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夜明けの氷狼  作者: チカガミ
4章 見えてくるもの
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【4-12】蠍の行方(ノルドside)

 その日の夜。皆が寝静まったのを見計らい、部屋を後にする。そしてストック様を探す為に、城内を歩いていると、中庭に入った所でアルミ製のチェアに座る彼女の姿を見つけた。

 ストック様もこちらに気づいた様で、こちらを見るなり「来たわね」と言って手招きする。


(まるで来るのが分かっていたかの様な口振りだな)


 笑みを作ったまま歩いていけば、テーブルを挟んであるもう一つのチェアに腰掛けると、ストック様はこちらを見つめながら訊ねてくる。


「貴方が私に用があるって事は分かっていたわよ。……それで、何を訊きたいの?」

「そうですね。では先ずは……スコルピの事を」

「スコルピ? それは以前にも話したでしょう?」


 最近は連絡が取れないって。

 そう笑みを浮かべながらストック様は言う。僕は首を横に振ると、こう返した。


「少し前、テンペスタ……様の暴走が起きる直前、僕達は実際に彼と出会っています」

「あら、そうなの? 初耳だわ」

「ええ。それで、彼に誰の差金で来たのか訊ねたんですが……その時彼ははっきりと貴方だと答えました。果たして、どちらが正解でしょうか」

 

 表情を変えず笑んだまま言う。すると、彼女は目をより狭め、「なるほどね」と答えた。


「この感じだと、私を疑っている感じかしら?」

「……」

「……まあ、いいでしょう。流石に雑に隠したからいつかはバレるとは思ったけど。でも、その前にこちらからも訊きたい事があるわ」

「はい、なんでしょう」

「貴方の正体を示しなさい。貴方だって、偽っているでしょう?」


 そう言われ、僕はクスリと笑う。

 確かに一方的に暴くのはフェアじゃない。それに彼女がフェンリル達(かれら)に手を出さない以上、僕もなるべく平和な方法を取りたかった。

 ストック様の赤い瞳が見つめる中、僕は右太腿にある愛用の杖を手に取ると、空に向けてかざす。すると夜空のある一点が白く輝いた。


「半神ながら、星の力を司る者。それがどういう事か()()()()()には分かりますよね」

「星……そう、まさかとは思ったけど」


 星の力を持つ。それはすなわち、時にも干渉出来る事を意味する。その力を持つ者は神でもごく僅かであり、用いる以上は、大体が領域及び記録を世界から求められる。

 僕はその限られた神の中でも、唯一半神での時の神だった。


「神の間にしか生まれないはずの星を司る者。片親が人間であった僕は、生まれてすぐに母によって神殿から連れ出されました」


 きっと父である魔鏡(まきょう)守神に悪用されるのを防ぐためだったのだろう。その際に生みの母は亡くなり、僕はブーリャによって事に来た。

 だが、星を司る力を持っていた事を知ったのは、生まれてから約二百年後の事である。


「貴方が作った黄道術師という制度。その試験の最中、僕は自分の力を改めて知ると、黄道術師とはまた違う肩書を麒麟様から貰いました。北極星の魔術師。ある地へ確実に届ける目印になる魔術師と」


 黄道術師には時の神は合わない。それは、当時まだ人間の魔術師が多かった頃の風潮である。

 それは時の神に限らず、半神、強いては神の魔術師にそう言われていた。


「……確かにそれはあったわね。種族の寿命や力の差の関係上不平等ではないかと。けど、優秀である以上種族の違いで選ばないというのもこれまた不平等だと思わない?」

「それも分かります。けど、その結果今の魔石依存になってしまったのも事実です」


 どう足掻いた所で手が届かない。それならば、どんな手段を使ってでも手に入れようとするものが多いだろう。

 そう呟き、ポケットからいくつの魔石を取り出す。その魔石を見た彼女は眉間に皺を寄せていった。


「貴方。それ、過度に魔力を込めた魔石じゃない。一体どこで」

「配達の最中にちょっと。まあ、万が一のためにと思って持ってるんですよ」

「万が一、ね」


 不審気に見つめてくる彼女に、僕は笑って誤魔化すと、魔石をポケットに戻す。そして、僕はストック様を見つめ言った。


「という事で、僕の情報の開示はここまでです。なので、この先は僕の質問に答えていただきます」

「……スコルピの事?」

「はい」

「……はあ」


 間を置き面倒そうに息をついた後、ストック様は頬杖をついて言った。


「確かにわんこくんを狙う様に指示をしたのは私。少し前のインヴェルノ跡地での襲撃もね。……けど、私はあくまでも様子見とだけしか言ってないわ。だから他に絡んでいる人物がいるんじゃないかしら? 例えば――」


 ソンニョとか。

 そう言われ、納得しつつ僕は頷く。その上で僕は更に彼女に問いかけた。


「ソンニョとスコルピの関係は?」

「さあ、それは私には知らない。でも、鳳凰の件といい何かやり直したい願いがあるんじゃないかしら」

「やり直したい願い……」


 なんだろうと彼女から目を逸らし考える。

 すると、ストック様は笑み混じりに言った。


「恐らく、あの時あの場にいた貴方なら分かると思うけど? 黄道術師の認定式。彼の身に起きた事を」

「認定式……」


 全く見えなかった記憶が、ストック様によって脳裏に浮かぶ。黄道術師の認定式。僕はスコルピの背後でそれを眺めていた。

 その時に何が起きたのか。より思い返し鮮明になっていくと、「あ」と呟いた。


「思い出した?」

「思い出したというか……失念していたというか」


 あれか。と頭を抱えた僕に、ストック様は人差し指で額を押してくる。

 その反動で後ろの背凭れに寄りかかると、腕を組みながら当時の事を思い返した。


 今から約百五十年前。夜明け、夕暮れ、そして真昼(ヌーン)の三領域を管轄する魔術省主催による黄道術師の認定式。

 認定式と言っても選ばれたのは三人。【牡羊座】、【蟹座】、そしてスコルピが選ばれた【蠍座】だけである。

 尚、【獅子座】と【水瓶座】に関しては某兄弟によって永久欠番となっており、実際の席は十しか無かった。


「黄道術師は歴史上長いが、その取り決めはストック様の判断に委ねられる。以前は人間ばかりであったが、最近は半神を選ぶ様になってしまわれた」


 このままでは魔術界がどうなる事やら。

 そんな嘆きが背後で聞こえてきたのを覚えている。その気持ちは分からなくもないが、せめて本人の認定式の場でそれをいうのはナンセンスではないか。

 そんな事を思いつつ正面を見れば、ベールで顔を隠していたストック様が淡々と挨拶をする。

 カメラも囲む中、着々と式が進められ、黄道術師の証である指輪の授与が始まると、名前を呼ばれたスコルピが前に出た時だった。

 激しい音と共に扉が開くと、興奮した男の声が響く。


「許さねえ‼︎ 毒婦の息子め‼︎ 」

「⁉︎」


 怒号と共に男は手に持ったナイフを握り締め、スコルピに駆ける。反応が遅れた警備員は止められず、反射的に皆が逃げる中、僕は身を挺して彼の前に飛び出した。

 痛いのは嫌だったが、別に刺された事で死にやしない身体である。人々の前で腹部を刺されながらも、僕は男を取り押さえると、スコルピを見上げて言った。


「っ、逃げろ、スコルピ」

「なっ」


 そう言って彼を会場から避難させると、僕は男を警備員に引き渡した所で気を失った。

 結局式典は中止になり、スコルピは肩書きは貰ったものの。その認識は男が発した「毒婦の息子」という言葉により、彼は黄道術師ながらイメージは最悪なものになってしまった。

 僕は僕で数日寝込んでしまったのだが。


「確か、そのナイフって毒が仕込まれていたのよね。魔女ユノの」

「はい。なので思った以上に治癒に時間が掛かってしまって」


 ちょっと遅れていたら危なかったかも。と、刺された腹部を服の上から摩る。

 ストックも小さく息を吐くと、あの毒について話す。


「神性を貫く毒は厳重に管理していたはずなのに、あの男一体どこから手に入れたのかしらね」

「さあ。まあそれもまた表沙汰になってしまって、彼の立場が悪くなってしまったんですが」


 もし彼がやり直したいと願うならきっとこの時だろうか。会場に男を入れさせないとか、戻れば様々な方法があるはずだ。

 だが同時にそれで解決した所で、根本的な問題の解決にはならないだろう。


「会場の件とは別に、魔女ユノの毒を用いた殺人事件。それも結局のところ未解決なんですよね」

「ええ。あの男によれば、スコルピの仕業だと言っていたけれどね」


 でもわざわざただの人間にこんな毒薬使うかしらね。と、ストック様は話す。その事件で使われた毒も、そしてナイフに塗られた毒も同一のものである。

 ただし、事件現場にはその毒薬の瓶などは落ちていなかった様だが。


(そして同時に、何故その毒をスコルピに使おうと思ったのか)


 いくら劇物といえど、狙った相手もまた毒の使い手だ。多少の耐性はあるだろう。それでも使ったのはやはり憎悪の感情からか……。


(いや、裏に誰かいる?)


 顎に手をやり、深く考える。

 そしてふと()()()()との共通点を思い浮かべた。

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