【5-1】新たな力
「‼︎」
強い光に俺とキリヤは顔を逸らす。しばらくして光は止み、代わりに一組の籠手が自分の腕に装着されていた。
白を基調とし、今までの剣と同じ様に甲辺りには月らしき装飾もある。
瞬きしてそれを眺めた後、握ったり開いたりして着心地を確認すれば、キリヤから少し離れ手に力をイメージする。
今までは氷の籠手に爪と称して凹凸を付けていたが、籠手を生成しなくて良くなった以上、新たに武器を生成するのも良いかもしれない。
そう考えている内に、冷気を漂わせながら手の中に巨大な氷柱状の槍が現れる。身丈程もあるそれを一回りさせると、それを見ていたキリヤがボソリと呟く。
「ただの氷柱じゃねえか。もう少しこだわりとかねえのかよ」
「んだよ。別に良いだろ」
どうせ戦闘時の一瞬だけ。終わればすぐに壊れるというのに、そこまで見た目にこだわっている暇はない。
試しに作った槍を手離せば、冷気となって消えていくと、そこにノルドとシルヴィアがやってくる。二人は俺の腕にある籠手を見つけると、それぞれ目を輝かせたりして感想を口にした。
「籠手になったんだ〜‼︎ フェンリルらしい‼︎」
「すごくお似合いです! フェンリルさん!」
「ははっ。ありがとうな二人とも」
思った以上にしっくりきていて、不思議と力も感じる。流石神器という所だろうか。
攻防共に強まった気がして、気持ちも高まっていく中、キリヤの視線を感じ、キリヤを見る。
「どうした?」
「いや。籠手になる事もあるんだなと思ってな」
剣のイメージは無かったがとキリヤが言えば、ノルドが同調する様に声を漏らしシルヴィアも頷く。キリヤやノルドはともかく、シルヴィアもそう思っていたとは。
三人から知った自分のイメージに苦笑いし、「そんなに合わないか」と訊けば、ノルドは唸りながら答えた。
「合わないって訳じゃないんだけど、フェンリルって基本的に格闘術というか素手じゃん」
「だな。殴られた時死んだと思った」
「あれは悪かったって……ってか、結構根に持っているな?」
正気を失っていたとはいえ、キリヤを思いっきり殴った事は知っている。それをいまだに持ち出してくるとは。
から笑い混じりにキリヤに言えば、キリヤは左頬に手をやりながら「当たり前だ」と答える。
「神じゃなかったら全治二、三ヶ月くらいいってたぞ」
「そんなに本気で殴ったんだな。俺」
「良かったね。神で」
そう軽くノルドと流せば、キリヤがジト目を向ける。そのやり取りにシルヴィアは苦笑していると、ケトルが吹き出しているのに気付き、向かっていく。
日が落ちた事で、気温も下がってきた様に感じた。
「とりあえずココアでも飲んで休んだ後、テンペスタ様達の元に戻ろうか」
「そうだな。しかし、今から山道を行くのか」
何もなければ良いがとキリヤは案じる様に呟く。そう思っていると、森の茂みで物音がした気がした。
反射的にそちらを向くと、きらりと何かが輝く。瞬間、キリヤに強く押される。
「っ⁉︎」
ずれた途端、乾いた音が辺りに響く。その音と共にキリヤの胴体を何かが貫通するのが見えて、声を上げて名を呼ぶ。
キリヤの傍にいたノルドはキリヤに近づこうとしたが、キリヤは苦痛に眉間に皺を寄せながら、「来るな」と叫んだ。
「多分、狙いは俺だ。離れねえと、流れ弾に当たるぞ……!」
「っ」
「……っ、おい、フェンリル! 早くシルヴィアの所にいけ!」
「……あ、けど……‼︎」
意地で立っているが、撃たれた場所が悪かったのだろう。ドクドクと血を流すキリヤに、俺は戸惑っていると、再び銃声が響く。
と、シルヴィアと視線があった俺は、キリヤの言われた通り、シルヴィアの元に向かう。
「シルヴィア……っ!」
走っていく中、数発の弾丸が地面に埋まる。と、一発の銃弾がシルヴィアの足元のケトルに当たり、火が消える。
暗闇が広がり、視界が悪くなる中、シルヴィアの身を引き寄せ、辺りを警戒する。
(くっそ、人の身じゃ遠くまで音が聞こえねえ……!)
どうせ近々魔鏡に戻る事だし、だったらもう。
そう考えた俺は袖を捲り、籠手の下に隠れたリストバンドを歯で引き裂く。
それによって獣耳や尾が現れ、視力や気配察知共に聴力が上がると、すぐに周囲の敵を把握する。前方に二人、キリヤ側には一人……だろうか。
(後は三人息を潜んでいるな)
先程から撃ってきているのはキリヤ側の人物だろう。だが、それが一人とは限らない。
(俺達は数発撃たれた所で死にやしないが、もしシルヴィアに当たったら)
スターチスから受けた忠告を思い出しながら、シルヴィアを強く抱きしめる。と、案の定前方から発砲音が聞こえると、すぐに彼女を抱えその場から飛び避ける。
何発もの銃弾が俺達を追う様に撃たれる中、ノルドが上空に使って火の玉を放つと、辺りに光が差す。
その光に照らされ、森の中に白い外套が何人も見えれば、シルヴィアがそちらを向き手を伸ばす。
「水流よ!」
そう彼女が口にすれば、水流が彼らの足元を流れる。そこを狙い、冷気を纏めた魔球を放つと、彼らの足元が凍り身動きが出来なくなる。
慌てる男達。その混乱の隙を狙い、彼らの背後にあたる森に降り立つと、シルヴィアの水流を使用して蔓状の氷を生成すれば、男達を次々と捕らえて地面に押さえ込む。
続いてこちらに向かってくる三人の男達に、シルヴィアを茂みに隠して飛び出せば、拳で殴り気絶させていく。
「がはっ⁉︎」
「ぐぇっ⁉︎」
「ごほっ⁉︎」
くぐもった声を上げ、倒れていく男達に、氷で捕らえられた男達が悲鳴をあげる。
最後に三人の中の一人が手にしていた長い回転刃の武器を凍らせて壊した後、手を払いながらシルヴィアの元へ向かう。
「ありがとな。シルヴィア。助かった」
「い、いえ」
照れながらも頷く彼女に俺も小さく笑んだ後、キリヤ達が心配になってそちらを向く。
と、リーダーらしき一人が声を上げた。
「お、お前、まさか……⁉︎」
「ん?」
何だとそちらを向ければ、男は顔を青ざめ震えながら言った。
「この国の……王の……亡霊か……⁉︎」
「……」
亡霊……。
どう返せば良いか分からず、気まずい空気が流れる中、俺は唸り咳払いした後、「ああ」と答える。その返答にシルヴィアが驚きの表情を浮かべこちらを見る。
「や、やはり……っ。くそ、呪われた地であったか」
「呪われた地……か。そんな地にしたのは、他でもないお前達の祖先なんだがな」
咄嗟に亡霊と称して頷いてしまったが為に、それになりきりつつも、思ってしまった感情を吐露する。
神の声により、追い返すだけでは済まず、境界線であった森を越え、結果インヴェルノが燃やされた。
そんな悲しい出来事が、やがて呪われた地として揶揄されて人々の中で言い伝えられてきたのだろうか。
男は黙り込み、もう一人の男も口を閉ざす中、俺は息を吐きシルヴィアの腕を引いてその場を去る。
キリヤ達は大丈夫だろうか。そう思っていると、キリヤの興奮する様な声が耳に入った。
「てめぇ……! ばかすか撃ちやがって!」
「はいキリヤ落ち着いて! 血が止まらないから!」
(あ、何か大丈夫そうだな)
怪我はともかく、ここまで聞こえる位に騒げるなら心配は要らなそうだ。
やれやれと思いつつ、キリヤ達の元に辿り着くと、ノルドに押さえられながらも吠えるキリヤの姿が目に見える。その足元にはうつ伏せに倒れた白い外套の男がいた。
身体のあちこちから出血していたが、それでも構わず男を踏んでいると、シルヴィアが駆け寄り治癒魔術を掛ける。
暗い中、緑の光がキリヤを包み傷が癒えれば、踏んでいた男の胸倉を掴み上げてキリヤは低い声で言った。
「よくもまあこんな場所まで来たもんだ。それだけは褒めてやるよ」
「っ……くそっ。悪神めぇ……ビルを壊すだけでは飽き足らず、鳳凰様まで手に掛けやがって……」
「あ? あー……」
許さないと叫ぶ男に、キリヤは面倒そうに声を漏らす。そして小さな声で愚痴った。
「あいつらの脱退まで俺のせいにされているのかよ」
「はは……」
傍で聞いていたノルドが、キリヤの愚痴に笑う。
すると俺の方を向いたキリヤは、「ん」と怪訝な声を出して見つめてきた。
「?」
「お前……」
指差してくると、キリヤがボソリと「耳出てね?」と呟いてくる。それに対して俺ははて? と首を傾げれば、キリヤが強く指摘する。
「いや生えてるだろ‼︎ 耳‼︎ 尻尾も‼︎ 入り切らずに腰パンになってるじゃねえか‼︎」
「ん、ああ。そうだな。そういや動きにくいと思った」
「だろうな‼︎」
何してるんだと若干焦り気味にキリヤが言えば、俺は表情を変えずに「こっちが良いと思って」と返す。
「飛び道具がある以上は、把握しやすいこっちの方が良いだろ」
「あ、あー……そうだな。まあそれは分かるが……」
あーあ。と呆れるキリヤに、ぶっきらぼうに「なんだよ」と言う。一方で、男は俺達のやり取りを茫然とした様子で眺めていた。




