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夜明けの氷狼  作者: チカガミ
5章 帰還そして旅立ち
73/82

【思い出した後悔】(キリヤside)

タイトルごとの視点

【◯(章番号)-◯(話番号)】……フェンリル視点

【◯(章番号)-◯(話番号)回想】……メインはコハク視点

その他別キャラがする際はタイトルの最後に(〇〇side)が付きます。


 掘る度に、埋めたあの日を思い出す。

 春の嵐。上空で稲光が走る中、雨なのか汗か分からないくらいにぐしゃぐしゃに全身を濡らして、ひたすらに穴を掘り続けて。

 あの時、無我夢中でシャベルで掘っていたから、手で掘り返すのはかなりの時間がかかるかもしれない。

 爪の中に土が詰まろうとも、指先を切ろうとも、ただずっと掘り続けていると、影が差し込む。顔を上げれば、いつの間にか氷でシャベルを生成したフェンリルが見下ろしていた。


「かなり深く埋めたなら道具使った方が早くないか?」

「……ま、そうだな」


 先程の記憶のせいもあってか、若干熱くなっていた自分に反省しつつ、素直に彼の意見に頷く。

 手に付着した泥を叩き落とし、硬った膝を摩りながら立ち上がれば、フェンリルがそこにシャベルを差し込む。

 氷で作った割には結構な強度があるようで、順調に掘り進んでいく様子を眺めていると、ノルドとシルヴィアが隣にやって来て呟く。


「道具持ってくれば良かったね」

「ですね……」


 手持ち無沙汰な俺達は、とりあえずフェンリルが掘り進めるのを眺めつつ。俺だけシルヴィアから手の手当てを受けていると、フェンリルがこちらを見て言った。


「どの位深く掘ったんだよ」

「さあ、どの位だろうな……」


 自分でもよく分からないと言うと、フェンリルは呆れた表情を浮かべる。そして再び掘り進めた。

 と、ノルドが周囲を見渡すと、何かを探しに出かけた。

 刻々と過ぎていく中、戻ってきたノルドの手には鍬が二丁握られていた。


「使えそうなのがあったよ」

「鍬かよ。耕す気か」

「無いよりはマシでしょうが」


 ツッコむと、ノルドが言い返し鍬を押し付ける。まあ確かに無いよりはマシだが。

 息を吐きつつ受け取れば、フェンリルが掘る傍で、鍬を振り上げ掘る。

 こうして男三人がかりで掘り進める事になったのだが、途中腰をいわした俺は、そこらに転がされ、フェンリルとノルドが掘り続ける事約二時間。太陽も若干斜めになり始めた時、ガチンと石とは違う音が響く。

 横になっていた俺はその音に上体を起こすと、フェンリルとノルドも穴を見てしゃがみ込む。


「何か見つかったか」

「多分…………あ」


 手で土を掻いていたフェンリルが再び声を上げれば、ノルドも土を掬い上げる。そして数分後。フェンリルが取り出すと、土に汚れながらも未だに白く輝く剣身が見えた。

 その剣に俺は腰の痛みに声を漏らしながらも立ち上がり、駆け寄って眺める。……間違いない。ルーポ・ルーナである。


「……はは」


 四百年埋められていたというのに、全く変わんねえな。

 その宝剣の凄さに思わず笑いが出れば、恐る恐るその剣に触れる。目を逸らしていた過去を再び見つめる様に、苦々しくも懐かしいそれを何度も撫でれば、視界が徐々に歪んでいく。


(ああ……そうか)


 ずっと後悔していたんだ。俺は。

 素直になれなかった自分に。獣人や半獣人などどうでもよくて、ただコハクの幸せだけを望んでいれば良かったのに。

 それをコハクに押し付けていたのは、紛れもない俺だった。インヴェルノはとうに無くなってしまって、コハクに背負わせる事はなかったのに。

 それすらも認めたくなくて、走ってきて。それで、あいつがいなくなった時、俺は迎えにすら行かなかった。

 最低だ。とんでもなく最低な野郎だ俺は。嫌っていた親父と変わりやしねえじゃねえか。

 ぼろぼろと涙が出てくる中、俺は自分を戒める様に自分の掌に爪を立てると、小さく絞り出す様に「コハク」と名前を呼ぶ。


「キリヤ……⁉︎」


 フェンリルが驚き、心配そうに眺める。

 俺は首を横に振り、そしてルーポ・ルーナを手に取ると抱き抱えたまま、その場に座り込んだ。


※※※


 ふと気が付けば夕方になっていた。

 大人気なく泣いてしまった事と、その一方でどことなくスッキリした自分に複雑な感情を抱いていると、背後に背を向けて座っていたフェンリルが寄りかかる。

 押される様に前のめりになりながら、「おい」とフェンリルに声を掛ければ、フェンリルは小さく笑んで返した。


「大分元のキリヤに戻ったな」

「……うるせえ」


 言い返す言葉はなかったが、反射的に不満げに返せば、フェンリルの身が離れ、身を起こす。

 ノルドとシルヴィアは少し離れた所で火を起こし、ケトルらしき物を温めていた。

 その二人の様子を見つめた後、未だに腕の中にあったルーポ・ルーナを見下ろす。土汚れは若干あったが、それを払いつつ眺めていると、フェンリルが振り向き言った。


「母さんの事、思い出したんだろ」

「……ああ」


 今になってすげえ後悔した。

 そう言うとフェンリルの目が丸くなる。そんな彼を他所に俺は言葉を続けた。


「後悔ってのは。掘り起こした事じゃねえ。……寧ろ、今まで何もできなかった俺自身に対してだ」

「……それって、テラスで言っていた事か」

「まあな。……もう情けない面見せたくなかったんだがな」


 だめだった。と空を仰ぎ顔に手をやると、フェンリルは間を置いて「見なかった事にしてやるよ」と言う。そして、立ち上がり前に回る。

 俺は前にやってきたフェンリルを見上げると、立ち上がり、ルーポ・ルーナをフェンリルに渡す。

 試練を済ませている以上、フェンリルに渡ったルーポ・ルーナは持ち主によって姿を変えるはずだ。


(あいつは細身の剣だったが……こいつはなんだろうな)


 剣というイメージは今のところあまり湧かないが。なんて考えていれば、夕陽が森の木々の合間から強く差し込む。その光が俺達を照らすと、フェンリルの手にあったルーポ・ルーナが強く輝いた。

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