【4-7】尋問(鳳凰side)
暗い部屋にカチ、カチ。と時計の針の音だけが響く。
肘をつき、こちらをじっと睨み付ける麒麟を他所に、僅かに明るい窓の外を見つめていると、呆れたのか大きなため息が聞こえてくる。
「……いい加減、話してくれ」
そう言われ、こちらも息を吐く。
一体何度このやり取りを繰り返すのか。どう詰め寄った所で、俺は話すつもりはないと言うのに。
段々と腹が立ってきて、下から台を蹴る。しかし、蹴った所で身体は神の鎖によって椅子に縛られているので、立ち上がる事は出来なかった。
そんな事をしていると、壁に寄りかかりこちらを見ていたストックが口を開く。
「そんなにあの火の鳥さんが気に入らないの?」
「……」
答えず無視をする。
と、ストックは表情を変えず歩み寄り、傍でしゃがみ込むと、口角を上げて言った。
「外側は同じなのにね」
「……だから気に入らないんだ」
「どうして?」
そう訊ねられ、俺はストックを睨む。
外側が同じ? だからなんだというのだ。いくらあいつと同じだからって……許されない。
「朱雀は俺の眷属だ。誇り高き華の国を護る火の鳥だった……! それが、別の地の火の鳥の……穢らわしい魂が入ったんだぞ!」
「それは……」
「仕方がないというのか! 麒麟、貴様も堕ちたものだな!」
そもそも元はと言えば、欲を求め過ぎた人間達のやらかしが原因だ。
人間達が好き勝手やって、しきりに生を望んでしまったのが悪い。他種族共々、世界崩壊に滅んでしまったら良かったというのに。
溜まりに溜まった不満を、怒りを口に出すと、麒麟の表情は固く。そして眉間に皺を寄せて呟く。
「確かに。お前の言う通りだよ。鳳凰。俺は堕ちたかもしれない」
「……開き直りか?」
「どうとでも受け取れ。……俺だって、自分の行いに疑問を感じる事がある。俺が生まれた意味と相反しているんじゃないかと」
「っ」
麒麟の言葉に、俺は唇を噛み締める。こうしてまた気持ちを押し付けるのか。意地でも仕方ないと言い聞かせる気なのか。
食ってかかろうと前のめりになれば、麒麟もまた台の上に身を出すと、強い口調で言った。
「でも、だからといって、今をおざなりにするわけにはいかない。俺は今は夜明けの領域神だ。霊獣だった昔の自分のままじゃいけないんだよ」
「っ」
言葉が出てこなかった。それは腹立たしいというよりも、ある種図星に近かったからだ。
けれども同時にそれを受け入れる気も到底なかった。
「……だからなんだと言うんだ」
「何?」
口に出た言葉に、麒麟の表情がより険しいものに変わる。それでも俺は言ってやった。
「周りがどう言おうと、俺はあいつを朱雀だとは認めない。あいつを消すまで俺は諦めない」
「っ……鳳凰!」
名前を呼ばれ、胸ぐらを掴まれる。
胸ぐらを掴むが、それ以上の所までやってこないのは俺を舐めているのだろうか。
怒りを通り越し笑みを浮かべると、麒麟の右手が動くのがみえた。
(殴るか?)
そう思っていれば、麒麟の拳が顔に迫る直前で、別の所から声が聞こえてきた。
「へえ。要するにそれが貴方の望みって訳ね」
「……っ⁉︎」
拳がすんでのところで止まると、怒りに満ちた麒麟の赤い瞳がストックの方に向けられる。
俺もそちらを見ると、変わらず無表情のままストックは言った。
「貴方にとって、朱雀の中に火の鳥さんが入ったのが許されない。それは貴方の誇りを穢されたようなものだから」
「……」
「じゃあ一つ質問するわ。もし仮に火の鳥さんがいなくなったとして、貴方は満足するの?」
「何?」
薄らと笑みを浮かべるストック。一体何が言いたいのだろう。
探る様に見つめつつ黙り込むと、ストックは続けてこう言ってくる。
「まさかこれ如きで気が済む……って訳じゃないわよね? 何せ、ビル一棟壊す勢いの全力よ。テンペスタが全力でなんとかしたとはいえ、犠牲者も多い」
「……」
「先程、貴方は麒麟を堕ちたものだと言ったけれど。それは貴方も一緒じゃないかしら。本来幸運を司る霊獣の貴方が、今はただの祟り神みたいなものになって。……そんなので、本来の朱雀が報われると思う?」
「……うるさい」
「改めて聞くわ。貴方の本当の望みは」
「うるさい‼︎」
声を上げる。とても不愉快で仕方がない。
俺が堕ちただと? 祟り神だと? 誰がそう言うのだ。この神だって散々好き勝手やってきて、種族やここらの領域に混乱を招いた癖に。
焼却する勢いで、周囲の空気を高温に高める中、咄嗟に距離を置く麒麟と、それでも傍にいるストックがそれぞれ見る中、ストックは先程言いかけていた事をはっきりと告げてくる。
「貴方の望みは……かつての時代に戻り、朱雀を消す事。本来の朱雀として成仏させる為にね。それはつまりこの世界を滅ぼす事になる。朱雀という立場が居なくなるのはそう言う事よ」
「うるさい! そんなの知った事ではない! それ以上言おうと言うのなら、貴様らまとめて燃やし尽くしてやる!」
ストックの言葉によって、俺を止めていた感情の鎖が完全に解かれた気がした。
叫びと共に拘束していた鎖が砕け、一気に部屋が炎に包まれる。
逃げ場のない麒麟やストックは炎に巻かれ、影になっていくのが見えたが、その直後その炎の中から手が伸びてくると、床に倒されると同時に押さえつけられ、強制的に炎が止む。
周囲は黒く煤のみが広がる中、自分を押さえつける存在を見上げると、そこには光のない瞳がじっとこちらを見ていた。
「っ、新生の神が俺に逆らうというのか‼︎」
「生まれは関係ない。それよりも、話し合いをしていたんじゃないのか?」
「話し合いだと⁉︎ ハッ、尋問だ! それにそれで済むと思うな‼︎」
「ふむ、そうだな」
感情が昂る俺とは反対に、テンペスタと呼ばれていたその領域神は静かに納得する。だが、その一方で拘束は解く事なく、視線もこちらを向いたままである。
そうしている内に、俺はふとその目にわけも分からない恐怖を感じた。何がどうして怯えを感じるのかは知らないが、とにかく力が抜けていき、代わりにガチガチと歯がなり始めるとテンペスタは首を傾げる。
「どうした。寒いのか」
「いや、そうじゃないと思うわ」
「……」
テンペスタの疑問に、その背後で煤だらけのストックと麒麟が言葉や表情で返す。
視線を逸らし、喰われそうな気配に怯えていると、テンペスタはゆっくりと俺の上から離れていく。
「あーあ、完全に恐怖に呑まれたわね」
「けど助かったな」
「……二人とも真っ黒だが」
俺を他所に気の抜ける会話が始まる。その間に、少しずつ動けるようになると、俺は這いながらも、その場から離れようとする。
だが、再び今度は床から生えた鎖によって雁字搦めになり、留められると、煤を払いながらストックが歩み寄る。
「逃がさないわよ。話を聞くまでは」
「っ、だから、これ以上話す事はない……」
「いいや。まだある。ソンニョ達と一緒にいたんだろ。……全部吐け」
ストックに続き、麒麟もしゃがみ込み見下ろしながら言う。テンペスタは見つめるだけで何もしてこないが、顔を合わせるだけで再び恐怖がやってくる。
しかもこの空間自体、テンペスタの神域である以上、これではどう足掻いた所で、逃げられそうにもなかった。
舌打ちし、ストックや麒麟に睨み返した後、半分諦めも混じりながら、渋々口を開いたのだった。




