眉を顰めながらも言った。
「実は、ストック……様から頼まれたんだよ。あっちに巣食う夕暮れ教の実態を調べてこいって」
「へえ、ストック様から。それで一緒に行って欲しいって?」
「………………まあ」
長い沈黙の後折れた様に頷くスコルピに、よりにやけが酷くなる。まあ、こうして訊ねたら口にしてくれるだけ成長した様なものだが。
わざとらしく「仕方ないなぁ」と大きな声で言えば、スコルピは真っ赤な顔で睨んでくる。
「可愛い可愛いスコルピくんの為に一緒に行ってあげよう」
「可愛い言うなバカにしてんだろ⁉︎」
「バカにしてなんかないよ〜可愛いから可愛いって言ったんだよ〜」
「あ〜〜もぉぉぉ‼︎‼︎ その顔ムカつくんだけど‼︎‼︎」
怒り散らすスコルピに、流石にフェンリル達も振り向き「どうした」と訊ねてくる。
僕は笑顔のまま、スコルピの肩を引き寄せると、手を振りながら「何でもない」と返す。
「んで、どこから探す? とは言っても僕もあっちの事あまり知らないんだけど」
「……とりあえず案内役は現地で寄越すからと、火の鳥が」
「そうなんだ。誰だろ」
火の鳥……朱雀様の知り合いとなると四神とか? いや、でもこの状況で四神は難しいか。
とはいえ、朱雀様の知り合いなら信頼できる人物で間違いないだろう。
「じゃ、着き次第一緒に会いに行こうか」
「いいの?」
「いいも何も来て欲しいんでしょ」
なら行くよと言うと、スコルピは「ああ、そう」と言ってそっぽを向く。
どちらにせよ、こっちも麒麟様の個人的な依頼がある以上、フェンリル達とは一旦どこかで別れなきゃいけないタイミングがある。だったら最初から別行動してもいいかもしれない。
(ただちょっぴり……というか、大分キリヤが心配ではあるけど)
そこはフェンリルやシルヴィアちゃん達に任せてもらうかと思いつつ、スコルピと肩を組んだまま前に進んだ。




