【4-5】話し合いの結末
「さて、腹拵えもしたし。今度こそ本題に入ろうか」
三十分ほど食事や会話をし、ある程度食べ終えた所で、スターチスがフォークとナイフを置き発言する。
それを聞いた麒麟様が溜息混じりに「やっとか」と呟くと、同じくストックもまた口元をナフキンで拭いながら「遅いわよ」と返す。
麒麟様はともかく、ストックの発言には少々つっこみたくもなったが、スターチスは席を立つと俺達の前に出て言った。
「まずはソンニョの行方について。一応お二人さんにも聞いておこうと思ってね」
「……ソンニョの事は以前話したはずだが」
「私も話したわよ」
そう言って二人はそれぞれ首を横に振ると、「知らない」と答える。そこでスターチスは「だよね」と答えた上で、質問を変える。
「じゃあ、その協力者……例えば、スコルピや鳳凰の行動とかで何か分かることない?」
「鳳凰だと?」
「スコルピ?」
あいつらの名前を挙げた途端、二人の顔が変わる。
麒麟様は硬い表情、対してストックは何故か笑みを浮かべた。
その反応にスターチスは神妙な面持ちで「知ってるんだね?」と言うと、先にストックが口を開く。
「そんなに彼が気になるの?」
「気になるね。お前とも繋がってるし、ソンニョの下にいるようだから」
「……そうね。じゃあ、取引しましょ?」
「取引?」
「そう。取引」
スターチスがムッと怪しむ様な表情を浮かべると、ストックは笑んだまま、手にしたフォークを振りつつ返す。
すると、ストックが俺を見ると一言こう言った。
「あのわんこくんを私にくれたらだけど」
「は?」
「な、どういう……⁉︎」
スターチスの素っ頓狂な声の後、思わず俺も声を上げると、ストックは口角を上げこちらに歩み寄る。
「ムーンやシラユキも良かったけど、すっっっごく、私好みだもの」
「っ」
肩に手をやり顔を寄せてくる。それだけでも、身が固まるが、更にストックは耳元で熱い吐息混じりに囁いた。
「ずっと、閉じ込めたいくらいに……素敵だから」
「……」
顔が熱くなる。それと同時に周りの視線に居た堪れなくなった。
逃げる様に目を瞑ると、背後から別に抱擁され目を開ける。振り向くと、シルヴィアがじっとストックを見つめていた。
「……あら」
「すみません。それだけは、許せないです」
「し、シルヴィア……?」
テンペスタに対しての時か、それ以上か。小さくも低い声が聞こえてくると、ストックが手を止め、目を細める。
笑ってはいるが、何となく怒っているストックの気配に、流石にやばいと思った俺は、シルヴィアに手を出さないように、身を挺して彼女を隠す。
その行動にストックは瞬きすると、溜息をついて身を離す。
「……冗談よ。バカね。まともに受けちゃって」
「……」
「けど、好みなのは嘘じゃないけどね」
そうウィンク混じりに返されると背を向ける。
一先ずはホッとするも、抱きついたままのシルヴィアを見れば、青い尻尾が逆立っていて膨らんでいた。
何がきっかけで諦めたのかは知らないが、あの雰囲気や声色からして、俺を欲していたのは本当だったのだろう。
(さっきから、シルヴィアに助けられてばかりだな)
彼女のおかげで助かったという感謝と同時に、自分に対して情けなく感じてしまう。
とにかく安心させようと、回された彼女の腕に触れて礼を言えば、シルヴィアはゆっくりと離れていった。
「それで? 話してくれるの、してくれないの」
「話すわよ。だからあまり急かさないで」
スターチスに言われ、ストックは若干苛立ち混じりに返す。視線が彼女に向けられる中、ストックは元いた席に戻ると、膝を組んで話し始めた。
「彼は黄道術師の一人で、半神。それは貴方達も知っているでしょ?」
「蠍座の肩書きを持つ魔術師で、毒使い。まあ、そこら辺は知っているけど、俺が知りたいのは」
「彼がどっち側なのかとか、今何しているのかって事でしょ。それに関しては私も分からないわよ。何せ少し前から連絡取れていないし」
「――はぁ」
スターチスが頭を抱える。前にいたキリヤも「引っ張っといてそれか」と小さく苦言を漏らせば、ストックは不機嫌な表情で顔を背ける。
一方で、先程から黙り込んでいた麒麟様は、顔を上げると口を開いた。
「鳳凰は気難しい奴で、滅多に何かに属す事はない筈なんだが……そう見えたんだな。お前には」
「ああ。そう見えたし、朱雀もそれを確認している。だから同じ四霊として、何か知っているかと思ったんだけど」
「そうか」
スターチスの言葉に、麒麟様は頷きつつも俯く。
一進一退を繰り返す話し合いの中、話についていけなくなったのか、視界の端でこっくりと船を漕ぐテンペスタが見え始める。
俺達もまた眠くなり始め、キリヤが気怠げに首や肩を回せば、立ち上がりスターチスに言った。
「とりあえずはこれで止めにしねえか。分からねえ以上はどうにも出来ねえだろ」
「うーん……そうだねぇ。完全に寝に入ってる奴もいるし」
「そうね。私も飽きてきちゃったし、先に行くわ」
そう欠伸をしながらストックは立ち上がり、姿を消す。
麒麟様もまたやる事があるからと言って、この場を後にした。
「そういや俺達テンペスタの神域にいるんだよな。よく麒麟様とストックは自力で出られたな」
「二人は領域や大地の神だし、今回は外部と接続があるから出ようと思えば出られるんだよ。……俺はお前達が心配だからいるけど」
と、言ってスターチスは眠るテンペスタを揺らす。テンペスタは身じろぎして顔を上げると、目を擦りながら「終わったか?」と訊ねてくる。
「決着は付かなかったけど一応ね。だから出してくれない?」
「そうか……分かった」
こくりと頷き、テンペスタは右手を横に払う。と、景色が一瞬でキリヤ達の家の中に戻り、テンペスタはフラフラとしながらソファーに向かい横になる。
「とても眠い。休む」
「おやすみ」
背を向け、再び眠りについたテンペスタにスターチスが呟く。
あまりにも自然な流れだった為、静かに眺めていたが、ハッとしたノルドが「まるで我が家の様に」と呟けばキリヤは苦笑いする。
「ま、神域使いまくっていたし疲れていたんだろ。休ませてやれ」
「……そうだね」
キリヤがそう言うのならと、ノルドもまた笑えば、ブランケットを持ってくると言って部屋を出る。
様子を見ていた俺達は、スズ先生に話しかけられ、そちらを向く。
「では私もこれで。また明日来るとノルドに伝えておいてくれ」
「あ、はい……って、今から帰るんですか? 学校まで遠いんじゃ」
「何、このビルには当てがあるからな。今日はそこで世話になる」
そう先生が笑って言えば、シルヴィアは「それなら大丈夫ですね」と言って、笑みを浮かべる。
一緒に玄関へと向かえば、ブランケットを手にしたノルドと合流し、軽く挨拶を済ませ先生は家を後にした。
それから部屋に戻り、ノルドはテンペスタにブランケットを掛けると、背伸びしながら言った。
「僕達も疲れちゃったね。この後は各自休もっか」
「そうだな」
「それが良いかも」
俺に続き、スターチスもまた腕を伸ばしながら言うと、一人用のソファーに凭れ掛かる。
それを見ながら俺もまた椅子に座ると、シルヴィアも隣に座り息を吐く。
「今日は色々ありましたね……」
「そうだなぁ……」
ようやっと緊張の糸が切れた気がして、声を漏らしながら背伸びする様にテーブルに伏せる。すると、そんなほのぼのした空気を一変する様に、バタンと倒れるような大きな音がする。
顔を上げ、その音に視線を向ければ、そこに倒れていたのは朱雀様だった。
「朱雀⁉︎」
「朱雀様⁉︎」
スターチスと同時にノルドも声を上げ駆け寄る。俺達も心配になって寄れば、ノルド抱えられた朱雀様は辛そうに息をしていた。
シルヴィアが膝をつき、朱雀様の額に手をやると、少し焦った様子で言った。
「すごい熱……」
「まあ元から燃えているけど……」
大丈夫? と、スターチスも声を掛ける。すると、朱雀様は瞼を開いて言った。
「力……入らない……吸われてる」
「吸われてる? 何で?」
「多分……」
そう口にした時、部屋が真っ暗になる。そして外からはサイレンの音が響いた。
この音には流石のテンペスタも起き上がり、ぼんやりとした声で「何があった」と呟けば、それに返す様に部屋に轟音と振動が響いた。
砂埃と共に、外から光が差し込み、瓦礫がリビングになだれ込む中、その瓦礫を踏みつつ中に入ってくる姿が目に入る。
その人物にスターチスは眉を顰め、朱雀様もまた苦しげに呻きながらも睨みつけると、そいつは黄金の炎を纏った拳を振り払い、こちらにやってきた。
「ようやっと効いてきたようだな。朱雀」
「……おま、え」
毛先が青く燃える白い髪が風に揺れ、ギラついた赤い瞳が俺達を見下ろす。
ノルドを押し退け、立ちあがろうとする朱雀様だったが、すぐにふらつき、ノルドに寄りかかれば、鳳凰はそれを見るなり口角を上げた。




