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夜明けの氷狼  作者: チカガミ
4章 見えてくるもの
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【4-8】これからの事

 朱雀(すざく)様の部屋を後にし、スターチスを連れて俺はシルヴィア達のいる部屋に入る。

 見た所大きな怪我はなく、それぞれ笑みを浮かべる皆を見て胸を撫で下ろすと、扉が開く音が聞こえて視線をそちらに向ける。


「あ、尋問終わった? ……って」


 何で真っ黒なの。そうスターチスが呟くと、言われた通り真っ黒焦げの麒麟(きりん)様が疲れた様子で返した。


「ちょっと色々あってな……気にするな」


 そう言うと、その後ろから同じく燻っているストックが現れる。一体何があったんだ。と気になって仕方がないが、麒麟様は部屋の真ん中までくると、スターチスを見て言った。


鳳凰(ほうおう)からある程度話は聞いた。その中にはお前が言っていた下層の話も含まれるんだが、一緒に言っていいか?」

「下層の? まあ、一緒に話してくれた方が助かるから良いけど……」

「分かった。じゃあ後程」


 そう言って、麒麟様は腕を組む。俺は部屋の壁に寄りかかると、麒麟様は俺達の顔を見通した後口を開く。


「鳳凰の話によると、ソンニョがいるのは魔鏡(まきょう)領域で間違いないらしい。が、明確な場所までは聞けなかった」

「それって、知らないって事?」


 スターチスの質問に、麒麟様は頷く。

 だが、魔鏡領域にいるのは間違いない。それが分かっただけでも進展と言えるだろう。

 更に鳳凰との話で夕暮れ教の狙いも分かってきたという。


「彼らの狙いは『やり直し』だ」

「「「やり直し」」」


 全員揃って呟き返す。やり直しという事はスズ先生の言う通り、彼らの言う間違いを正す為なのだろうか。

 何となく理解している横で、スターチスが「どういう事?」と怪訝そうに訊ねれば、ストックが溜息混じりに答えた。


「そのままの意味よ。後悔した事、出来なかった事をやり直す。まあ誰もが一度は考える事ね。要するに過去に戻る気じゃないの?」

「え、でも、過去に戻る事は……」

「そう。禁術」


 ノルドの言葉に、きっぱりとストックは言う。

 魔術には禁術と呼ばれるやってはいけない魔術がある。それは技術的な問題もあるが、大半は倫理的な問題、そして安全上の問題である。

 その中でも代表的な禁術である「過去に戻る魔術」は、例え時を司る神であっても、時の神全員の許可が必要だという。


「過去に戻るって事はね、場合によっては世界を変えかねないの。だからかなり使用を厳しくされているって訳」

「けど、それを夕暮れ教はしようとしている……か」


 ストックの説明に納得しつつ俺が呟けば、隣にいたスターチスが小さな声で「なるほど」と声に出す。その言葉に視線をそちらに向ければ、スターチスは顔を上げて言った。


「やり直し……だから、下層で関わっていたのか」

「何だ。なんか閃いたのか」

「閃いたというか、何というか……何となく辻褄が合ってきたというか」

「……」


 唸りながらも呟くスターチスに、麒麟様は一旦口を閉ざした後、「そういや」と別の話を始める。


「先程、下層の話もあるといったが、俺はこの事について一つ聞きたい事がある」

「ん、何?」


 スターチスが首を傾げると、麒麟様は眉を顰めながら言った。


「鳳凰曰く、下層で夕暮れ教はある実験を行っていると言っていた。神同士の相反する想い。それによって無限を作ると」

「無限……?」

「更に聞いた話では、下層では今ある時間帯だけ謎の重複時空が起きているという」

「重複……?」


 スターチスだけの呟きが、話を聞いていたストックも何か引っかかるのか、同じく不穏そうに言葉を漏らす。

 一方でまたもや話に置いていかれている気がする俺達は呆然として三人を見ていると、ノルドが訊ねる。


「何? 何か下層でやばい事が起こっているの?」

「やばい事……かな」

「かなじゃないわよ。由々しき事態よ」


 何をやっているのよ。と厳しい表情でスターチスを叱る。スターチスはスターチスで青ざめた表情になり、固まっていると、次第に俺達まで焦ってしまう。

 と、そこにテンペスタが部屋に入ってくると、部屋の空気に入り口で立ち止まる。


「何があった」

「重複時空についてよ」

「ああ。その事か」


 尋問の際に同席していたからか、テンペスタはすぐに理解すると、スターチスを見る。


「この様子だと本人は知らなかったのか」

「みたいよ。……ったく、気づかないなんて。普通記録は取っているんじゃないの?」

「してるよ⁉︎ してるけど……! でもまさか重複してるなんて思わないじゃん……!」


 そう言って頭を抱えるスターチス。

 スターチスが狼狽している所を見ると、状況はどうやら思ったよりも深刻らしい。

 と、キリヤが呆れた様子で言った。


「話が全く理解できないんだが……その時空が重複って何が起きているんだ」

「時空が重複っていうのはある一定の時空間が異常に線が多いって事。本来ならばまずあり得ない事なんだけど、知らぬ間に別の世界が出来ていたって感じかしら」

「それって神域とは違うのか?」

「似て非なるものね」


 そう言った後で、ストックはスターチスを見る。

 スターチスは深い溜息をついた後「帰らなきゃ」と呟く。


「ああでも朱雀どうしよう……」

「火の鳥さんは私が見るから。気にせずさっさと行きなさいよ」

「……なんかいつもより優しくない? え、逆に怖い」

「いいから早く行け」


 ストックの厚意をスターチスが怪しむが、その直後背中を蹴られ、スターチスはよろよろとしながら部屋を後にする。

 スターチスが去った後、キリヤがストックと麒麟様を見て言った。


「それで結局のところ、俺達は魔鏡領域に向かわないと行けないのか」

「そうなるわね。ソンニョを倒す目的なら」

「……」


 言われたキリヤは口を閉ざす。

 どちらにせよ。俺達の最終目標は神器ルーポ・ルーナを手に入れ、魔鏡領域の守り神……リアンを倒す事になるのだが、話を聞く内にソンニョの方も気掛かりではあった。

 と、そこで座っていたノルドが椅子から立ち上がり、近くのベッドに腰掛けていたキリヤに歩み寄ると、その横に座る。


「どうするキリヤ」

「どうするって」


 困った様に返すキリヤに、ノルドは背伸びをした後苦笑い混じりに言った。


「ビルは壊れたし、家も倒壊してるだろうからね」

「あ」

「そういえば」


 ノルドの言葉に俺とシルヴィアは声を漏らす。忘れていたが、ビルが倒壊したという事は、キリヤ達の家も無くなった事になる。

 キリヤもそれを忘れていた様で、あんぐりと口を開けて固まっていると、そこで珍しくシルヴィアが声を上げる。


「す、スズ先生……!」

「あっ」

「あ、スズ先生‼︎」


 倒壊する前、家を後にしたスズ先生の安否は⁉︎

 今更ながらあれこれ思い出し焦り出すと、麒麟様が咳払いして言った。


「スズは大丈夫だ。彼の無事は確認している。だが、家は確実にダメだろうな」

「あー……くそ、あんの鳥野郎。後で一発殴ってやる……!」


 そう怒り混じりにキリヤが言えば、ノルドが深く頷く。

 あの家には母さんの思い出の品もあったが、それを失ったのは俺としてもかなり心が痛かった。


(せめて一つ位残っていれば良いが……)


 とはいえ、家だけでなくビルそのものの倒壊ともなると、望み薄だろう。

 堪らず深い溜息を吐いていると、ここで気まずそうにストックが手を上げる。


「あの、実は……その。少し前に自分用にと思ってアルバムのコピーがあるんだけど」

「「え」」

「うわ」


 キリヤとノルドの驚きの声と共に、麒麟様からドン引きするような声が聞こえる。

 俺達も喜んでいいものかと引き攣った笑みを浮かべていたが、キリヤは真面目な表情を浮かべるとストックに近寄る。


「後でコピーくれ」

「わ、分かった。後でね」


 距離の近いキリヤにストックが戸惑いつつも頷き了承する。その傍ら、ノルドがキリヤを見つめながら「何か素直に喜べない」と苦々しく呟いた。

 そんなノルドに対し、シルヴィアもまた苦笑いして言った。


「ま、まあ。完全に失うよりはまだマシじゃないかな……」

「そ、そうだよな……動機は聞きたくないけど」


 シルヴィアに同調して俺も言うとノルドは唸る。麒麟様の顔は未だに引き攣っていた。

 

「……で、話は戻すけど。結局どうするの貴方達は」

「どうするって……まあ」


 ストックに言われ、キリヤは再び悩む。そしてノルドや俺達を見ると、キリヤは眉を下げながら言った。


「お前の弟の望みもあるし、魔鏡領域に行っても……いいかな……」

「お、行く?」


 渋々ではあるがキリヤのその言葉に、ノルドは目を丸くさせ前のめりになる。

 俺としてもそれはありがたいが、思わず「良いのか?」と訊いてしまうと、キリヤは眉間に皺を寄せて言った。


「家……無くなったしな」

「……」

「……ま、遅かれ早かれ、魔鏡領域に行く事になるのは分かっていたからな。それが贖罪だとどこかで思っていてもいたし」

「……そっか」


 キリヤがそう言うのならば。

 壁から身を起こし小さく笑うと、キリヤもまた笑みを浮かべる。


「と、言う訳で。いつまで一緒に居られるかは分からないが、またしばらくよろしくな」

「ああ。こちらこそ」


 そう言って、互いに近づくと手を握る。

 口にはしなかったが、まだキリヤと居られる事に俺は心底嬉しかった。

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