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夜明けの氷狼  作者: チカガミ
4章 見えてくるもの
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【4-11】頼み事(ノルドside)

「だいぶ賑わったな」


 なんて言いつつ。使用した食器を片付ける為に、僕は一足早く城内に戻り、キッチンへ入る。と、そこに麒麟(きりん)様が立っていて、危うく積み上げた食器を落としかける。


「き、麒麟様⁉︎」

「そんなに驚かなくても」


 ぐらついた食器に、麒麟様も手を出して受け止めようとしながら返せば、僕はから笑いしつつ、食器をシンク内に置く。

 とりあえず水に浸けておこうと思い、大きな桶の中に溜めた水に、次々と食器を入れた後、振り向き麒麟様を見る。


「わざわざここで待っているなんて。もしかして僕に用が?」

「まあな。お前の事だからここには来るだろうと思っていた」

「ふふ。やっぱり。……それで、用ってのは」

「……特に重要な話ではない。ただお前がこれからどうするか、それを聞きたかっただけだ」


 そう言って、麒麟様はキッチンの真ん中にある台から椅子を引き出し、それに腰掛ける。麒麟様の事だから、いつか聞いてくると思ってはいた。

 ひとまずキッチンに置いてある紅茶を貰おうと、ポットに水を入れ火にかければ、カップを二つ取り出しつつ話す。


「そうですね……このままこっちに居ても良いかなとは思ったんですけど……」


 魔鏡領域は一応僕の生まれ故郷でもある。だからって訳じゃないが、僕の知らない事を知りたいという気持ちもある。それに、ブーリャにも会いたい。

 そう思ってしまうのは、きっとフェンリル達に出会ったからというのもあるかもしれない。


「まあ、後はキリヤが心配だからってのもあるんですけど」

「……ま、あの男の事だ。すぐにまたクヨクヨするだろうな」

「ははっ。ですよね」


 思わず笑ってしまうと、麒麟様も小さく笑う。だが、その後に彼はこう言った。


「けど、立ち直りも早いだろうな。なんだって、氷狼がいるのだから」

「氷狼?」

「ああ。氷狼だ」

「……あ」


 なるほど。フェンリルの事か。確かに彼が来てからキリヤも変わった気はするが。


「さて、どうでしょうね」

 

 と、苦笑いしつつ。沸騰したポットを持ち上げると、事前に茶葉を入れていたガラス製のティーポットに注ぐ。

 茶葉が舞い、じんわりと湯に色が付いていく中、棚に終われていたビスケットを取り出すと、麒麟様が口を開く。


「もしかしたら、これが最期になるかもしれない」

「え?」

「……もしもの話だ。すぐには帰って来ないのは分かっているからな」


 麒麟様の呟きに、ビスケットが手から滑り落ちる。

 幸いにも皿の上だったが、一部が欠けてしまったそれを、別のビスケットで隠せば、先程の呟きに対して「帰ってきますよ」と返す。


「ちゃんと」

「……」


 麒麟様は返さない。だからと言って僕もまたそれを指摘はしなかった。……というより、出来なかった。何にせよ、先が全く分からないからだ。

 勿論、安全上の危険がある事は分かっている。だが、それはこちらも一緒だ。だがそれとは別の話。

 一息ついた後、僕は麒麟様を見ると目を伏せて言った。


「キリヤに関しては、本人にお任せします。コハク(彼女)が眠るあの地に留まるか、それとも連れて帰るかは」

「……そう、だな」


 そうしんみりとした声で言われ、僕は目を開く。思った以上に寂しがっているらしい。

 その様子に、もぞりと僕の悪戯心がくすぐられると、口角を上げ、上体を前に出して言った。

 

「まー、でも。そんなに寂しがってくださるなら、僕だけでも帰りますけど。寂しいなら」

「なっ……べ、別に寂しくなど……!」

「そう言いつつ、顔にははっきり寂しいって書いてありますけどね」

「う、うるさい! 俺はただお前達を心配して……!」

「はいはい」


 漫画でよく見る様な、ツンデレな態度の彼に満足しつつ。すっかり色が染まった紅茶をカップに注ぎ、麒麟様の傍にビスケットと共に置くと、彼は呆れながらも紅茶を口にする。


「ったく……この俺を揶揄うなど……」

「丸わかりなのに、下手に隠そうとするからですよ」

「……」


 指摘すれば、じろりと赤い瞳で睨まれる。僕はそれでも無視をして紅茶を楽しんでいると、デカいため息の後、麒麟様はカップを置くと、ビスケットを一枚摘んで立ち上がる。

 流石に揶揄い過ぎたかと、僕は少しドキリとしたが、麒麟様がキッチンの入り口で立ち止まり、思い出したかの様な口振りで言ってくる。

 

「すっかり忘れる所だったが、依頼を一つ頼みたい」

「依頼、ですか?」

「ああ。頼まれてくれるな?」


 フッと笑い、麒麟様はこちらを振り向く。頷きつつも、首を傾げれば、彼は右手を鳴らしてアタッシュケースをその場に出現させる。

 慌ててそれを手に取り、「何ですか」と訊ねれば、顎で指してくる。


「開けてみろ」

「……」


 恐る恐るケースを開けば、その中に入っていたのは白い拳銃だった。え。と戸惑いの声を漏らせば、麒麟様が歩み寄り、これに触れる。


「遥か昔、聖園守神に頼んで作ってもらった対神器だ」

「は⁉︎ 対神器⁉︎」


 対神器というと、全ての力を無効化するという激レア中の激レア。しかも拳銃ともなるとその価値はかなり高い。

 とんでもない物に退いてしまうと、麒麟様はそれを手にして確認しながら言った。


「これを魔鏡(まきょう)領域に着き次第、下層に落としてくれ」

「下層に落とす⁉︎ こんな貴重な物を⁉︎」

「ああ。だから、盗まれる様にちゃんと持っていけよ」

「いやいやいや……」


 というか、何故また下層に。

 色々と気になって聞いてしまうと、麒麟様はそれをケースに戻しつつ、昨日聞いた下層のあの話を持ち出した。


「昨日、スターチスの下層の話を聞いて少し気になってな。四神の神器だけならまだしも、テンペスタの二対の槍がそちらにある以上、それを無力化する対神器が必要だと考えていた」

「け、けど、聖園領域だし、対神器もあるんじゃ」

「それも考えたんだがな。……けど、時空が重複しているということは、そちらの対神器が使われていない事になる」


 そこまで聞いて、僕はふと以前スターチス様が話していた事を思い出す。


「そういえば、下層の聖園の守り神の一族が夕暮教と関わっているとかで」

「……ああ、だから使われなかった。作れなかった可能性がある」


 故に自浄できない。こうなった以上は、外部から何かして解決する他ない。

 麒麟様の言葉に僕は納得しつつ、改めてその対神器を見る。

 陶器の様に白く美しいそれは、繊細で扱いを間違えてしまったらすぐに壊れてしまう様な気がしたが、麒麟様がバンとケースを強く閉じたのを見て、案外そうでもないかもと思ってしまった。


(扱いが良いのか悪いのか……)


 はい。と麒麟様に差し出され、顔を引き攣らせながらも「お預かりします」と言って受け取る。

 実際の重さ以上にかなり重く感じつつ、僕はため息を吐いた。


※※※


 渡されたアタッシュケースを部屋に置き、魔術で厳重に保護した後部屋を出れば、大きな影が差し込む。

 見上げた瞬間、白く長い髪と共に燃える様な赤い毛先が見え、僕は飛び上がり声を上げた。


「な、なんでお前……‼︎」


 拘束されていた筈じゃあ。と、鳳凰(ほうおう)に対して言えば、鳳凰は眉間に皺を寄せたままある物を投げ渡す。

 それがコツンと額に当たり、「痛っ」と呟きつつ、転がり落ちたそれを手に取る。それは金色の金具で作られた(かんざし)だった。


「え、何これ」

「神器だ。好きにしろ」

「えっ⁉︎」


 なんで⁉︎

 驚愕の声を上げて言えば、彼は不機嫌な表情のまま返す。

 

「全てを話した上に、信者も犠牲にしたからな。あいつらの元にはもう行けない。ある種の自暴自棄だと思ってくれ」

「自暴自棄……ねえ」


 散々暴れまくった末の自暴自棄がこれかと、苦笑いしてしまう。それに対し、鳳凰は舌打ちした上で言った。


「何とでも言え」

「はいはい。……じゃ、せっかくだし。ありがたく貰っておくよ」

「フン」


 とはいえ、簪か。どう扱おう……。

 悩みつつ簪を眺めていると、鳳凰がある事を聞いてくる。


「貴様、かつてスコルピと何かあったのか?」

「スコルピ? ……なんで?」

「ただ聞いただけだ」


 そう呟き、彼は去っていく。

 興味があるにはある様だが、特に深く知る欲はないらしい。スタスタと歩き去っていく鳳凰の背中を見つめながら、僕は僅かに笑う。


「行く前に、あいつとも決着つけないとな」


 どうして夕暮教に関わっているのか。そしてストック様とは今はどんな関係なのか。


(あの時ストック様は、少し前から連絡取れていないと言っていたけど……)


 前に学園に襲撃された時、こんな会話をアイツとした。


『この間といい。一体誰の差し金かな? もしやストック?』

()()()()()()()()()()()()()()()。だったら話が早いね。さっさと退いてくれない?』


 あの会話からして明らかに関わっているとみて間違いない。だがそうなると矛盾ができてしまう。

 もしかしたらどちらかが嘘ついている可能性もあるが、ストック様に関しては、こちらに寄ってきている素振りを見せている。その言動も、見ている限りでは偽っている様に見えなかった。

 じゃあ、スコルピが嘘を吐いている可能性は? とはいえ、嘘ついた所で得になるものはない筈だ。


(まだ完全に信じるのは早いよな)


 スコルピが夕暮教に関わっている以上、ストック様も疑う他ない。これはもう一度聞き直した方が早いかな。


「ふぁー……面倒だけど、やるしかないか」


 そう背伸びをした後、僕は部屋に戻る。

 貰った簪が手の中で僅かに熱を帯びていく中、晩に向けて一人準備を始めた。

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