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夜明けの氷狼  作者: チカガミ
4章 見えてくるもの
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【4-13】それでも(ノルドside)

 深夜。ストック様やテンペスタ様に無理を言って、スコルピ達の居場所近くに転移させてもらい、暗く灯りの少ない道を歩いていく。

 そこは僕達が住んでいたビル群とはまた別のビル群で、インヴェルノに近い場所にあった。

 とはいえ古いというのもあってか、人の気配は殆どしない。足元をそこそこの大きさのネズミが走り抜け、外壁は鳥のフンで真っ白になっている。空き家も天井が崩れ、上の階と繋がっている場所があった。

 規制線のテープを跨ぎ、勘だけで探していると、静かな空間に話し声が僅かに耳に入る。


(……話し声。人か?)


 慎重に距離を詰め、廃材置き場と書かれた看板の先に向かうと、こちらに気付いたのかスコルピ達がこちらを向く。


「よくここが分かったね」


 そう彼は言って大鎌を構えれば、僕も杖を手にする。警戒してか、険しい表情を浮かべる彼とは別に、白い髪をした男はじっとこちらを見つめたまま余裕そうに笑っていた。

 再びスコルピを見た後、僕は杖を向けながら単刀直入に彼に訊ねた。


「君のお母様について聞きたい事があってね」

「……何?」

「約四百年前。とある守り神が亡くなった。その際に使われた猛毒の製作者に覚えがないかなって」

「……」


 スコルピの表情がより怖くなる。そして威嚇する様に彼は言った。


「それって、俺の母親が関わっているんじゃないかって事?」

「憶測ではあるけどね」

「憶測……ね」


 スコルピは視線を外さぬまま、ゆっくりと歩を進める。僕も杖に力を込めると、スコルピが地面を踏み出す。

 赤い刃が妖しく光りながら、僕の首目掛けて襲ってくれば、その刃を至近距離で魔弾を放ち爆発させる。

 煙が上がり、互いに一旦距離を置くも、すぐさまスコルピが突っ込んでくると、僕は廃材に飛び移り、高い位置へと移動しつつ魔弾を次々放つ。


「それで? 何が言いたい訳?」

「いや、何。二百年前のあの件と、それらは実は繋がっているんじゃないかなって……」


 そう言って、乱雑に置かれた足場に足を置いた瞬間、ガコンと身体が下がる。その足場の下には無邪気な顔をしたあの白い髪の男がいた。どうやら足場は魔術で作られた幻想だったらしい。

 バランスを崩したまま下に落ち、すんでの所で受け身をとったものの、その際に落ちていたガラスの破片が刺さった様で左腕から流血すると、スコルピが飛び込んでくる。

 薙いだ刃を顔を逸らして避けるが、その直後に思いっきり腹部を蹴られ、後方の壁に叩き付けられる。


(っ、容赦ないな)


 話し合いで済めば良いと思ったが、やはり楽観的な考えだったようだ。

 咳き込み、動けなくなった隙を狙ってスコルピの刃が目の前に迫る中、ごとりと足元に魔石を落とし、バリアを作る。


「⁉︎」


 弾かれたスコルピが退がり、目を開く中、僕は杖を持ち直すと、スコルピと男目掛けて鎖を放つ。


「っ⁉︎」

「なっ⁉︎」

「……はあ。全く。酷いな君達な」


 二対一は卑怯だろと呟きつつ、バリアを解き魔石を拾うと、左腕を魔術で治癒しながら歩み寄る。

 鎖に囚われたスコルピは歯を剥き出しにして唸っていたが、それを他所に屈んで視線を合わせると、彼の額を杖で突きながら話を続けた。


「君の気持ちは分からなくもないけど、せめて話を全部聞いてから襲いかかってくれないかな」

「誰がお前の話なんか……!」

「いいから。聞いてよ」

「……」


 小さくもはっきりと言うと、スコルピは口を閉ざす。だが、その傍で男が離せと騒ぐと、僕は息を吐いて彼の口を閉じる。

 

「んっ⁉︎ んー⁉︎」

「大事な話をしたいからしばらく静かにしてて」

「……で」


 改めて何。と、彼が少しクールダウンしつつ言う。それに対し僕は瞬きをした後、あくまでも自分の考えではあったが、頭に浮かんでいた事を話した。


「君を犯人に仕立て上げたあの事件で使われた毒、そしてあの時に僕を貫いたナイフに塗られた毒も神性を貫く毒だ。それがどうして人間に仕向けて使われたのか」

「それは、神性関係なく人間でも効果があるからだろ」

「それもそうだけど……そう言った毒は厳重に保管してあるだろう?」


 それに現場には毒薬の瓶が落ちていなかった。そこまで話した所で、スコルピの目が逸らされる。

 僕は杖を太腿のベルトに納めた後、立ち上がって見下ろすと、彼は閉じた口を開き小さな声で呟いた。


「……それが分かった所で何も変わらないし、お前には関係ない。それとも何? わんこくんに言われて四百年の事を断罪しにいけとでも言われたの?」

「いや。僕の独断だよ。だからフェンリル達は知らない」

「だったら尚更よく分からないんだけど。なんで今更」


 そう漏らすスコルピに、僕は頬杖を付いて「しばらくここを空けるからね」と返す。


「帰ってくるかも分からないから、今のうちに話を付けておこうと思って」

「随分と勝手だね。こっちの話も聞かずに」

「君がいつまで経っても話してくれないからね」


 お互い様だと言えば、彼は苦々しく「関係ない癖に」と言う。関係ないならここまで拗れないだろうに。

 やれやれと息を漏らしその場に腰を下ろす。と、不快そうな表情ではあったが、スコルピから尖った空気が減っていき、話しやすい雰囲気になっていった。


「昔はあんなに話しかけきてくれたのに。あの件を機に避けられちゃってさ。僕、寂しかったんだけど?」

「……そこまで仲良くなかったけど」

「またまたぁ。いつもノルドーノルドーって言ってたじゃん」

「……」


 笑いながら言えば、スコルピはフンと言ってそっぽを向く。あと少し踏み込んだら折れてくれるかもしれない。

 目を合わせない彼にいつまでも見つめていれば、スコルピはぽつりと漏らした。


「本当に……意味わかんないんだけど。俺のせいで腹刺された癖に」

「そうだね。確かに君の事情のせいで刺されたけどね。でも悪く思っているんだったら、尚更の事顔出すべきじゃない?」


 逃げられて。避けられて。話そうにも聞いてくれないし。挙げ句の果てには悪い方へ突っ走るし。

 そうしている間に二百年も近く経ってしまって、解決する機会すら失ってしまった訳で。そう考えると、配慮して距離を置いていた自分もバカだなぁと思ってしまう。

 いじいじとスコルピの頬を人差し指で押していると、スコルピはこちらを見て言った。


「もう、遅いんだよ。何もかも。お前は気にしていないかもしれないけど、俺は二度とあの頃に戻れない」

「だから悪い事続けるって? それともやり直したいって思ってるの?」

「……どっちもある。けど、正直早く居なくなりたい」


 ぽつりと彼の本音が漏れた所で、僕は立ち上がる。そして彼の背後で聞いていたのか、静かになっていた男の元に向かうと、口封じの魔術を解く。

 ようやっと話せる様になった男は「お?」と呟き、口を何度か開閉した後、スコルピを見て言った。


「酢豚さん!」

「誰が酢豚だ‼︎ 照り焼きにするぞ‼︎」

「今がチャンスですよ! 今だったら進めます‼︎」

「はぁ⁉︎ 相変わらず意味分かんないんだけど‼︎」


 逃げないで‼︎ と男は叫ぶ。その意味は僕もよく分からなかったけど、再度スコルピの元へ向かうと、鎖を解き手を伸ばす。


「一緒に行く? 魔鏡に」

「マジで言ってる? 立場わかってんの?」

「分かった上で言ってるんだけど?」


 ここで留まって燻るくらいなら、一緒に連れて行った方が良いのではないか。

 そう、彼の性格的にも思って声を掛ければ、スコルピは俯く。


「裏切るかもしれないのに?」

「その時は僕が責任取るよ。でも口にしている時点でする気は無いくせに」

「……うるさいな」


 ボソリと漏らした後、スコルピは大きなため息を吐き、頭を抱えて怠そうに返した。


「あーあ。全く嫌になるなぁ。……いいの。本当に。わんこくんは嫌かもしれないよ?」

「まー、大丈夫でしょ。彼なら」

「……本当?」


 あのテンペスタ様を受け入れているくらいには、心は広いはずだから多分大丈夫な筈。

 断言は出来なかったが、フェンリルの事に関してはそこまで気にする事もないだろう。

 ほら。と手を近づけると、彼は眉を下げながらも、恐る恐る手を伸ばし握る。


「どうなっても知らないからね」


 腕を引かれ、立ち上がりながらスコルピが言う。僕は笑って「上等」と返す。

 こうして無事に話が付いた所で、何故か感慨深く頷く男が目に入ると、スコルピも振り向き言った。


「じゃあ。これで」

「ええ。……って、え?」


 情が溢れていた男の顔が驚きに変わる。スコルピはそんな彼を呆れながら見つめると、「もう辞めるから」と言う。


「短い間だったけど。元気でね」

「いやいやいや! スコーンさん‼︎ どうして⁉︎」

「どうしても何も話の流れ的にそうなるでしょ。元々俺はやり直しが出来ると聞いて居ただけだし。けどこいつが来いって言うから」

「まあ。確かにそうは言ったけどね」


 にしても切り替えが早くないかい。とスコルピに対して思っていると、男は眉を下げ膝をつく。


「それじゃあ(わたくし)は一人になってしまうではないですかぁぁぁぁぁ‼︎」


 うわぁと声を上げ泣き始める彼に、僕とスコルピは気まずくなると、スコルピが助けを求める様にこちらを見てくる。


「いや僕を見られても」


 スコルピがどうにかしなよと返せば、スコルピは苦虫を噛み潰したような顔になる。


「どうしろと?」

「頑張れ」

「他人事だと思いやがって」


 クソがと舌打ち混じりに返された後、スコルピは男を見る。男は未だに泣き噦っていたが、スコルピが声を掛けると涙でぐしゃぐしゃな顔を上げた。

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