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夜明けの氷狼  作者: チカガミ
4章 見えてくるもの
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【4-6】本当の名は

「いや、ここは()()()()で呼んだ方が良かったかな?」

「っ!」


 鳳凰(ほうおう)の言葉に、朱雀(すざく)様の目が開く。そして何かを知っているのか、スターチスが「やめろ」と言うが、鳳凰は一歩踏み出すと口を開く。


「偽物が。良くも我の眷属の名を安易と使ったものだ。名を借りるだけでなく、まさかその立場まで奪ってしまうとはな……! 穢らわしい奴だ」

「っ、お前……!」


 朱雀様を罵倒する鳳凰に、スターチスの怒り混じった声が響く。

 事情を知らない俺達は戸惑い、鳳凰とスターチスの言い争いをただ見つめる事しか出来ないでいると、一人俯く朱雀様が顔を上げる。


「確かに……お前の言う通りだよ。鳳凰」

「っ、朱雀……!」

「ハッ……! 今更自覚したか」


 鳳凰が鼻で笑えば、朱雀様はノルドに支えられながらもじっと見つめる。焦燥に満ちたスターチスの顔がこちらに向けられる中、ゆっくりとだが朱雀様は話し始めた。


「お前の知っている朱雀は……本当の朱雀はもういない。本物は、世界が終わったあの時にいなくなってしまったから」

「……」

「……実をいうとね。誰かさんから火の鳥と呼ばれた時から、ちょっと焦っていたんだよね。多分、本人はそういう意味で言ったんじゃないと思うけど」


 ね。とキリヤに向けて朱雀様が言う。

 分かっていないキリヤは眉を顰め「どういう事だ」と訊ねれば、辛く息を吐いた後「名前だよ」と朱雀様は力無く笑う。


「それが、俺の本当の名前。四神(あいつら)とは生まれも違う、遥か遠く西の国々で生まれた存在だ」

「な……火の鳥が、本名だと……⁉︎ もう少しまともな名はないのかよ⁉︎」

「え、そこ?」


 キリヤの驚きの声に、ノルドが静かに突っ込む。

 俺もキリヤの驚きのポイントに呆れて何も言えないでいると、真面目な顔を浮かべたスターチスが言う。


「別名フェニックス。不死鳥とも呼ばれる。本来の朱雀には不死性はないからね」

「そうだ。その力をあいつは持っていなかった。だから、すぐに分かったのだ」

「ああ……だから、何度も殺しに来たわけか」


 鳳凰に対し朱雀様が言う。と、鳳凰は拳を握りより距離を詰める。

 朱雀様に危害を加える気だと察した俺は、間に立つと、鳳凰の眉間に皺が寄り、「邪魔だ」と強い口調で叫ぶ。

 それでも尚立ち塞がると、怒りに合わせて鳳凰の周囲の温度が上がるのが分かった。


「そうか……そんなに粛清の邪魔をすると言うのならば、先にお前からやってしまっても良いが」

「……」


 返答はせず、代わりに制服のジャケットを脱ぎその場に放ると、袖を捲り構える。

 それを見た鳳凰はただ一言「哀れだな」と呟くと、黄金色の炎を拳に纏い、殴りかかってくる。


「フェンリル!」


 スターチスの声が聞こえてくる中、俺もまた氷を拳に纏わせると、身を屈めて鳳凰の腹部に拳を打ち付ける。

 くぐもった声が聞こえてくるが、しゃがむ事もなく。すぐに余裕げに笑む声が聞こえると、打ち付けた拳を中心に炎があっという間に身を包む。


「っ⁉︎」


 爆発にも似た炎上に、視界と共に肌が焼ける。更にその炎は俺を超えて背後のスターチス達にまで襲いかかった。

 暗かった室内が一気に明るく、そして高温に包まれる中、一息置いて後ろから巨大な水泡に包まれる。

 ジリジリと痛む広範囲の火傷が、水泡で徐々に癒えていく中、後ろを振り向けばシルヴィアがこちらに手を伸ばしているのが見えた。


「っ、シルヴィア!」


 助かった。と名前を言うのも束の間。前方から蒸発する音が聞こえ、正面を向けば黄金色の炎が目前に迫っていた。


「させないよ」


 背後からスターチスの右手が伸び、腕輪が光る。

 と、巨大な水瓶が現れ、大量の水が流れ込んでいく。


「っ!」


 それによって鳳凰が流されるように後退すれば、俺は多量の水を利用し、鳳凰を凍らせて拘束した。

 氷像になった鳳凰に、やりすぎたかと少し後悔したが、その直後、炎と共に抜け出したのを見て、気を引き締める。


「……貴様ら」


 家を出て外に降り立った鳳凰は、より目を吊り上げ、辺りの温度を上げる。

 まるで太陽が近くに降りてきたかのような感覚に、俺達は近づけないでいると、一人影が前に飛び出した。


「っ、鳳凰!」

「朱雀⁉︎」


 スターチスの声で、その影を凝視する。

 小さな影が眩しく光り輝くと、一瞬の無音の後激しく白く光ると同時に轟音が響き渡った。


※※※


「……っ」


 目を覚ますと、装飾の施された天蓋が目に入る。すぐに起き上がると、そこはさっきいたテンペスタの神域の中の様で、暗く静かな空気が流れていた。


「……」

 

 あの激しい爆発で意識が飛んでいた様だが、他の皆は大丈夫なのだろうか?

 とりあえずベッドから立ち上がり部屋を出ると、俺と同じく所々服が焼き焦げた格好で、スターチスが廊下に立っていた。

 壁に寄りかかり俯く彼は、俺を見るなり「ああ、起きたんだ」と呟くと、俺は頷き近づく。


「……皆は?」

「キリヤ達は大丈夫だよ。爆発と同時に、テンペスタによって神域に取り込まれたからそこまで怪我は負ってない。……ただ」


 朱雀はしばらく無理だ。

 そうスターチスは言って、歩み出す。俺はそんなスターチスの背中を見つめていると、スターチスは足を止め僅かに振り向く。


「ちょっと、付き合って」

「あ、ああ……分かった」


 いつもとは違う暗い彼に、俺は頷きすぐに着いていく。そして、そう時間が掛からない内に、ある部屋にたどり着く。

 そこは俺が目が覚めた場所に似た、寝室のような部屋だったが、その部屋の真ん中にあるベッドに見慣れた赤髪が見えた。

 歩み寄ると、眠る朱雀様の肌がじわじわと炭化していることに気づいた。


「っ」


 言葉が詰まり立ち尽くすと、スターチスはそのベッドに腰掛け、炭化した肌を撫でながらいった。


「呪いのせいで、転生に時間が掛かっているんだ。いつもならば一瞬なんだけどね」

「その呪いって、どうやったら解けるんだ?」

「それは今別室で麒麟が聞いてる所だよ。あのビルも倒壊したし、それもあって色々と話は長くなっているみたいだけど」


 長いため息をつきながらスターチスは頭を抱える。

 俺もまた、どう声を掛けるべきか分からなくて、スターチス達から目を逸らすと、スターチスが口を開く。


「最初はお前の身の事や神器を手に入れられたらと思ったんだけど……俺達の事情に巻き込んでしまって」


 ごめん。そうスターチスに謝られ、俺は目を開く。そして彼の隣に座ると、「謝る事じゃない」と返す。

 確かに当初はそれだけだったかもしれない。それがこんな事になってと、まるで俺達とは関係がない様にスターチスは言うが、全く無関係でない事を彼は忘れている気がした。


「今回はソンニョに関して探っている最中に起きた事だろ。だから、お前だけの問題だって考えるなよ」

「……フェンリル」

「それに。俺も一言ソンニョに対して言いたい事があるからな。主に母さんの件で」


 母さんがそうせざるを得なかったきっかけを作ったに過ぎないが、その後もあちこちで悪事を働こうとしている以上、俺としても見過ごしたくはなかった。

 不器用ながらに、落ち込んでいるスターチスを励まそうと、背中を少し強めに叩くと、スターチスは顔を上げる。


「力、強くない?」

「そうか?」

「もしかして、励まされてるの。俺」

「……まあ、その気で叩いたんだが」

「……そっか。何か、変な感じだなぁ」


 お前に励まされるなんて。

 スターチスはそうくしゃりと泣きそうな顔で笑うと、俺は小さく笑って背中を摩る。

 普段喧嘩ばかりしていたとはいえ、大事な存在が傷つけられる気持ちは相当なものだ。


 (もう少しだけ、スターチスのそばにいてやるか)


 そう思いつつ、俺はスターチスの話に耳を傾け続けた。

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