表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜明けの氷狼  作者: チカガミ
4章 見えてくるもの
63/82

【4-7】尋問(鳳凰side)

 暗い部屋にカチ、カチ。と時計の針の音だけが響く。

 肘をつき、こちらをじっと睨み付ける麒麟(きりん)を他所に、僅かに明るい窓の外を見つめていると、呆れたのか大きなため息が聞こえてくる。


「……いい加減、話してくれ」


 そう言われ、こちらも息を吐く。

 一体何度このやり取りを繰り返すのか。どう詰め寄った所で、俺は話すつもりはないと言うのに。

 段々と腹が立ってきて、下から台を蹴る。しかし、蹴った所で身体は神の鎖によって椅子に縛られているので、立ち上がる事は出来なかった。

 そんな事をしていると、壁に寄りかかりこちらを見ていたストックが口を開く。


「そんなにあの火の鳥さんが気に入らないの?」

「……」


 答えず無視をする。

 と、ストックは表情を変えず歩み寄り、傍でしゃがみ込むと、口角を上げて言った。


()()()()()なのにね」

「……だから気に入らないんだ」

「どうして?」


 そう訊ねられ、俺はストックを睨む。

 外側が同じ? だからなんだというのだ。いくらあいつと同じだからって……許されない。


朱雀(すざく)は俺の眷属だ。誇り高き華の国を護る火の鳥だった……! それが、別の地の火の鳥の……穢らわしい魂が入ったんだぞ!」

「それは……」

「仕方がないというのか! 麒麟、貴様も堕ちたものだな!」


 そもそも元はと言えば、欲を求め過ぎた人間達のやらかしが原因だ。

 人間達が好き勝手やって、しきりに生を望んでしまったのが悪い。他種族共々、世界崩壊(あのとき)に滅んでしまったら良かったというのに。

 溜まりに溜まった不満を、怒りを口に出すと、麒麟の表情は固く。そして眉間に皺を寄せて呟く。


「確かに。お前の言う通りだよ。鳳凰。俺は堕ちたかもしれない」

「……開き直りか?」

「どうとでも受け取れ。……俺だって、自分の行いに疑問を感じる事がある。俺が生まれた意味と相反しているんじゃないかと」

「っ」


 麒麟の言葉に、俺は唇を噛み締める。こうしてまた気持ちを押し付けるのか。意地でも仕方ないと言い聞かせる気なのか。

 食ってかかろうと前のめりになれば、麒麟もまた台の上に身を出すと、強い口調で言った。


「でも、だからといって、今をおざなりにするわけにはいかない。俺は今は夜明けの領域神だ。霊獣だった昔の自分のままじゃいけないんだよ」

「っ」


 言葉が出てこなかった。それは腹立たしいというよりも、ある種図星に近かったからだ。

 けれども同時にそれを受け入れる気も到底なかった。


「……だからなんだと言うんだ」

「何?」


 口に出た言葉に、麒麟の表情がより険しいものに変わる。それでも俺は言ってやった。


「周りがどう言おうと、俺はあいつを朱雀だとは認めない。あいつを消すまで俺は諦めない」

「っ……鳳凰(ほうおう)!」


 名前を呼ばれ、胸ぐらを掴まれる。

 胸ぐらを掴むが、それ以上の所までやってこないのは俺を舐めているのだろうか。

 怒りを通り越し笑みを浮かべると、麒麟の右手が動くのがみえた。


(殴るか?)


 そう思っていれば、麒麟の拳が顔に迫る直前で、別の所から声が聞こえてきた。


「へえ。要するにそれが貴方の望みって訳ね」

「……っ⁉︎」


 拳がすんでのところで止まると、怒りに満ちた麒麟の赤い瞳がストックの方に向けられる。

 俺もそちらを見ると、変わらず無表情のままストックは言った。


「貴方にとって、朱雀の中に火の鳥さんが入ったのが許されない。それは貴方の誇りを穢されたようなものだから」

「……」

「じゃあ一つ質問するわ。もし仮に火の鳥さんがいなくなったとして、貴方は満足するの?」

「何?」


 薄らと笑みを浮かべるストック。一体何が言いたいのだろう。

 探る様に見つめつつ黙り込むと、ストックは続けてこう言ってくる。


「まさかこれ如きで気が済む……って訳じゃないわよね? 何せ、ビル一棟壊す勢いの全力よ。テンペスタが全力でなんとかしたとはいえ、犠牲者も多い」

「……」

「先程、貴方は麒麟を堕ちたものだと言ったけれど。それは貴方も一緒じゃないかしら。本来幸運を司る霊獣の貴方が、今はただの祟り神みたいなものになって。……そんなので、本来の朱雀が報われると思う?」

「……うるさい」

「改めて聞くわ。貴方の本当の望みは」

「うるさい‼︎」


 声を上げる。とても不愉快で仕方がない。

 俺が堕ちただと? 祟り神だと? 誰がそう言うのだ。この神だって散々好き勝手やってきて、種族やここらの領域に混乱を招いた癖に。

 焼却する勢いで、周囲の空気を高温に高める中、咄嗟に距離を置く麒麟と、それでも傍にいるストックがそれぞれ見る中、ストックは先程言いかけていた事をはっきりと告げてくる。


「貴方の望みは……かつての時代に戻り、朱雀を消す事。本来の朱雀として成仏させる為にね。それはつまりこの世界を滅ぼす事になる。朱雀という立場が居なくなるのはそう言う事よ」

「うるさい! そんなの知った事ではない! それ以上言おうと言うのなら、貴様らまとめて燃やし尽くしてやる!」


 ストックの言葉によって、俺を止めていた感情の鎖が完全に解かれた気がした。

 叫びと共に拘束していた鎖が砕け、一気に部屋が炎に包まれる。

 逃げ場のない麒麟やストックは炎に巻かれ、影になっていくのが見えたが、その直後その炎の中から手が伸びてくると、床に倒されると同時に押さえつけられ、強制的に炎が止む。

 周囲は黒く煤のみが広がる中、自分を押さえつける存在を見上げると、そこには光のない瞳がじっとこちらを見ていた。


「っ、新生の神が俺に逆らうというのか‼︎」

「生まれは関係ない。それよりも、話し合いをしていたんじゃないのか?」

「話し合いだと⁉︎ ハッ、尋問だ! それにそれで済むと思うな‼︎」

「ふむ、そうだな」


 感情が昂る俺とは反対に、テンペスタと呼ばれていたその領域神は静かに納得する。だが、その一方で拘束は解く事なく、視線もこちらを向いたままである。

 そうしている内に、俺はふとその目にわけも分からない恐怖を感じた。何がどうして怯えを感じるのかは知らないが、とにかく力が抜けていき、代わりにガチガチと歯がなり始めるとテンペスタは首を傾げる。


「どうした。寒いのか」

「いや、そうじゃないと思うわ」

「……」


 テンペスタの疑問に、その背後で煤だらけのストックと麒麟が言葉や表情で返す。

 視線を逸らし、喰われそうな気配に怯えていると、テンペスタはゆっくりと俺の上から離れていく。


「あーあ、完全に恐怖に呑まれたわね」

「けど助かったな」

「……二人とも真っ黒だが」


 俺を他所に気の抜ける会話が始まる。その間に、少しずつ動けるようになると、俺は這いながらも、その場から離れようとする。

 だが、再び今度は床から生えた鎖によって雁字搦めになり、留められると、煤を払いながらストックが歩み寄る。


「逃がさないわよ。話を聞くまでは」

「っ、だから、これ以上話す事はない……」

「いいや。まだある。ソンニョ達と一緒にいたんだろ。……全部吐け」


 ストックに続き、麒麟もしゃがみ込み見下ろしながら言う。テンペスタは見つめるだけで何もしてこないが、顔を合わせるだけで再び恐怖がやってくる。

 しかもこの空間自体、テンペスタの神域である以上、これではどう足掻いた所で、逃げられそうにもなかった。

 舌打ちし、ストックや麒麟に睨み返した後、半分諦めも混じりながら、渋々口を開いたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ