【4-14】合流
早朝。まだ暗く、周りが寝静まっている頃。ふと目を覚ました俺は、隣のベッドで寝ていたはずのノルドの姿がない事に気付き、ベッドから起き上がる。
時間帯的に朝食でも作っているのだろうかと思い、部屋を後にすれば、部屋から少し離れた場所にある応接室から声がする。
(ノルドか?)
そう思って部屋の前を通ると、突然部屋から見知らぬ声が聞こえてきた。
「さあ皆様称えましょう‼︎ ソンニョ様を‼︎」
「誰が称えるか‼︎ 後静かにしろ‼︎」
「二人ともうるさいよー。寝室近いから静かにしてー」
「……?」
大きな声で尻尾の毛が逆立つ中、謎の会話に唖然としていると、そこに畳みかける様に背後から生気のない声がした。
「何をしている」
「⁉︎」
全身が硬直し、全ての毛が逆立つのと同時に声を上げる。それによって応接室の扉が開くと、ノルドが顔を出す。
「な、何⁉︎ どうしたの⁉︎」
「い、いや。何でもない。それよりも、テンペスタ……‼︎」
「私はただ普通に話しかけたつもりだが」
何をしていると言わんばかりに冷めた目でテンペスタに見られる中、俺はガタガタと震えながらテンペスタを見上げる。驚いた拍子に腰が抜けてしまい、その場から動けなかった。
すると俺の声で起きたのか、キリヤまで部屋から出てくれば、俺達を見るなり呆れた表情を浮かべる。
「こんな時間に何騒いでるんだよ……」
「す、すまん」
謝りつつ、よろよろと壁に手を着きながら立ち上がる。と、ノルドの背後に人影が見え、首を傾げながら訊ねた。
「ノルド。誰かいるのか?」
「あっ。……あー、まあ」
「は? 誰を連れ込んだんだお前」
ぎくりと音が聞こえてきそうな位に顔が固まるノルドに、キリヤも気になったのか、覗き込もうとしてやってくる。
それに対してノルドは腕を広げると、キリヤの邪魔をし始める。
「ちょ、ちょっと待って。説明するから」
「説明? 何の説明だよ」
「いいから」
待って。と声を上げる。だが、その前にノルドの背後から誰かが飛び出してきた。
「誰かと言われると、出てきたくなりますねぇ‼︎」
「わー‼︎」
「お前ぇぇぇぇ‼︎」
真っ白な髪を揺らし、輝きながら出てくる見知らぬ男。その男にノルドが顔を青ざめ絶叫すれば、更に彼の背後から男を追ってスコルピが出てくる。
まさかの人物に驚きと警戒で緊迫した空気が流れると、ノルドが男の首根っこを掴み、スコルピに投げ渡して扉を閉める。
「……ま、まあ。うん。とりあえず、ね。話そうか」
「お前いつの間にあいつらと……」
通じていたのか? と、キリヤが不審げに言うと、ノルドは「違うから」と叫びキリヤを睨む。
俺は横にいるテンペスタを見ると、テンペスタは腕を組んだまま言った。
「ノルドに言われて入れたまでだ」
「知っていたんだな」
「ああ」
テンペスタが承知の上で神域に入れているのなら……まあ大丈夫か。そう思った俺は、睨み合うノルドとキリヤの間に入ると、キリヤの肩を掴む。
「キリヤ、先ずは話を聞くぞ」
「話って……お前なぁ」
「まあ、気持ちは分からんでもないが。けどノルドやテンペスタが大丈夫だって思っているんだ。信じて話を聞こうぜ」
説得すれば、キリヤは息を吐いて渋々ノルドを見る。ノルドもまた安堵してか息を吐くと、扉を開いた。
※※※
「……と、いう訳で。納得していただけました?」
そうノルドが言うと、苦笑しつつ頷く俺の横でキリヤは頭を掻く。
スコルピは居心地が悪そうにソワソワしていたが、一瞬目が合うと、逸らされながらも言った。
「その……今更というか、散々しておいてくっつくとか、俺もバカらしいとは思ってるし、信用されないとは思ってる」
「私はまだ夕暮れ教を抜ける気はありませんがね」
「……と言ってるバカもいるけど」
そこまで言ってスコルピは口を閉ざす。俺はノルドを見ると、ノルドは真剣な眼差しで言った。
「すぐに信用は難しいかもしれないし、受け入れられないのも承知している。けど、どうか彼等も連れて行ってくれないかな。魔鏡に」
「うーん……そうだな」
けどまあ、ここまで来ておいて追い返すのも忍びない。テンペスタは無言で話を聞いていたが、キリヤは大きなため息を漏らした後、「全く信頼は出来ねえ」と言って立ち上がる。
「が、お前がそうしたいならしたら良いんじゃねえか。ま、何かしたら俺は容赦無くこいつらを締めるから、しっかり見張れよ」
「……うん。分かった」
ありがとうとノルドが礼を言えば、キリヤは再び息を吐き、部屋を後にする。
キリヤを目で追っていた俺は、視線に気が付き正面を向くと、腕を組んで「そうだな」と呟く。
「厳しい事は全部キリヤが言っちまったから、俺としては特に言う事はないかな。まあ、昨日の敵は今日の友という言葉もあるし」
俺は歓迎するよ。そう笑んで言えば、ノルドの表情が明るくなる。スコルピはスコルピで目を丸くすると、すぐにそっぽを向き「甘いなあ」と返す。
「いいの? もし何か言われたら裏切るかもしれないよ?」
「その時はその時だ。けど、そうする気はないんだろ」
「……まあ」
返した言葉にスコルピは若干照れた様子で返す。その隣にいた男もまた笑むと、立ち上がり胸元に手をやりながら頭を下げる。
「私は立場は変わらずですが。けど礼儀というものがありますので、自己紹介だけでも。私は……」
「あー、こいつうるさいから軽く聞き流しといて」
「す、スルメさん‼︎」
「スルメじゃないスコルピ」
自己紹介をスコルピに遮られ、男は悔しげな声を上げる。それを見ていたノルドが苦笑して、代わりに紹介する。
「彼はリヴィア。元天使なんだって」
「そう! 元天使です‼︎」
「そ、そうなんだな」
ノルドに言われた瞬間、立ち上がり天井に手を挙げ、ポーズを決める。あまり見た事のないタイプだが、何となく知り合いと気が合いそうな気がした。
(フィルと仲良くなれそうな気がする)
魔鏡や聖園領域などで、流浪の旅団に所属している彼ならばもしや……。
そんな事を考えていると、テンペスタが口を開いた。
「スコルピと言ったか。お前もまた、父を恨んでいるのか」
「急に何?」
テンペスタに問われたスコルピは怪訝な表情を浮かべる。と、テンペスタの視線に徐々に表情が暗くなると、小さな声で答えた。
「恨んでいないと言ったら嘘になる」
「!」
「とは言っても、別にそこまで気にしてはいないんだけどね。母ともあんまり仲良く無かったし、特に親に対して思う事はないよ」
そうスコルピが言うと、テンペスタは瞼を閉じて「そうか」と答える。まさか、俺みたいに入り込もうとしたのだろうか。
テンペスタは閉じた瞼を開いた後、椅子から立ち上がり、部屋を出る。
「ま。何はともあれ。ありがとうね。フェンリル」
「ん? ああ……いいよ」
良かったなと返せば、ノルドは眉を下げながらも「何とかね」と笑って言う。
スコルピはちょっと疲れ切った表情を浮かべていたが、リヴィアはどこか楽しげにスコルピに絡んでいた。
「ちょっとしつこいよ。お前」
「ふっふっふ〜」
「何だよその笑い方は」
戯れ付くリヴィアを抑えるスコルピに、ノルドがぽつりと「仲良いね」と呟く。それを耳にしたスコルピは額に青筋を立てて「どこが⁉︎」と声を荒らげた。
「どう見ても一方通行じゃん! お前の目ん玉腐っているんじゃないの⁉︎」
「はいはい」
スコルピとは対照的にニコニコとしながらノルドは頷くと、立ち上がり扉を開く。出ていく際には「朝早いから静かにね」と言って、俺達だけが残される。
俺も二人の様子を見て「仲良くな」と言うと、ノルドを追う様にして部屋を後にする。
「ワンコぉぉぉぉ‼︎ 助けろぉぉぉ!」
うわぁぁと部屋から助けを呼ぶスコルピの声が聞こえてきたが、俺はくすりと笑うとそのまま自室に戻っていった。




